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第16話 兄からの手紙

夜だった。



仕事を終えた美咲は寮へ戻った。



ポストを開ける。



一通の封筒が入っていた。



差出人。



悠真



思わず笑う。



「珍しいな。」



普段は電話やメッセージばかり。



手紙なんて何年ぶりだろう。




部屋へ戻る。



制服を脱ぐ前に封筒を開いた。




中には一枚の便箋。



そして。



病院の検査結果らしき紙。




美咲は首を傾げた。




まず手紙を開く。




そこには。



悠真らしい綺麗な字が並んでいた。




『美咲へ』



『こんな手紙を書くのは初めてかもしれないな。』




その時点で。



少し嫌な予感がした。




続きを読む。




『先に謝る。』



『ずっと黙っていた。』




美咲の胸がざわつく。




『倒れてからも病院には通っていた。』




呼吸が止まりそうになる。




『本当はあの時、精密検査を勧められていた。』




ページを持つ手が震えた。




『でも大丈夫だと思った。』




その言葉を見て。



美咲は唇を噛んだ。




まただ。




また。



「大丈夫」。




昔から。



いつもそうだった。




続きを読む。




『でも大丈夫じゃなかった。』




目が見開かれる。




『医者から長期治療が必要だと言われた。』




世界が止まった気がした。




『命に関わる病気ではない。』



『だから安心してほしい。』




その一文があっても。



安心などできない。




涙が滲む。




さらに読み進める。




『もし俺に何かあったら』




その瞬間。



「やめて……」




声が漏れた。




読みたくない。




でも。



目が止まらない。




『母さんの写真は美咲が持っていてくれ。』




『折り紙の星も。』




『俺より大事にしてくれるだろ。』




ぽろり。




涙が落ちた。




便箋を濡らす。




『それから。』




『ありがとう。』




『お前がいてくれたから頑張れた。』




『本当に。』




『本当にありがとう。』




美咲はそこで読めなくなった。




涙が止まらない。




「なんで……。」




「なんでこんなの書くの……。」




震える声。




その時。



ふと。



同封されていた検査結果を見る。




そこに書かれていた病名。




美咲は看護師だった。




意味が分かってしまう。




今すぐ命に関わる状態ではない。




だが。



放置していい病気でもない。




しかも。



診断日を見る。




数年前。




病院で倒れた後だった。




つまり。



ずっと隠していた。




ずっと一人で。




美咲の足から力が抜けた。




床に座り込む。




怒り。



悲しみ。



悔しさ。




いろんな感情が溢れる。




その夜。



ほとんど眠れなかった。




翌朝。



休暇申請を出す。




上司が驚いた。




「何かあったの?」




美咲は答える。




「兄のところへ行きます。」




それだけだった。




数時間後。



電車へ飛び乗る。




窓の外の景色が流れていく。




頭の中には。



昔の記憶ばかりだった。




母が亡くなった夜。




「大丈夫。」




施設で泣いた夜。




「大丈夫。」




いじめられた日。




「大丈夫。」




受験の日。




「大丈夫。」




全部。



全部。



兄だった。




いつだって。



自分を守ってくれた。




なのに。




兄自身は。



誰にも助けを求めなかった。




美咲は涙を拭った。




そして決意する。




今度は違う。




もう。



一人で抱えさせない。




絶対に。




夕方。



列車が駅へ到着する。




美咲は走った。




兄のアパートへ。




全力で。




そして。



部屋の前へ辿り着く。




息を切らしながら。



ドアを見つめる。




震える手でチャイムを押した。




数秒後。



ドアが開く。




そこにいたのは。




少し痩せた。



でも。



いつも通り笑う兄だった。




「美咲?」




その顔を見た瞬間。




美咲の涙が溢れた。




そして。



人生で初めて。



兄に向かって本気で怒鳴った。




「もう一人で頑張るな!!」




その声は。



夕暮れのアパートに響き渡った。

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