#7 手のかかる奴
彼らって、
何者って思いますよね?
それは今は…しー
「お前がリムサまでデジョンするなら、私はテレポで帰還するが……」
エメトセルクの声は淡々としているが、その端々に苛立ちが混じる。
「……デジョン?」
アゼムは首を傾げ、眉を寄せながら小さな声で問い返す。
「ホームポイントはリムサじゃないのか?」
少し間を置き、さらに付け加える。
「お前……やれやれ」
額に手を当て、深いため息をひとつ。
肩がわずかに落ちる。
アゼムの純粋そうな瞳を見て、エメトセルクは諦め半分、呆れ半分で口を開く。
「ホームポイントへ帰投する魔法だ。要するに、お前がここに来る前に登録した場所に瞬間移動する魔法ってことだ」
その口調は冷静だが、どこか手を差し伸べるような響きも混ざっている。
「いいから試してみろ」
短く、けれど確かな指示。アゼムが戸惑いながらも試そうとするのを、肩越しにじっと見守る。目元にわずかな柔らかさが滲み、内心では――面倒だが、放っておけない――と思っているのが透ける。
アゼムが手を伸ばすと、エメトセルクは少し体を引き、距離を置きつつも視線は逸らさない。
「……厭だ厭だ、変なことしないでくれよ」
皮肉交じりの声が、ほんの少しの心配を伴って風に溶けた。
おそるおそる詠唱したアゼムの身体は、淡い光に包まれ、ふわりと宙に浮くように消えた。
エメトセルクも小さくため息をひとつつき、冷静にテレポを唱え、リムサへと向かう。
---
賑わいに満ちたリムサ・ロミンサのエーテライト広場。
潮風に混じる港町の匂い、かけ声や足音、木製の床を擦る靴音が周囲に溢れる中、エメトセルクは人混みの中で慎重に視線を巡らせた。
ほどなくして、膝をつき、顔を青ざめたアゼムを見つける。
手で口元を押さえ、まるで吐きそうなほどに身体を震わせていた。
「……なにこれ……目が回る……うっ!……気持ち悪い……」
その声は震え、息も浅く、まるで世界がぐるぐると回っているかのように聞こえた。
「見つけた。大丈夫か?」
エメトセルクの声は落ち着き切っていたが、鋭い視線の奥には細やかな気遣いが潜んでいる。
「だ……大丈夫じゃ……ない……です……」
声がかすれ、肩を小さく揺らすアゼムに、エメトセルクは眉間にわずかなしわを寄せる。
――かつて自分も同じ苦しみを味わった。
瞬間移動の光に身体を委ね、思わず吐きそうになったあの記憶がよみがえる。
「……そのうち慣れる。安心しろ」
低く、淡々とした声だが、言葉の端にはわずかな優しさが混ざる。
アゼムの震える手に、軽く自分の手を差し伸べる。
周囲の喧騒が一瞬遠のいたかのように感じられた。
彼は静かにアゼムの腕を支え、潮風の香る夜の港を少し歩き、ほどなくしてベンチへと導いた。
木の冷たさが手に伝わるが、落ち着いた空気の中でアゼムはまどろみ、ゆっくりと瞼を閉じる。
やがて、無意識にエメトセルクの肩にもたれかかり、呼吸を整えながら眠りに落ちていった。
「やれやれ……おい、起きろ!」
彼は静かな苛立ち混じりに声をかけ、肩を軽く揺さぶる。
その揺れにアゼムは驚き、弾かれるように目を見開いた。
「……ふぁ!?」
頭上には星が瞬き、海面に反射する月光が揺らめく。
港の灯火が潮風に揺れ、波のざわめきと混じって柔らかい音色を奏でていた。
街の喧騒は遠く、夜の静けさに溶けている。
エメトセルクは淡々とアゼムを見下ろす。
「歩けるか」
「はい、酔いは覚めました!」
アゼムの元気な返事に、エメトセルクは小さく肩をすくめ、鼻先で軽く笑う。
「これから酒場に行くが……食べられそうか?」
「はい! お腹ペコペコです!」
その元気に、エメトセルクはわずかに口端を緩め、内心で小さくため息をついた。
「やれやれ……本当に、手のかかる奴だ」
二人はベンチを離れ、港沿いの石畳を並んで歩き始める。
夜風が髪を揺らし、波の香りが鼻をくすぐる。
エメトセルクの腕にかかるアゼムの軽い重みが、微かに心地よく感じられた。
港町の灯火と遠くの星々が交差する中、エメトセルクは静かに歩幅を合わせる。
口調は冷静だが、心のどこかでアゼムの元気さにほだされている自分を自覚し、わずかな皮肉とともに、ほんの少しの優しさを滲ませていた。
波音と灯火に包まれたその夜、二人の影は並んで伸び、互いの距離感を保ちながらも、確かに存在を意識する静かな一体感が生まれていた。
彼らは、
冒険者ですよ。
英雄とは、ちょっと違うけど。




