第18話 母からの贈り物
一年が過ぎた。
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悠真は治療を続けていた。
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美咲も看護師として働き続けている。
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以前のように頻繁には会えない。
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それでも。
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二人はよく連絡を取り合っていた。
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もう隠し事はしない。
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辛い時は辛いと言う。
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苦しい時は助けを求める。
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そんな関係になっていた。
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ある秋の日。
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施設から一本の電話が入った。
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「悠真くん?」
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懐かしい声だった。
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昔お世話になった職員。
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「実はね。」
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少し不思議な話があると言う。
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「一度施設へ来られるかな?」
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理由は教えてくれなかった。
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数日後。
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久しぶりに二人で施設を訪れた。
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懐かしかった。
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庭。
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食堂。
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中庭のベンチ。
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たくさんの思い出がある場所。
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職員室へ通される。
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そこで。
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年配の施設長が一つの箱を持ってきた。
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古びた木箱だった。
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「これは……?」
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美咲が首を傾げる。
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施設長は静かに言った。
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「お母さんから預かっていたものです。」
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二人は固まった。
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「え……?」
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母。
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その言葉だけで胸が苦しくなる。
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施設長は続けた。
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「本当は二十歳になったら渡す予定だった。」
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「でも当時の担当職員が退職してしまってね。」
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「保管庫の整理中に見つかったんだ。」
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箱には古い封印がされていた。
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震える手で開ける。
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中には。
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写真。
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小さなお守り。
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そして。
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二通の手紙。
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表には書かれていた。
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『悠真へ』
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『美咲へ』
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その文字を見ただけで。
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涙が滲んだ。
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母の字だった。
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忘れるはずがない。
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二人は静かに封を開く。
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まず悠真。
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便箋を広げる。
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『悠真へ』
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『あなたはきっと私がいなくなったら無理をするでしょう。』
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その一行で。
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悠真は苦笑した。
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まるで見抜かれている。
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いや。
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母には昔から全部お見通しだった。
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続きを読む。
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『だからお願いがあります。』
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『お兄ちゃんになり過ぎないでください。』
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悠真の手が止まる。
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『あなたは優しい子です。』
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『でも優しすぎます。』
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『自分のことも大切にしてください。』
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『助けてもらってください。』
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『甘えてください。』
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『あなたも誰かに守られていいんです。』
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涙が落ちた。
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母は知っていた。
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こうなることを。
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ずっと前から。
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一方。
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美咲も手紙を読んでいた。
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『美咲へ』
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『きっと泣き虫は治っているかな?』
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思わず笑う。
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涙を流しながら。
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『もし治っていたら少し寂しいです。』
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『だって泣くのは弱いことじゃないから。』
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『悲しい時に泣ける人は優しい人です。』
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美咲の肩が震える。
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『お兄ちゃんをたくさん助けてあげてください。』
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『あの子は強そうに見えて本当は弱いから。』
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「お母さん……。」
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声が漏れた。
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さらに最後のページ。
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そこには。
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二人へ向けた言葉が書かれていた。
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『悠真へ』
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『美咲へ』
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『二人とも。』
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『生まれてきてくれてありがとう。』
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『私の子供になってくれてありがとう。』
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『二人と過ごした時間が私の宝物でした。』
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『だから幸せになってください。』
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『それだけが願いです。』
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手紙はそこで終わっていた。
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部屋の中は静かだった。
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誰も話せない。
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悠真も。
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美咲も。
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ただ泣いていた。
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二十年以上前。
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病室で書かれた手紙。
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母は自分が長く生きられないことを知っていた。
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それでも。
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最後まで。
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二人の未来を考えていた。
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愛していた。
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誰よりも。
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帰り道。
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夕焼け空が広がっていた。
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二人は並んで歩く。
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そして。
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悠真が言った。
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「母さん。」
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「すごいな。」
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美咲も笑う。
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「うん。」
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「全部バレてた。」
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「全部だったね。」
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二人は笑った。
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涙を流しながら。
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そしてその時。
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二人はまだ知らない。
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母の手紙に書かれた
『幸せになってください』
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その願いが。
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もうすぐ本当に叶うことを。




