表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/9

#6 見ていられない

ドードーが好きです。

だって、

可愛いですし、アホっぽいので。

アゼムは手早くエーテライトに触れ、その光に包まれると、あっという間にゼファー陸門へと転移した。


「わぁ〜!」


思わず声が漏れる。

目の前に広がるのは、緑と空のコントラストが鮮やかな大地。

遠くには青い山並みが連なり、風が頬を撫でる。

胸の奥で小さく高鳴る鼓動に、アゼムの足取りも自然と弾む。


スリーマルム・ベンドの砂利道を抜け、西ラノシアの広大な平原へと歩を進める。

初めて足を踏み入れる土地に、期待とわずかな緊張が入り混じる。

空気の匂いや風の冷たさまでもが、新鮮に感じられた。


やがてスウィフトパーチ入植地に到着すると、ギルドリーヴ発行者のスヴィグスキフが明るく声をかけてきた。


「あなたが、捜索任務を受けてくださった冒険者ですね」


「あ、はい! 任務、頑張ります!」


アゼムの声には、まだ子どもじみたけれど真剣な熱意が込められていた。


「威勢がいいですね。任務が終わったら、必ず私に報告してください。報酬をお渡しいたします」


「わかりました! 行ってきます!」


小さく深呼吸をひとつ、アゼムは胸を張り、任務への一歩を踏み出す。地面に触れる草の感触や、頭上を飛ぶ鳥たちの鳴き声が、これから始まる冒険をそっと後押ししてくれているようだった。


目的地に到着すると、アゼムは周囲を見渡し、慎重に足を進めながら捜索を開始した。


「ドードーの有精卵か…温かい…」


そっと手を伸ばし、卵を拾い上げた瞬間――背後から、低く唸る羽音が迫ってきた。

振り返る間もなく、フェラル・ドードーが全身の力を振り絞るように襲いかかってきたのだ。


「しまった!」


アゼムは両手で斧を握り、地面を蹴って踏み込みながら力強く斬撃を繰り出す。

羽ばたく音が耳を切り裂き、土埃が視界を一瞬覆う。

どうにか一体を倒すことには成功したが、心臓の鼓動は早く、息が荒くなる。


「ふふ…案外楽勝ね!」


胸を張り、集めた卵を抱え直した。

その瞬間――


「ギョエェェェーッ!!」


群れをなしたドードーたちが、まるで渦を巻くかのように押し寄せてきた。

視界いっぱいに飛び交う羽、蹴り上げられる砂、F.A.T.E.の発生に巻き込まれた瞬間、アゼムは一歩も退けない状況に追い込まれる。


「やるしかない!」


両手で斧を握り直し、全身の力を込めて必死に応戦する。

次々と迫る敵に立ち向かうたび、体力は削られ、肩も脚も悲鳴を上げる。

汗と砂にまみれ、涙で視界が滲む中、アゼムは声を震わせながら呟く。


「全然…全然! 大丈夫じゃなかった…」


――心の中で、もうここまでか、と弱音が走る。


しかし、まだ諦めるわけにはいかない。

振り返れば卵がまだ残っている。

ここで逃げるわけにはいかない。


――それだけが、アゼムの心を支えていた。


その次の瞬間、アゼムの体がふわりと輝き、傷が癒え力が戻る。


「…厭だ厭だ。見ていられない」


振り返ると、エメトセルクが杖を握り、ファイアを解き放つ。

炎の小さな閃光がドードーの群れの足元に走り、足止めされてよろめく。


アゼムの両手の斧が光を反射し、斬撃を繰り出す。

エメトセルクの杖がわずかに光り、攻撃を補助する。

ドードーたちは戸惑いながらも逃げ惑い、数は次第に減っていった。


「!!! エメトセルク!!」


恐怖で固まっていた心が、彼の炎を目にして勇気に変わる。


「泣いてる暇があったら前を見て戦え! 援護する!」


アゼムは深呼吸し、両手で斧を握り直す。

燃え盛る炎の中で、一体ずつドードーを斬り倒す。

炎の熱と光が周囲を照らし、戦場に緊張と迫力が満ちる。


「は、はい! ありがとうございます!! うりゃぁぁ!!」


アゼムの斧が一閃するたび、炎に押されたドードーたちがよろめき、やがて群れは散り散りになる。

戦場に静寂が戻ると、F.A.T.E.は完了していた。


安堵と疲労で膝をつき、斧を地面に置くアゼム。

涙が頬を伝い、心から感謝の声が漏れる。


「エメトセルクさんが居なかったら…私、死んでましたぁぁ…」


肩をすくめ、鼻で笑うエメトセルク。

冷静な口調だが、少しだけ楽しげな響きが混じる。


「やれやれ…冒険者ギルドでの威勢はどこへ行ったのやら。お前、依頼を報告しなくていいのか?」


「あっ! 行ってきます!」


アゼムは卵を抱え直し、足早にスヴィグスキフのもとへ向かう。

胸はまだ戦場の熱と、守ってくれたエメトセルクへの感謝で高鳴っていた。


「終わりました!」


「もうお戻りですか。ご苦労さまです。依頼人も、さぞ喜んでいることでしょう。では、報酬をお受け取りください」


「ありがとうございます!」


笑顔を輝かせ、胸を張って受け取るアゼム。

その小さな背中には、戦場で得た自信と炎の中での恐怖を乗り越えた誇りが滲んでいた。


そこへ、エメトセルクが静かに近づいてきた。


「報告は終わったか?」


低く落ち着いた声が、海風のざわめきにかき消されそうになりながらも、アゼムの耳に届く。


「あ!はい、終わりました」


アゼムは小さく胸を張り、誇らしげに答えるが、首をかしげてエメトセルクを見上げる。


「あの…どうしてここに?」


「……いや、別に。手強いモンスターを見に来ただけだ」


その口調は冷静だが、目元には微かな光が残っていた。


「ここ近辺ですか?!見たいです!」


アゼムは好奇心に駆られ、思わず声を上げる。


エメトセルクは口元をわずかに歪め、笑いを堪える。


「…クッ!」


「?」


首をかしげるアゼムに、エメトセルクはついに肩の力を抜き、笑いをこぼした。


「な…何でもない……フッハッ!」


アゼムは核心に迫るように、少し警戒めいた目で見上げる。


「笑いすぎです……また私をからかってます?」


息を整えながら、エメトセルクは視線をそらしつつ答える。


「……いや、別に」


「あと…ヒール使ってましたよね?」


指摘に、エメトセルクはわずかに肩をすくめ、少しだけ俯く。


「………。リムサに戻るぞ」


そう言い放つと、無言で踵を返す。


「え…無視?!」


アゼムは慌ててその後を追い、短い足取りで必死に追いかける。


スウィフトパーチ入植地を抜けた広々とした平原を歩く途中、エメトセルクがふと足を止め、無表情のまま振り返った。


「お前、エーテライト、開放したか?」


淡々とした声に、わずかに苛立ちが混じる。

けれど、その裏には小さな期待も垣間見える。


アゼムは目を丸くし、慌てて走り出す。


「あ、はいっ!」


肩で息を切らしながらも、地面を蹴る足は軽快で、まるで風に押されているかのようだ。


ほどなくしてアゼムはエーテライトの前に立ち、手をかざす。

淡い光が指先を包み、掌に温もりが伝わる。

光に照らされた瞳が少しだけ輝くのを見て、エメトセルクは小さく鼻で笑った。


――やれやれ…まったく、世話のかかる手強いモンスターだ。


声には出さず、内心で呟く。冷たいようでいて、少しだけ愛着を感じる面倒な後輩。

目の前で必死に駆ける姿に、苛立ち半分、困惑半分の感情が混ざる。


「…厭だ厭だ、手間ばかりかかるな」


肩をすくめる仕草に、皮肉と呆れが滲む。

しかしその目は、アゼムの純粋な熱意を静かに受け止めていた。

最後まで、読んで頂き、ありがとうございます。

毎朝7時公開です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ