#2 覚えていない
原典なので、
読みにくかったらすみません。
エメトセルクは思わず口元を緩め、意地悪な笑みを浮かべる。
――このまま目を覚ましたら、こいつはどんな反応をするだろうか。
彼はわざと毛布を自分の方に少し引き寄せ、あたかも一緒に寝たかのように見せかけた。
やがて、アゼムが薄目を開け、掠れた声で呟く。
「ふぁ〜…ここは…?」
寝ぼけ眼で目の前の至近距離にある人物に気づいた瞬間、彼女の背筋が凍った。
「!?」
驚愕と羞恥で飛び起きる彼女に対し、エメトセルクは体勢を変えず、眉をひそめてじっと眺める。
「あ…貴方は…昨夜の!!」
「ふっ…昨夜は楽しませてもらった…」
「え?…なに?」
エメトセルクはゆっくりと彼女に顔を近づけ、耳元で低く囁いた。
「ほぅ…覚えていないとは…残念だ」
真っ赤になって動揺するアゼムを、エメトセルクは心の中で笑いを堪えながら見つめる。
「おい、なにをぼーっとしている。宿を出るぞ!」
「あ、あの!待ってください…」
扉に向かっていたエメトセルクは、ゆっくりと振り返り、彼女を見つめた。
「私…貴方の名前をまだ知りません」
「…エメトセルクだ。お前も名乗っていないだろ」
「わっ…あ、私は、アゼムといいます…」
エメトセルクは扉の方に体を向け、笑いをこらえて答える。
「そうか……アゼム。昨夜は――実に楽しませてもらった。お前は……覚えてないのだろうがな」
「っ!!」
胸がドキッとし、動揺を隠せないアゼム。
「早く来い、置いていくぞ」と先に歩き出す彼を、慌てて追いかける。
宿を出ると、酒場の横で噂し合う客たちの視線。
アゼムは真っ赤になってうつむき、エメトセルクのローブの裾を握りしめた。
振り返った彼は、恥じらう彼女を静かに捉え、わずかに笑みを漏らす。
二人の間には、これから始まる一日の気配が、潮風と共に漂っていた。
付いてきて頂き、ありがとうございます。




