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第17話 兄妹



「もう一人で頑張るな!!」



美咲の声がアパートの廊下に響いた。



悠真は呆然としていた。



こんな美咲を見るのは初めてだった。



泣いている。



怒っている。



そして。



震えている。




「手紙見た。」




「……。」




「病気のことも知った。」




悠真は目を伏せた。




隠し通せると思っていた。




心配を掛けたくなかった。




ただそれだけだった。




しかし。



美咲は涙を流しながら言った。




「なんで言わないの?」




「心配するから。」




「当たり前でしょ!!」




その言葉に。



悠真は何も返せなかった。




美咲は続ける。




「私は家族じゃないの?」




その一言だった。




悠真の胸に深く刺さったのは。




「……違う。」




「じゃあなんで!」




「家族だからだよ。」




声が震えていた。




「家族だから心配させたくなかった。」




静寂。




夕暮れの部屋。




二人とも泣いていた。




美咲は首を振る。




「違う。」




「え?」




「家族だから支えたいんだよ。」




悠真は言葉を失った。




「私だけ守られて。」




「……。」




「お兄ちゃんだけ苦しんで。」




「……。」




「そんなの家族じゃない。」




涙が止まらない。




「私も一緒に背負いたい。」




「美咲……。」




「だって。」




そして。



美咲は笑いながら泣いた。




「私、お兄ちゃんの妹だもん。」




その笑顔を見た瞬間。



悠真の中で何かが崩れた。




ずっと。



ずっと張り詰めていたもの。




母が亡くなった日から。




兄として。



守る側として。




絶対に弱音を吐かないと決めていた。




その壁が。



初めて崩れた。




ぽろり。




涙が落ちる。




悠真自身も驚いた。




「俺さ……。」




声が震える。




「怖かった。」




美咲が顔を上げる。




「え?」




「ずっと怖かった。」




母を失った日。




施設に入った日。




美咲が泣いていた夜。




社会人になった日。




病院で倒れた日。




全部。




本当は怖かった。




でも。



言えなかった。




兄だから。




その言葉に。



美咲は涙を流した。




そして。



兄を抱きしめた。




子供の頃とは逆だった。




今は妹が兄を抱きしめている。




「大丈夫。」




優しく言う。




「私がいるから。」




聞いたことのある言葉。




昔。



何度も。



何度も。



悠真が言ってくれた言葉。




今度は。



妹から兄へ。




その瞬間。



悠真は声を上げて泣いた。




二十年以上。



溜め込んできた涙だった。




悲しみ。



孤独。



不安。



責任。




全部が溢れ出した。




美咲は何も言わない。




ただ。



背中をさすり続けた。




母がしてくれたように。




長い時間が過ぎた。




夜になる。




二人は床に座りながら話した。




昔話。



施設のこと。



母のこと。




そして未来のこと。




「治療する。」




悠真が言った。




「うん。」




「ちゃんと病院行く。」




「うん。」




「約束する。」




美咲は涙を拭いた。




そして笑う。




「よろしい。」




その笑顔に。



悠真も笑った。




久しぶりだった。




未来の話をしたのは。




その夜。



帰る前。



美咲はバッグからある物を取り出した。




小さな折り紙。




星だった。




「また?」




悠真が笑う。




「また。」




美咲も笑った。




「お守り。」




そう言って手渡す。




子供の頃。



兄がくれた星。




今度は。



妹から兄へ。




悠真はそれを握りしめた。




温かかった。




まるで。



家族そのものみたいに。




帰り際。



玄関で美咲が振り返る。




「お兄ちゃん。」




「ん?」




「もう一人じゃないからね。」




悠真は静かに頷いた。




「うん。」




それは。



兄妹になってから初めて。




本当の意味で。



支え合う家族になれた夜だった。




そして一年後。



兄妹は、もう一つの大きな奇跡に出会う。



母が残してくれた最後の贈り物とも言える、その奇跡に――。

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