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真面目にふざける創造主


 王宮での謁見を終えた翌日。レティシアは学園側から魔獣討伐や調査を優先する許可を与えられ、授業やテストに関しても、状況によっては『特別免除』される説明を受けた。

 その際に校長からは「貴重な精霊王の契約者ではあるが、まだ十五歳の未成年である。だからこそ無理や無茶をしてご家族を悲しませないように」と伝えられ、少しばかり面食らった。


 一方で、公衆の面前で契約を破棄されたご令嬢──エイダ侯爵令嬢は、この間に学校を退学していた。


「退学処分ではなく、自主退学ってのがまたな……。いや、分かるよ。針の筵状態って辛いもんな。しかも精霊士としてこれから、って時に契約破棄されたんだ。立場的にも在学するのは難しいって分かる。でもなあ……」


 ぼやくレティシアは、現在中庭で『連携授業』を受けている最中だった。とはいえ、本人は先日学園中を沸かせた張本人である。そのため、ほぼこの授業では習うことがない。というより『合格ライン』に達しているということで、何か起きた時に動けるよう待機していてほしい。と言われた側である。


 実際、水の精霊にそっぽを向かれたエイダが気がかりであったが、火の精霊が力を暴走させそうになった瞬間、雪に向かって「進行方向に分厚い壁を作れ」と小さく指示を出す。おかげで火の精霊の放った火球は氷の壁にぶつかると同時に消え、周囲はほっと胸を撫でおろした。


『主よ、そんなにあの女子が気になるのかえ?』

「人類も俺が創ったからな。幾ら最初の子供から血が遠くなろうと、お前らと同じ『我が子』であることには変わらねえよ」

『ふむ……。そういう視点で見ると、確かに心配する気持ちも分からぬわけではない』


 雪の精霊王も『被造物』側だ。だからこそ創造主であるレティシアの発言に『そういう視点もあるか』と納得する。


「家から追い出されたとしても、生粋のご令嬢が平民に混ざって生きていけるわけがない。修道院に送られる道もあるだろうが、場所によっては過酷だからな。俺は社交界に詳しくないが、経験的に分かることもある。一族の名声を揺るがすほどの問題を起こした令嬢が、また表に戻ってくることはねえよ」


 数多の世界を見てきたからこそ言える。おそらくエイダは家を追い出されることになるだろう。その先がどんなものか、レティシアには分からない。それは彼女が『選択した先』で未来などいくらでも変わるからだ。


「“創造主”なんて大層な立場にいるがな、未来は分からねえし、過去も勉強しなきゃ分からねえ。案外ちっぽけな存在なんだよ」


 珍しく憂いを帯びた声で呟いたレティシアは、遊び始めた風の精霊に「こらー。遊ぶなー」と気だるげに注意を促すのだった。



 そんな中迎えた休日。レティシアは初めて一人で町に来ていた。


「ってわけで、行くぞ。冒険者ギルド」

『うむ。ところで、冒険者ギルドとはなんじゃ?』


 キョトンとする雪を他所に、レティシアはズンズンと町中を進んでいく。その恰好は貴族令嬢としての美しいドレス姿でも、学生服姿でもない。砂色の地味なフード付きのマントを羽織った、肌の露出皆無の登山者のような姿であった。


「冒険者ってのは、要するに魔物や魔獣の生息地を探しに各地に行ったり、依頼された色んな仕事を受ける人たちのことだよ」

『ふむ。王家からの依頼ではなく、その冒険者ギルドにも仕事があるということか』

「そういうことだ。むしろ民間での目撃情報なら冒険者ギルドの方が多いはずだからな。こっちに登録しておいても損はねえ」


 説明しながらも石畳で出来た道を歩き、立ち並ぶ店の看板に目をやりながら足を止める。


「ここが冒険者ギルドで間違いなさそうだ」

『みすぼらしい建物よのぉ』

「うちの屋敷と一緒にするんじゃねえよ」


 しっかりと突っ込みを入れつつ、臆することなく颯爽とドアを開ける。同時にあちこちから視線を受けるが、委縮することなくまっすぐ受付へと進んだ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」

「新規登録をしたい。必要なものはあるか?」

「新規のご登録ですね。分かりました。それではまず、こちらの書類に必要事項をご記入ください」


 そう言って一枚の書類と、羽ペンとインクを渡してきたのは耳長族と謳われる“エルフ”であった。

 レティシアは「人族の生活圏にいるエルフとは珍しいな」と思いはしたが、すぐに「一万年の間に生息圏や価値観が変わっててもおかしくないか」と思い直し、名前などを記入していく。


 と、ここで一つ問題が起きた。


「あー……この『パーティー名』って必要なのか?」

「これからパーティーを探すのでしたら、後から登録することも可能です。ですが、もし一人での冒険をご希望の場合、個人の名が変わる可能性がございますので、パーティー名が必要となります」

「ソロなのにパーティー名がいるのかよ……」


 淡々と説明する、丸眼鏡をかけたエルフの受付嬢は「規則ですので」と非常に素っ気ない態度を見せる。それでもレティシアは「しょうがねえ。何か考えるか」と頭を悩ませ──


「よし。《ボッチ》にしよう」


 と手を打つ。一体どこが『よし』なのか分からないが、迷わずパーティー名を埋めた。だが──


「申し訳ございません。パーティー名は却下されました」

「は!? なんでだよ!」

「さあ。魔道具による判定ですので、私にはわかりかねます」

「チクショウ! だったら《ソロプレイヤー》でどうだ!」


 ボッチがダメならソロでどうだ。

 オンラインゲームで友人が一人も出来ないことを格好よく言い換えただけのようなレティシアに、受付嬢は再び首を横に振る。


「こちらも原因不明の不承認が降りました」

「とことん『おひとり様』に厳しい魔道具だなあ、おい」


 再び返却された用紙を前に、レティシアはだんだん「どこまでがセーフなんだ?」と気になり始める。


「フッ。やってやろうじゃねえか。受けて立つぜ。“魔道具からの挑戦状”をよ」

『何の戦いをしようとしておるのじゃ?』


 雪は心底不思議だったが、レティシアは次から次へと『ふざけているのか』と突っ込みたくなるような名前を書いていく。受付嬢も次第に「ふざけていますよね?」と額に青筋を浮かべたが、レティシアは「だって通らねえんだもん」と十代のクソガキを演じ切った。


「ふーむ……。『過労キテイ』もダメ。『帰還者トウマス』もダメ。『デスマーチ』『シングルファーザー』『ゴッドファーザー』もダメときたか。じゃあ何なら通るんだ?」

『絶妙にふざけておるように感じるのは何故じゃろうな』


 この『世界』に戻されるまでは『地球』で働いていた身だ。レティシアは「他に使えるネタ系の名前あったかな」と考えたが、どれも弾かれそうだと判断する。

 最終的に「これが通ったら笑うわ」と書いたパーティー名《ファーマー》が無事承認されてしまい、レティシアは「農家に転職しました! やったね! じゃねえわ!」と脳内で盛大に突っ込んだ。




次回10/9更新予定です。

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