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第11話 倒れる

三年が過ぎた。



悠真は二十一歳になっていた。



工場では頼られる存在になっていた。



後輩もできた。



仕事も覚えた。



周囲からは言われる。



「真面目だな。」



「頑張り屋だな。」



「将来はリーダーだな。」




だが。



誰も知らなかった。




悠真がどれだけ無理をしているのか。




残業。



休日出勤。



夜遅くまでの作業。




給料が増えれば。



その分だけ美咲へ送れるお金も増える。




だから断らなかった。




「大丈夫です。」



いつもそう答えていた。




そして。



美咲は高校三年生になっていた。



看護学校を目指して猛勉強中。




電話するたびに言う。




「無理しないでね。」




「ちゃんと寝てね。」




「ご飯食べてる?」




悠真は笑う。




「大丈夫。」




嘘だった。




全然大丈夫じゃなかった。




食事は適当。



睡眠不足。



慢性的な疲労。




それでも。



止まれなかった。




ある夏の日。



工場内は蒸し風呂のようだった。




機械音が響く。



熱気がこもる。




悠真は部品を運んでいた。




その時。



ふらり。




視界が揺れた。




「あれ……?」




耳鳴り。




身体が重い。




呼吸が苦しい。




それでも。



運ぼうとした。




しかし。



次の瞬間。




世界が暗くなった。




ガシャン!!




大きな音。




周囲が騒がしくなる。




「悠真!!」




「誰か救急車!!」




遠くから聞こえる声。




そのまま意識は途切れた。




・・・



・・・



・・・




気が付くと。



白い天井だった。




消毒液の匂い。




規則正しく鳴る機械音。




見覚えのある景色。




病院だった。




「……。」




ぼんやりと天井を見上げる。




身体が重い。




すると。



何か温かいものを感じた。




手だった。




誰かが握っている。




ゆっくり視線を向ける。




そこにいたのは。




美咲だった。




二十歳になった妹。




俯いたまま。



手を握っている。




肩が震えていた。




泣いている。




「……美咲?」




その声で。



美咲が顔を上げた。




真っ赤な目。




泣き腫らした顔。




そして。



次の瞬間。




「バカぁ……!!」




病室に響く声。




「心配したんだからぁ!!」




涙が溢れる。




「なんで無理するの!?」




「なんで言わないの!?」




「なんで一人で頑張るの!?」




次々と飛び出す言葉。




悠真は驚いていた。




こんなに怒る美咲を初めて見た。




そして。



こんなに泣く美咲も。




「ごめん。」




小さく謝る。




すると。



美咲は首を振った。




「違う。」




「謝ってほしいんじゃない。」




「生きててほしいの。」




その言葉が胸に刺さった。




悠真は何も言えなかった。




しばらく沈黙が続く。




その後。



美咲は少し落ち着いた。




椅子に座る。




そして小さく笑った。




「覚えてる?」




「何を?」




「施設に来たばかりの頃。」




「うん。」




「私、毎日泣いてた。」




「そうだったな。」




「その時いつも言ってたよね。」




悠真は苦笑する。




「何て?」




美咲は涙を拭きながら言った。




「大丈夫。」




「僕がお兄ちゃんだから。」




病室が静かになる。




懐かしい言葉だった。




母を亡くした夜。



何度も言った言葉。




すると。



美咲が悠真の手を握った。




昔とは逆だった。




今は。



妹が兄の手を握っている。




「今度は私が言う。」




「え?」




「大丈夫。」




優しく笑う。




「私がいるから。」




その瞬間。



悠真の目が熱くなった。




泣きそうになる。




だけど。



なんとか堪えた。




まだ。



自分は兄だから。




そう思っていた。




しかし。



気付かないうちに。




守られていた。




ずっと。



少しずつ。




大人になった妹に。




そして病室の窓の外では。



夏の青空が広がっていた。



母が見ていたら。



きっと笑っていただろう。



「二人とも大きくなったね」



そう言いながら。

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