#6 見ていられない
ドードーが好きです。
だって、
可愛いですし、アホっぽいので。
アゼムは手早くエーテライトに触れ、その光に包まれると、あっという間にゼファー陸門へと転移した。
「わぁ〜!」
思わず声が漏れる。
目の前に広がるのは、緑と空のコントラストが鮮やかな大地。
遠くには青い山並みが連なり、風が頬を撫でる。
胸の奥で小さく高鳴る鼓動に、アゼムの足取りも自然と弾む。
スリーマルム・ベンドの砂利道を抜け、西ラノシアの広大な平原へと歩を進める。
初めて足を踏み入れる土地に、期待とわずかな緊張が入り混じる。
空気の匂いや風の冷たさまでもが、新鮮に感じられた。
やがてスウィフトパーチ入植地に到着すると、ギルドリーヴ発行者のスヴィグスキフが明るく声をかけてきた。
「あなたが、捜索任務を受けてくださった冒険者ですね」
「あ、はい! 任務、頑張ります!」
アゼムの声には、まだ子どもじみたけれど真剣な熱意が込められていた。
「威勢がいいですね。任務が終わったら、必ず私に報告してください。報酬をお渡しいたします」
「わかりました! 行ってきます!」
小さく深呼吸をひとつ、アゼムは胸を張り、任務への一歩を踏み出す。地面に触れる草の感触や、頭上を飛ぶ鳥たちの鳴き声が、これから始まる冒険をそっと後押ししてくれているようだった。
目的地に到着すると、アゼムは周囲を見渡し、慎重に足を進めながら捜索を開始した。
「ドードーの有精卵か…温かい…」
そっと手を伸ばし、卵を拾い上げた瞬間――背後から、低く唸る羽音が迫ってきた。
振り返る間もなく、フェラル・ドードーが全身の力を振り絞るように襲いかかってきたのだ。
「しまった!」
アゼムは両手で斧を握り、地面を蹴って踏み込みながら力強く斬撃を繰り出す。
羽ばたく音が耳を切り裂き、土埃が視界を一瞬覆う。
どうにか一体を倒すことには成功したが、心臓の鼓動は早く、息が荒くなる。
「ふふ…案外楽勝ね!」
胸を張り、集めた卵を抱え直した。
その瞬間――
「ギョエェェェーッ!!」
群れをなしたドードーたちが、まるで渦を巻くかのように押し寄せてきた。
視界いっぱいに飛び交う羽、蹴り上げられる砂、F.A.T.E.の発生に巻き込まれた瞬間、アゼムは一歩も退けない状況に追い込まれる。
「やるしかない!」
両手で斧を握り直し、全身の力を込めて必死に応戦する。
次々と迫る敵に立ち向かうたび、体力は削られ、肩も脚も悲鳴を上げる。
汗と砂にまみれ、涙で視界が滲む中、アゼムは声を震わせながら呟く。
「全然…全然! 大丈夫じゃなかった…」
――心の中で、もうここまでか、と弱音が走る。
しかし、まだ諦めるわけにはいかない。
振り返れば卵がまだ残っている。
ここで逃げるわけにはいかない。
――それだけが、アゼムの心を支えていた。
その次の瞬間、アゼムの体がふわりと輝き、傷が癒え力が戻る。
「…厭だ厭だ。見ていられない」
振り返ると、エメトセルクが杖を握り、ファイアを解き放つ。
炎の小さな閃光がドードーの群れの足元に走り、足止めされてよろめく。
アゼムの両手の斧が光を反射し、斬撃を繰り出す。
エメトセルクの杖がわずかに光り、攻撃を補助する。
ドードーたちは戸惑いながらも逃げ惑い、数は次第に減っていった。
「!!! エメトセルク!!」
恐怖で固まっていた心が、彼の炎を目にして勇気に変わる。
「泣いてる暇があったら前を見て戦え! 援護する!」
アゼムは深呼吸し、両手で斧を握り直す。
燃え盛る炎の中で、一体ずつドードーを斬り倒す。
炎の熱と光が周囲を照らし、戦場に緊張と迫力が満ちる。
「は、はい! ありがとうございます!! うりゃぁぁ!!」
アゼムの斧が一閃するたび、炎に押されたドードーたちがよろめき、やがて群れは散り散りになる。
戦場に静寂が戻ると、F.A.T.E.は完了していた。
安堵と疲労で膝をつき、斧を地面に置くアゼム。
涙が頬を伝い、心から感謝の声が漏れる。
「エメトセルクさんが居なかったら…私、死んでましたぁぁ…」
肩をすくめ、鼻で笑うエメトセルク。
冷静な口調だが、少しだけ楽しげな響きが混じる。
「やれやれ…冒険者ギルドでの威勢はどこへ行ったのやら。お前、依頼を報告しなくていいのか?」
「あっ! 行ってきます!」
アゼムは卵を抱え直し、足早にスヴィグスキフのもとへ向かう。
胸はまだ戦場の熱と、守ってくれたエメトセルクへの感謝で高鳴っていた。
「終わりました!」
「もうお戻りですか。ご苦労さまです。依頼人も、さぞ喜んでいることでしょう。では、報酬をお受け取りください」
「ありがとうございます!」
笑顔を輝かせ、胸を張って受け取るアゼム。
その小さな背中には、戦場で得た自信と炎の中での恐怖を乗り越えた誇りが滲んでいた。
そこへ、エメトセルクが静かに近づいてきた。
「報告は終わったか?」
低く落ち着いた声が、海風のざわめきにかき消されそうになりながらも、アゼムの耳に届く。
「あ!はい、終わりました」
アゼムは小さく胸を張り、誇らしげに答えるが、首をかしげてエメトセルクを見上げる。
「あの…どうしてここに?」
「……いや、別に。手強いモンスターを見に来ただけだ」
その口調は冷静だが、目元には微かな光が残っていた。
「ここ近辺ですか?!見たいです!」
アゼムは好奇心に駆られ、思わず声を上げる。
エメトセルクは口元をわずかに歪め、笑いを堪える。
「…クッ!」
「?」
首をかしげるアゼムに、エメトセルクはついに肩の力を抜き、笑いをこぼした。
「な…何でもない……フッハッ!」
アゼムは核心に迫るように、少し警戒めいた目で見上げる。
「笑いすぎです……また私をからかってます?」
息を整えながら、エメトセルクは視線をそらしつつ答える。
「……いや、別に」
「あと…ヒール使ってましたよね?」
指摘に、エメトセルクはわずかに肩をすくめ、少しだけ俯く。
「………。リムサに戻るぞ」
そう言い放つと、無言で踵を返す。
「え…無視?!」
アゼムは慌ててその後を追い、短い足取りで必死に追いかける。
スウィフトパーチ入植地を抜けた広々とした平原を歩く途中、エメトセルクがふと足を止め、無表情のまま振り返った。
「お前、エーテライト、開放したか?」
淡々とした声に、わずかに苛立ちが混じる。
けれど、その裏には小さな期待も垣間見える。
アゼムは目を丸くし、慌てて走り出す。
「あ、はいっ!」
肩で息を切らしながらも、地面を蹴る足は軽快で、まるで風に押されているかのようだ。
ほどなくしてアゼムはエーテライトの前に立ち、手をかざす。
淡い光が指先を包み、掌に温もりが伝わる。
光に照らされた瞳が少しだけ輝くのを見て、エメトセルクは小さく鼻で笑った。
――やれやれ…まったく、世話のかかる手強いモンスターだ。
声には出さず、内心で呟く。冷たいようでいて、少しだけ愛着を感じる面倒な後輩。
目の前で必死に駆ける姿に、苛立ち半分、困惑半分の感情が混ざる。
「…厭だ厭だ、手間ばかりかかるな」
肩をすくめる仕草に、皮肉と呆れが滲む。
しかしその目は、アゼムの純粋な熱意を静かに受け止めていた。
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