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第7話 いじめ

秋の風が吹いていた。


美咲は小学五年生になっていた。


背も少し伸びた。


勉強も得意になった。


友達もいる。


先生からも信頼されている。



施設に来た頃を知る職員たちはよく言っていた。



「美咲ちゃん、本当に強くなったね。」



その言葉に美咲は笑う。



だけど。


その頃から少しずつ変化が起きていた。



きっかけは些細なことだった。



授業で家族の話になった。



「お父さんとキャンプ行った!」



「お母さんと映画見た!」



子供たちは楽しそうに話している。



その時。


誰かが聞いた。



「美咲の家は?」



教室が静かになる。



美咲は少し困った。



「施設だよ。」



すると。



数人の男子が顔を見合わせた。



その日からだった。



「親いないんだろ?」



「かわいそー。」



最初はそんな言葉だった。



しかし。



子供の悪意は時に残酷だった。



「捨てられたんじゃね?」



「だから施設なんだろ。」



「うわー。」



笑い声。



美咲は聞こえないふりをした。



大丈夫。



気にしない。



そう思った。



だけど。



傷つかないわけがない。



母を失ったこと。



父がいないこと。



自分が一番苦しんできたことだった。



ある日の昼休み。



教室で大切にしていた筆箱がなくなった。



探しても見つからない。



すると。



教室のゴミ箱から出てきた。



ボロボロになって。



折り紙の星も一緒だった。



あのクリスマスにもらった宝物。



ずっと筆箱に入れて持ち歩いていた。



星の角が潰れていた。



美咲は震えた。



「誰がやったの?」



誰も答えない。



笑い声だけが聞こえる。



その瞬間。



何かが切れた。



美咲は星を抱きしめた。



そして。



教室を飛び出した。




放課後。



施設へ帰る。



職員が驚いた。



「美咲ちゃん!?」



目が真っ赤だった。



泣きすぎて声も出ない。



そのまま部屋へ駆け込んだ。




夜。



悠真が呼ばれた。



事情を聞く。



最初は黙っていた。



だが。



職員が折り紙の星を見せた瞬間。



悠真の顔から笑顔が消えた。



今まで見たことがない顔だった。



怒っていた。



静かに。



本気で。



怒っていた。




その夜。



悠真は女子棟へ向かった。



部屋の前で立ち止まる。



ノックする。



「美咲。」



返事はない。



もう一度。



「美咲。」



すると小さな声が返ってきた。



「入って。」



部屋に入る。



美咲はベッドで丸くなっていた。



目は腫れている。



折り紙の星を握りしめたまま。



悠真は隣に座った。



しばらく何も言わなかった。



すると。



美咲がぽつりと呟いた。



「ごめんね。」



「何が?」



「心配かけて。」



その言葉を聞いた瞬間。



悠真の胸が苦しくなった。



傷ついたのは美咲なのに。



謝っている。




「謝るな。」



「でも……」



「謝るな。」



少し強い口調だった。



美咲は驚いて顔を上げた。



悠真の目が赤かった。



泣いているわけではない。



怒っていた。



「施設だから何だ。」



「……。」



「親がいないから何だ。」



「……。」



「母さんはお前を愛してた。」



その言葉に。



美咲の目から涙が溢れた。



「母さんは最後までお前のこと大好きだった。」



「うぅ……。」



「だからそんな奴らの言葉なんか信じるな。」



美咲は泣き出した。



今まで我慢していた分。



全部吐き出すように。



「悔しかったぁ……」



「うん。」



「怖かったぁ……」



「うん。」



「みんなと違うって言われた……」



悠真は妹を抱きしめた。



昔みたいに。



母がしてくれたみたいに。




「逃げてもいい。」



美咲が顔を上げる。



「え?」



「無理なら逃げてもいい。」



「でも……」



「戦わなくていい。」



「……。」



「お前が悪いんじゃない。」



悠真はゆっくり言った。



「辛い時は逃げろ。」



「泣いてもいい。」



「頼ってもいい。」



そして。



少しだけ笑った。



「そのためのお兄ちゃんだろ。」



美咲は声を上げて泣いた。



泣きながら。



何度も頷いた。




その夜。



二人は久しぶりにたくさん話した。



母のこと。



将来のこと。



学校のこと。




そして眠る前。



美咲は折り紙の星を見つめながら思った。



お兄ちゃんみたいになりたい。



強くて。



優しくて。



誰かを守れる人になりたい。



その想いが。



数年後。



彼女の人生を大きく変えることになる。

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