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9/12

#8 側に居るだよ

観る小説を、

作っていたんですよ。


過去の話です。

夕食時の『溺れた海豚亭』は、笑い声とジョッキの音で大いに賑わっていた。

木の梁から吊るされたランタンがゆらゆらと揺れ、暖かな光が木製のテーブルを照らしている。

香ばしく焼けた肉の匂いに潮風が混ざり、まるで街そのものが“生きている”ような熱気があった。


その喧騒の中、アゼムは目を輝かせながらステーキにかぶりつく。

頬をふくらませ、夢中でナイフとフォークを動かす姿は子どものようで――エメトセルクは思わず口元を緩めた。


「ふん、今日はエールを頼まないんだな」


「また同じ過ちはごめんです」


「ふっ……それは賢明だ」


二人の笑い声が、酒場のざわめきに溶けていく。

グラスの泡が弾け、遠くのテーブルから誰かの乾杯の声が聞こえた。


「ところで、手強いモンスターは倒さなくてよかったんですか?」


アゼムが口を拭いながら、何気なく尋ねる。


エメトセルクはワインを一口飲み、淡々とした声で答えた。


「……ああ。そもそもモブハントの依頼なんて受けていないがな」


「……え?」


アゼムはナイフを止め、ぽかんと口を開けた。

そして、信じられないというように眉をひそめ、頬をぷくっと膨らませる。


「……む〜っ!」


じとりとした視線で睨みつけると、低くぼそりと呟いた。


「……え、変態ですか? ずっと私のことつけてたってことですよね」


「失敬な。誰が変態だ」


エメトセルクは眉間に皺を寄せ、ため息をつく。


「……つけてたに関しては否定できないがな」


その瞬間、アゼムは口をへの字に曲げ、しかしすぐに吹き出してしまった。

笑いがこみ上げるように、肩を震わせて――

エメトセルクの眉間の皺も、いつの間にかほどけていた。


突然、アゼムの笑顔がふっと消えた。

さっきまでの賑やかな喧騒が、まるで遠くに引いていくように感じられる。


「でも……あの時、エメトセルクさんが居なかったら……」


その声はかすかに震えていた。

笑おうとしても、頬が引きつる。視線がテーブルの木目に落ち、そこにぽたりと涙が落ちる。


エメトセルクは静かに目を細め、深く息を吐いた。


――やれやれ……。こういうのが一番苦手だ。


それでも、見捨てられるはずがなかった。


「……厭だ厭だ。……そんな顔するな。私が側に居るだろ」


その声は、皮肉でも威圧でもなく、どこまでも穏やかだった。

アゼムは唇を噛みしめ、膝に置いた手をぎゅっと握る。


「……ふ、っ……く……ありがとうございます……」


嗚咽が漏れ、肩が小刻みに震えた。


「……やれやれ」


苦笑まじりの吐息とともに、エメトセルクは静かに立ち上がり、席を移る。

椅子の軋む音が小さく響いた。


彼は何も言わず、アゼムの背中に手を添える。

ゆっくりと、優しく、涙の余韻を撫でるように。


その手の温もりに、アゼムの震えが少しずつ収まっていった。

外では波の音が微かに聞こえる。

まるでそれが『もう大丈夫だ』と告げているかのように。


どれくらいの時間が流れただろうか。

アゼムは泣き疲れ、エメトセルクの肩にもたれたまま、静かに眠りに落ちていた。


涙の跡が頬を伝う寝顔を見つめながら、エメトセルクはふと目を細める。


――こいつを、守らねば。


外へと通じる通路から夜風がそよぎ、酒場の灯りが柔らかく揺れる。

潮の香りを含んだ空気が二人を包み、遠くの港の波音と街のざわめきが溶け合って、穏やかな時間だけが、静かに流れていた。


エメトセルクはアゼムの肩を軽く揺さぶり、低く声をかけた。


「おい、起きろ。寝るなら宿屋でにしてくれ」


「……ん〜……」


返ってきたのは間の抜けた声。寝ぼけたまま、アゼムはそのまま彼にしがみつく。


「……待て。これは……またなのか?」


エメトセルクの眉がぴくりと動く。頬にかすかに朱が差し、息を吐くようにため息をついた。


「やれやれ……面倒な奴だ」


彼は半ば抱きかかえるようにして、ふらつくアゼムを支えながら宿屋へ向かう。

夜の通りは人影もまばらで、遠くで波の音が静かに響いていた。


受付に立つと、落ち着いた声で言う。


「部屋を一つ、頼む」


「どのタイプのお部屋にしますか?」


受付の主の問いに、エメトセルクは一瞬だけ目を伏せ、わずかに逡巡した。


「……静かな部屋を」

いつか、

サ終したSoraが、

別の名前で実装したら…。

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