#3 旅の入り口
これを書いていた、
当時の事、
あまり覚えていませんね。
朝の街を、アゼムはまだぼんやりとした足取りで歩いていた。
エメトセルクは先を行きながらも、ちらりと振り返る。
――相変わらず頼りなさそうだが、まだ無事か。
「昨夜は…ごめんなさい。なんか迷惑かけちゃったみたいで…」
小さな声で呟くアゼムに、彼は肩をすくめて軽く笑う。
「いや、別に。酔いつぶれるくらいなら、まだ安全だ」
気まずい沈黙。
対抗心を燃やしたアゼムは、意を決して彼を試した。
「あの…エメトセルクさん……昨夜のことなのですが……私のこと、からかってますよね??」
顔を真っ赤にして震える声で訴えるアゼムに、彼は腕を組んだまま笑みを崩さない。
「ほう…なぜそう思う」
「いや…その……」
アゼムは服を握りしめ、もじもじする。
エメトセルクは呆れたように大きくため息をつき、声を荒げた。
「お・ま・え!!無防備にも程があるぞ!!」
「……ご、ごめんなさい!!!」
迫力に肩をすくめるアゼムに、彼は意地悪な炎を燃やす。
「……服も乱れていないな。意外と手堅いのか?」
「もーなんなの?」
「いや、別に?」
短く含みを持たせて歩き出す彼の後ろ姿。
その楽しげな視線が背中に心地よく残る。
道中、エーテライトに手をかざすアゼム。
淡く輝く光の渦に目を奪われる彼女を、彼は懐かしむように眺めていた。
「初心者か?ほかに開放していない場所はあるか?」
「ここだけです。景色が良すぎて、見損ねてました」
視線の先には、リムサ・ロミンサの街並みが広がる。
白壁の建物が港の波間に映え、帆船が風に揺れ光を受けきらきらと輝く。
青く澄んだ海が水平線まで続き、潮風が肌に心地よく吹き抜ける。
港に立ち並ぶ木造の桟橋や木材の通路の露店からは、街の活気と温かさが伝わってくる。
アゼムはしばし景色に見入り、静かに息をつく。
エメトセルクは軽くため息をつき、グランドカンパニーに向かって歩き出した。
彼は振り返りざまに、アゼムへ軽く手をひらひらと振った。
その背中には、無言ながらも“しっかり見ておけ”という微かな意地悪さが漂っていた。
最後まで、読んで頂き、ありがとうございます。




