第5話「兵士の食事」
城壁の外では、兵士たちが食事をしていた。
私はその場にいなかった。
だから、これは私が見た記録ではない。
後になって、ギヨームがぽつりぽつりと話したことだ。
彼は門の上にいた。
いつものように。
けれど、その夜だけは、門を守っているというより、町が囲われていくのを見せられているようだったと言った。
城壁の外、畑の端に焚き火が並んでいた。
一つではない。
二つでもない。
道に沿って、小さな火がいくつも置かれていた。
火は、近くで見れば暖かい。
遠くから見ると、数になる。
数になると、力になる。
ギヨームはそれを数えなかった。
数え始めたら、門の厚さを信じられなくなるからだ。
兵士たちは、火のそばでパンをかじっていた。
硬いパンだったという。
水に浸さなければ、歯が欠けそうなパン。
豆を煮た鍋もあった。
塩気の強い肉が、革袋から出されていた。
匂いは城壁の上まで届かなかった。
だが、食べる動きは見えた。
膝に椀を置く者。
槍を肩へ立てかけたまま、片手でパンを裂く者。
剣を磨きながら、豆を口に運ぶ者。
人は食べる時、少しだけ家の顔になる。
その顔が、ギヨームには嫌だった。
獣ならよかった、と彼は言った。
獣なら、門の外にいるものとして見られた。
だが彼らは、人だった。
食べる。
笑う。
熱い鍋の縁で指を火傷しかけ、舌打ちする。
故郷のパンの方がましだと文句を言う。
そして、そのすぐ横で剣を磨く。
その同じ手で、明日の朝には門を叩くかもしれない。
ギヨームは、それが一番腹立たしかったらしい。
「人間の手だった」
彼は後でそう言った。
「槍だけなら、門で止められる気がする。手は駄目だ。手は、何でもできる」
その夜、風は町の内側から外へ流れていた。
だから町の声は、兵士の方へ届いただろう。
白い印を塗る刷毛の音。
誰かが戸を叩く音。
子どもが泣きかけて、すぐ口を押さえられる声。
それらが城壁を越えたかどうか、私には分からない。
だが、兵士たちは時々、町の方を見たという。
気にしていない顔で。
気にしている者の見方で。
若い兵がひとり、パンをちぎりながら言った。
「中に子どもはいるのか」
ギヨームには、その声が聞こえた。
門の上は、夜になると遠い声を拾う。
昼には馬車の音に紛れるものが、夜には石に沿って届く。
若い兵は、まだ頬に丸さが残っていたという。
兜を外していた。
髪に藁がついていた。
たぶん、さっきまで荷の上に寝転んでいたのだろう。
彼はパンを手にしたまま、町の壁を見ていた。
白い印は、外からはまだ見えない。
壁があるからだ。
壁の向こうで家々が白く分けられていることを、兵士たちは知らない。
知らないまま、町ごと見ていた。
「中に子どもはいるのか」
若い兵はもう一度言った。
隣にいた古参兵が、鍋をかき混ぜる手を止めなかった。
「どの町にもいる」
短い答えだった。
若い兵は黙った。
だが、黙りきれなかった。
「この前の村にもいた」
「いたな」
「泣いてた」
「子どもは泣くもんだ」
「母親も」
「母親も泣くときはある」
古参兵は、豆を椀に移した。
湯気が上がる。
彼はその湯気を顔に受けながら、町を見なかった。
「考えるな」
若い兵は、パンを握り潰した。
「考えないで、できるのか?」
「できるようになる」
「なりたくない」
「なら、最初に考えるな」
その言い方は、慰めではなかった。
命令でもなかった。
手順だった。
熱い鍋を持つ時は布を挟め。
刃を磨く時は手前へ引くな。
町を見る時は、子どもの数を考えるな。
同じ種類の教えとして言われていた。
だから怖い。
人は、残酷になる時だけ声を荒げるわけではない。
慣れる時にも、静かになる。
若い兵はしばらく黙っていた。
やがて、小さく言った。
「俺の妹は、七つだ」
「聞いていない」
「春に歯が抜けた」
「聞いていないと言った」
「抜けた歯を、袋に入れて持っていた。母親に捨てられそうになって泣いて」
古参兵は、そこでようやく若い兵を見た。
怒った顔ではなかったという。
疲れた顔だった。
何度も同じ話を聞いたことのある顔。
聞くたび、少しずつ自分の中の何かを閉めてきた顔。
「その話は、火のそばでするな」
「なぜ?」
「火は人を家に戻す」
古参兵は豆を口に入れた。
「心が家に戻ったまま、命令は聞けない」
若い兵は、口を閉じた。
ギヨームは城壁の上で、その沈黙を聞いていた。
聞こえるはずのないものまで聞こえる夜だった、と彼は言った。
焚き火の薪が弾ける音。
椀の縁に匙が当たる音。
革袋の水を飲む音。
剣に油を塗る布の音。
町の内側では、白い石灰が乾いていく。
町の外側では、刃に油が染みていく。
どちらも、明日に備えている。
そのことに気づいた時、ギヨームは門の鉄金具に手を置いた。
冷たかった。
鉄はいつも冷たい。
だがその夜は、鉄だけが正直な気がしたという。
冷たいものは、冷たい顔をしている。
人間は違う。
火に当たり、温かいものを食べ、誰かの家族の話をする。
その顔で、朝になれば命令を聞く。
別の兵士が笑った。
「おい、壁の上の番人がこっちを見てる」
ギヨームのことだった。
若い兵が顔を上げる。
古参兵も、ちらりと見た。
ギヨームは身を隠さなかった。
城門番が壁の上にいるのは当然だ。
見られて困ることはない。
困るのは、見ているものの意味だった。
「手を振ってやれ」
誰かが言った。
別の兵が笑った。
若い兵は笑わなかった。
古参兵も笑わなかった。
鍋の中身をかき混ぜ続けていた。
「あの門、古いな」
若い兵が言った。
「古い門ほど、閉め方を知っている」
古参兵が返した。
「開け方も?」
「開けさせ方を知っている者がいれば、同じだ」
ギヨームは、その言葉を聞いて歯を食いしばった。
門を開けるのは、鍵だけではない。
恐怖も開ける。
飢えも開ける。
誰かを差し出せば助かるという考えも、門を内側から開ける。
彼はそのことを、まだ言葉にはできなかった。
だが、腹の底では分かっていた。
町の中で白い印が乾いている間に、門の内側でも別のものが乾いていく。
迷い。
隣人への遠慮。
昨日までの親しさ。
乾けば、ひび割れる。
ひび割れたところへ、外から命令が入ってくる。
兵士たちは食べ終わると、椀を伏せた。
誰かが祈った。
小さな祈りだった。
町の中の祈りと、言葉はたぶん同じだった。
主の名。
赦し。
守り。
勝利。
同じ言葉が、壁の内と外で別の形をしていた。
私はその話を聞いた時、洗礼簿の頁を思い出した。
同じ主の名が、ここにも、そこにもあった。
だが、人は同じ名の下で、互いを囲む。
古参兵は祈らなかった。
ただ椀を拭き、匙を袋へ戻し、剣を取った。
若い兵が聞いた。
「祈らないのか」
「祈ったら、考える」
「考えるな、か」
「そうだ」
古参兵は剣を鞘に入れた。
金属が短く鳴った。
「考えるな」
同じ言葉を、今度は自分に言い聞かせるように言った。
それから、別の兵が焚き火の向こうから歩いてきた。
外套の胸に、赤い十字が縫いつけられている。
手には巻物があった。
食事の火のそばで渡すには、あまりに乾いた紙だった。
彼は古参兵に何かを告げた。
ギヨームには全部は聞こえなかった。
聞こえたのは、一つだけだった。
「夜明け」
その言葉で、焚き火の周りの空気が変わった。
食事の時間が終わる。
家の話をしていた者が、兵士の顔へ戻る。
若い兵は、手の中のパンを見た。
まだ少し残っていた。
食べるか、捨てるか迷っているようだった。
古参兵が言った。
「食え」
「もう」
「朝まで持たない」
若い兵はパンを口に入れた。
噛む音がした。
それから、彼は町の方を見た。
ギヨームは、その顔が忘れられないと言った。
同情ではない。
憎しみでもない。
怖がっている顔だった。
怖がっているのに、立ち上がる準備をしている顔だった。
それが一番、門番には分からなかった。
怖いなら、なぜ来る。
怖いなら、なぜ止まらない。
怖いなら、なぜ明日の朝を待てる。
だが、兵士たちは止まらない。
怖さは命令を止めない。
怖さは、命令を人の形にするだけだ。
やがて、外の陣から使者が出た。
馬には乗っていなかった。
歩いてきた。
その方が、急いでいないように見えるからだろう。
急いでいない者ほど、相手の時間を奪う。
使者は槍を持っていた。
槍先には、細く巻かれた紙が結ばれている。
ギヨームは門の上で、手すりを握った。
門を開けるな。
開けるな。
まだ夜だ。
まだ町は決めていない。
まだ、という言葉が、また彼の中で鳴った。
使者は門の前で止まった。
見上げる。
ギヨームは見下ろした。
どちらの顔にも、火の色が少しずつ当たっていた。
「サン=ヴェールへ」
使者が言った。
声は乾いていた。
「夜明けまで」
ギヨームは答えなかった。
答えなくても、言葉は続いた。
「異端を渡せ」
門の鉄が、ギヨームの手の下で冷えていた。
冷たいのに、彼の掌だけが熱かった。
町の中では、白い印が乾いている。
町の外では、食事を終えた兵士たちが立ち上がっている。
夜明けまで。
その言葉が、城壁の石に当たり、町の中へ落ちていった。




