#5 振り返らない
書いてる時って、
楽しいんですよね。
振り返ると、小っ恥ずかしくなる。
潮風が街角を撫で、二人の距離は自然と少し開いた。
だが、互いの存在は確かに意識されている――そんな微妙な空気がリムサ・ロミンサの賑やかな街に、ひそやかに漂っていた。
エメトセルクのあの一言が、アゼムのプライドをくすぐる。
小さく唇を尖らせ、ムスッとした表情で呟く。
「あんな言い方しなくたって…」
気を取り直すように、アゼムは酒場『溺れた海豚亭』に足を運ぶ。
冒険者ギルド受付のバデロンに向かい、声を弾ませて話しかける。
「依頼を受けに来ました。何かお手伝いできることはありませんか?」
バデロンはにこやかに応じ、やや残念そうな表情で首を振る。
「よう、アゼム。申し訳ねぇ、あいにく今日は依頼はなくてな…そうだな、ギルドリーヴってのはどうだ?」
丁寧に説明されるギルドリーヴの仕組みに、アゼムの目がきらりと光る。
「チャ・モクリさんに話しかければいいのですね。わかりました、ありがとうございます!」
アゼムは軽やかな足取りでギルドリーヴ発行者、チャ・モクリのもとへ向かう。
受付の小さな窓口を前にして、少し緊張しつつも期待に胸を膨らませる。
「傭兵稼業を受注したいのですが、どんな仕事がありますか?」
チャ・モクリは新人を迎えるように微笑み、手元の書類を示す。
「新人さんかい?“索敵任務”・“捜索任務”・“追撃任務”・“懐柔任務”があるよ。どれにする?」
アゼムは一瞬考え、目を輝かせ、胸を張る。
まるで冒険の始まりを予感した子どものようだ。
「ん〜、どれにしようかな〜…決めた!捜索任務!私に任せてください!」
その声には純粋な好奇心と期待がこもり、自然と背筋が伸びる。
小さな胸の中で、冒険のワクワク感が膨らんでいくのを、アゼム自身も感じていた。
酒場を出ようとした。
その瞬間――
「うっうわぁ!!」
アゼムの胸が跳ね、思わず声を上げた。
通路の片隅に、壁にもたれかかる影がある。
目を凝らすと、そこにいたのは…。
――エメトセルクだ。
彼はじっと、冷静に、そして少し挑戦的にこちらを見つめていた。
「なっ…なんですか!」
意地を張るように、アゼムは威勢よく声を上げる。
心臓が少し早鐘のように打つのを感じながらも、負けまいと背筋を伸ばす。
不敵な笑みを浮かべ、エメトセルクは肩を軽くすくめた。
「……いや、別に」
「強いモンスターを討伐するんじゃなかったんですか!」
眉間にわずかなしわを寄せ、冷静ながらもどこか得意げに答えるエメトセルク。
「ああ…そうだな。随分と手強いモンスターでね…」
「私なんか見てないで、チョコボに乗って討伐に行けばいいじゃないですか!」
アゼムの声には、焦りと苛立ちが混ざる。
壁にもたれたまま、口元だけを微かに歪め、不敵な目でアゼムを見つめるエメトセルク。
「……ふん、やれやれ」
その冷ややかな笑みに、アゼムの苛立ちはさらに増す。
「お前…依頼を受けていたようだが、そんな貧弱で本当に大丈夫なのか?」
「あなたには、関係ない!!」
冷たく突き放すように言い放ち、アゼムは素早くその横をすり抜けた。
背中に感じるエメトセルクの視線が、余計に心をもぞもぞとさせる。
――それでも、振り返らずに前へと進むしかなかった。
最後まで、読んで頂き、ありがとうございます。




