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告発の年代記 〜真実を書いたはずの記録が、人を殺す証拠になっていた〜  作者: 三交代制コーヒーライター
第2章 異端の町

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第5話「兵士の食事」

城壁の外では、兵士たちが食事をしていた。


 私はその場にいなかった。


 だから、これは私が見た記録ではない。


 後になって、ギヨームがぽつりぽつりと話したことだ。


 彼は門の上にいた。


 いつものように。


 けれど、その夜だけは、門を守っているというより、町が囲われていくのを見せられているようだったと言った。


 城壁の外、畑の端に焚き火が並んでいた。


 一つではない。


 二つでもない。


 道に沿って、小さな火がいくつも置かれていた。


 火は、近くで見れば暖かい。


 遠くから見ると、数になる。


 数になると、力になる。


 ギヨームはそれを数えなかった。


 数え始めたら、門の厚さを信じられなくなるからだ。


 兵士たちは、火のそばでパンをかじっていた。


 硬いパンだったという。


 水に浸さなければ、歯が欠けそうなパン。


 豆を煮た鍋もあった。


 塩気の強い肉が、革袋から出されていた。


 匂いは城壁の上まで届かなかった。


 だが、食べる動きは見えた。


 膝に椀を置く者。


 槍を肩へ立てかけたまま、片手でパンを裂く者。


 剣を磨きながら、豆を口に運ぶ者。


 人は食べる時、少しだけ家の顔になる。


 その顔が、ギヨームには嫌だった。


 獣ならよかった、と彼は言った。


 獣なら、門の外にいるものとして見られた。


 だが彼らは、人だった。


 食べる。


 笑う。


 熱い鍋の縁で指を火傷しかけ、舌打ちする。


 故郷のパンの方がましだと文句を言う。


 そして、そのすぐ横で剣を磨く。


 その同じ手で、明日の朝には門を叩くかもしれない。


 ギヨームは、それが一番腹立たしかったらしい。


「人間の手だった」


 彼は後でそう言った。


「槍だけなら、門で止められる気がする。手は駄目だ。手は、何でもできる」


 その夜、風は町の内側から外へ流れていた。


 だから町の声は、兵士の方へ届いただろう。


 白い印を塗る刷毛の音。


 誰かが戸を叩く音。


 子どもが泣きかけて、すぐ口を押さえられる声。


 それらが城壁を越えたかどうか、私には分からない。


 だが、兵士たちは時々、町の方を見たという。


 気にしていない顔で。


 気にしている者の見方で。


 若い兵がひとり、パンをちぎりながら言った。


「中に子どもはいるのか」


 ギヨームには、その声が聞こえた。


 門の上は、夜になると遠い声を拾う。


 昼には馬車の音に紛れるものが、夜には石に沿って届く。


 若い兵は、まだ頬に丸さが残っていたという。


 兜を外していた。


 髪に藁がついていた。


 たぶん、さっきまで荷の上に寝転んでいたのだろう。


 彼はパンを手にしたまま、町の壁を見ていた。


 白い印は、外からはまだ見えない。


 壁があるからだ。


 壁の向こうで家々が白く分けられていることを、兵士たちは知らない。


 知らないまま、町ごと見ていた。


「中に子どもはいるのか」


 若い兵はもう一度言った。


 隣にいた古参兵が、鍋をかき混ぜる手を止めなかった。


「どの町にもいる」


 短い答えだった。


 若い兵は黙った。


 だが、黙りきれなかった。


「この前の村にもいた」


「いたな」


「泣いてた」


「子どもは泣くもんだ」


「母親も」


「母親も泣くときはある」


 古参兵は、豆を椀に移した。


 湯気が上がる。


 彼はその湯気を顔に受けながら、町を見なかった。


「考えるな」


 若い兵は、パンを握り潰した。


「考えないで、できるのか?」


「できるようになる」


「なりたくない」


「なら、最初に考えるな」


 その言い方は、慰めではなかった。


 命令でもなかった。


 手順だった。


 熱い鍋を持つ時は布を挟め。


 刃を磨く時は手前へ引くな。


 町を見る時は、子どもの数を考えるな。


 同じ種類の教えとして言われていた。


 だから怖い。


 人は、残酷になる時だけ声を荒げるわけではない。


 慣れる時にも、静かになる。


 若い兵はしばらく黙っていた。


 やがて、小さく言った。


「俺の妹は、七つだ」


「聞いていない」


「春に歯が抜けた」


「聞いていないと言った」


「抜けた歯を、袋に入れて持っていた。母親に捨てられそうになって泣いて」


 古参兵は、そこでようやく若い兵を見た。


 怒った顔ではなかったという。


 疲れた顔だった。


 何度も同じ話を聞いたことのある顔。


 聞くたび、少しずつ自分の中の何かを閉めてきた顔。


「その話は、火のそばでするな」


「なぜ?」


「火は人を家に戻す」


 古参兵は豆を口に入れた。


「心が家に戻ったまま、命令は聞けない」


 若い兵は、口を閉じた。


 ギヨームは城壁の上で、その沈黙を聞いていた。


 聞こえるはずのないものまで聞こえる夜だった、と彼は言った。


 焚き火の薪が弾ける音。


 椀の縁に匙が当たる音。


 革袋の水を飲む音。


 剣に油を塗る布の音。


 町の内側では、白い石灰が乾いていく。


 町の外側では、刃に油が染みていく。


 どちらも、明日に備えている。


 そのことに気づいた時、ギヨームは門の鉄金具に手を置いた。


 冷たかった。


 鉄はいつも冷たい。


 だがその夜は、鉄だけが正直な気がしたという。


 冷たいものは、冷たい顔をしている。


 人間は違う。


 火に当たり、温かいものを食べ、誰かの家族の話をする。


 その顔で、朝になれば命令を聞く。


 別の兵士が笑った。


「おい、壁の上の番人がこっちを見てる」


 ギヨームのことだった。


 若い兵が顔を上げる。


 古参兵も、ちらりと見た。


 ギヨームは身を隠さなかった。


 城門番が壁の上にいるのは当然だ。


 見られて困ることはない。


 困るのは、見ているものの意味だった。


「手を振ってやれ」


 誰かが言った。


 別の兵が笑った。


 若い兵は笑わなかった。


 古参兵も笑わなかった。


 鍋の中身をかき混ぜ続けていた。


「あの門、古いな」


 若い兵が言った。


「古い門ほど、閉め方を知っている」


 古参兵が返した。


「開け方も?」


「開けさせ方を知っている者がいれば、同じだ」


 ギヨームは、その言葉を聞いて歯を食いしばった。


 門を開けるのは、鍵だけではない。


 恐怖も開ける。


 飢えも開ける。


 誰かを差し出せば助かるという考えも、門を内側から開ける。


 彼はそのことを、まだ言葉にはできなかった。


 だが、腹の底では分かっていた。


 町の中で白い印が乾いている間に、門の内側でも別のものが乾いていく。


 迷い。


 隣人への遠慮。


 昨日までの親しさ。


 乾けば、ひび割れる。


 ひび割れたところへ、外から命令が入ってくる。


 兵士たちは食べ終わると、椀を伏せた。


 誰かが祈った。


 小さな祈りだった。


 町の中の祈りと、言葉はたぶん同じだった。


 主の名。


 赦し。


 守り。


 勝利。


 同じ言葉が、壁の内と外で別の形をしていた。


 私はその話を聞いた時、洗礼簿の頁を思い出した。


 同じ主の名が、ここにも、そこにもあった。


 だが、人は同じ名の下で、互いを囲む。


 古参兵は祈らなかった。


 ただ椀を拭き、匙を袋へ戻し、剣を取った。


 若い兵が聞いた。


「祈らないのか」


「祈ったら、考える」


「考えるな、か」


「そうだ」


 古参兵は剣を鞘に入れた。


 金属が短く鳴った。


「考えるな」


 同じ言葉を、今度は自分に言い聞かせるように言った。


 それから、別の兵が焚き火の向こうから歩いてきた。


 外套の胸に、赤い十字が縫いつけられている。


 手には巻物があった。


 食事の火のそばで渡すには、あまりに乾いた紙だった。


 彼は古参兵に何かを告げた。


 ギヨームには全部は聞こえなかった。


 聞こえたのは、一つだけだった。


「夜明け」


 その言葉で、焚き火の周りの空気が変わった。


 食事の時間が終わる。


 家の話をしていた者が、兵士の顔へ戻る。


 若い兵は、手の中のパンを見た。


 まだ少し残っていた。


 食べるか、捨てるか迷っているようだった。


 古参兵が言った。


「食え」


「もう」


「朝まで持たない」


 若い兵はパンを口に入れた。


 噛む音がした。


 それから、彼は町の方を見た。


 ギヨームは、その顔が忘れられないと言った。


 同情ではない。


 憎しみでもない。


 怖がっている顔だった。


 怖がっているのに、立ち上がる準備をしている顔だった。


 それが一番、門番には分からなかった。


 怖いなら、なぜ来る。


 怖いなら、なぜ止まらない。


 怖いなら、なぜ明日の朝を待てる。


 だが、兵士たちは止まらない。


 怖さは命令を止めない。


 怖さは、命令を人の形にするだけだ。


 やがて、外の陣から使者が出た。


 馬には乗っていなかった。


 歩いてきた。


 その方が、急いでいないように見えるからだろう。


 急いでいない者ほど、相手の時間を奪う。


 使者は槍を持っていた。


 槍先には、細く巻かれた紙が結ばれている。


 ギヨームは門の上で、手すりを握った。


 門を開けるな。


 開けるな。


 まだ夜だ。


 まだ町は決めていない。


 まだ、という言葉が、また彼の中で鳴った。


 使者は門の前で止まった。


 見上げる。


 ギヨームは見下ろした。


 どちらの顔にも、火の色が少しずつ当たっていた。


「サン=ヴェールへ」


 使者が言った。


 声は乾いていた。


「夜明けまで」


 ギヨームは答えなかった。


 答えなくても、言葉は続いた。


「異端を渡せ」


 門の鉄が、ギヨームの手の下で冷えていた。


 冷たいのに、彼の掌だけが熱かった。


 町の中では、白い印が乾いている。


 町の外では、食事を終えた兵士たちが立ち上がっている。


 夜明けまで。


 その言葉が、城壁の石に当たり、町の中へ落ちていった。

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