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#1 またキミと

『主婦転』を書きつつ

『転生したらキミ』を更新していきます。

「あの…相席、いいかしら?」


白い髪の男性は、突然の呼びかけに軽く眉をひそめて顔を上げた。

「……ああ」


短い返事に戸惑いながらも、アゼムは彼の向かいに席を譲り受ける。

テーブルに置かれたのは、一杯のエールだけ。

彼女はそれを手付かずのまま眺め、広げた地図を指でなぞりながら小声でつぶやいていた。


男は黙って食事を続けていたが、やがてその手が止まる。


「お前、食べないのか?」


「えっと…その、金欠でして」


恥ずかしそうに白状したアゼムに、男はわずかに目を細め、小さくため息をついた。


「そうか…悪かったな」


二人の間に気まずい沈黙が流れる。

それでもアゼムはめげずに地図を見つめる。


「いつか、クガネに行ってみたいなぁ」

とぽつり零した。


そして、ふと思いついたように顔を上げる。


「あなたのジョブ、参考に聞いてもいいかしら?」


「…厭だ厭だ、面倒くさい」


一瞬口を噤んだ男の口から出たのは、拒絶の言葉だった。


男は椅子に座り直すと、冷ややかな視線をアゼムに向ける。


「見知らぬ奴に、軽々しく聞くものではない。少しは警戒心を持て」


その説教は、なぜかアゼムの胸の奥にある懐かしい記憶を揺さぶった。

初めて会ったはずなのに、深い既視感が芽生える。


「私!貴方と一緒に旅がしたい!」


衝動に突き動かされ、アゼムは立ち上がって目を輝かせた。


「…お前、何を言っている」


呆気に取られる男を前に、アゼムはすぐに顔を赤くして慌てふためく。


「あらやだ...本当に私ったら。今の、聞かなかったことにして!」


男はわずかに肩を揺らして苦笑した。


「やれやれ。警戒心というものがないのか?ハッキリ言う」

一拍

「お前、まだ準備も足りていないだろう」


アゼムは背筋を伸ばし、真剣な眼差しで答えた。

「あ…はい!あ、明日からギルドで稼ぐ予定です!」


あまりにも真っ直ぐなその返事に、エメトセルクは軽くため息をつく。


「そうだとしても、まずは落ち着け。酒場で寝落ちしても、何も始まらんぞ」


「え…あっはい!」

――ここで一夜過ごしますなんて、とても言えない…


気まずい冷や汗を流すアゼムを、男は黙って見守る。

その小さな視線の交差が、二人の距離を静かに縮めていくようだった。


***


夜も深まり、酒場『溺れた海豚亭』は一層の賑わいを見せていた。

騒がしい空気の中、アゼムは重くなる瞼に抗えず、次第に意識を微睡みへと沈ませていく。


隣に座るエメトセルクは、それを横目で眺め、心の中でため息をついた。

(厭だ厭だ。まさか本当にここで寝る気か……?)


彼女は気づいていない。薄暗い酒場の隅から、無防備な彼女を舐めるように眺める卑俗な視線があることに。エメトセルクの眉間の皺が深くなる。ここに居続ければ、ろくでもない連中の的になるのは時間の問題だ。


彼は肩をすくめると、大きくため息をつき、そっと彼女の肩を揺さぶった。


「おいっ……」


「ふぁい?!…もう朝でしゅすか?……」


酔いで呂律の回らないアゼムに、エメトセルクは額を抑えて天を仰いだ。仕方ない、といった様子で彼は無言のまま腕を差し伸べる。


「ふぇ?!ぅわ…引っ張らにゃいでくだしゃい…」

驚くアゼムを半ば引きずるようにして立たせ、彼は冷淡な苦笑を浮かべる。


「…面倒くさいが、放っておくわけにもいかん」


『男連れかよ』という酔客たちの舌打ちを背に、エメトセルクは覚束ない足取りの彼女を宿屋へと運んだ。


「部屋を一つ頼む」


「あいにく満室でして、残りは一部屋だけですが」


宿主の言葉に、彼は横で船を漕ぐアゼムを一瞥し、眉間に皺を寄せた。


「……仕方ない。一部屋で構わん」


部屋に入ると、そこにはシングルベッドが一つだけ。

今にも倒れそうなアゼムを、エメトセルクは静かにベッドへ横たえ、毛布を掛けた。


「……寝顔まで無防備か。ほんと、危なっかしい」


灯りを落とした静かな部屋に、ため息が響く。

彼女の穏やかな寝息を聞いていると、不意に懐かしさがこみ上げる。

初めて会ったとは思えないほどのざわつき。

――厭だ厭だ。面倒だと思っていたはずなのに、目が離せん。


押し寄せる眠気に身を任せ、椅子に深く腰を下ろして目を閉じる。


夢の中、かすかな光に包まれた懐かしい光景。

赤い仮面を胸に、黒いローブを纏った女性が振り返る。


「あ!あった!見つけたよ!……ん?どうしたの、ぼーっとして」


溢れ出す感情のまま、彼はその女性を抱き寄せていた。

温もりと感触。それは現実に隣で眠る彼女を見つめる視線と、どこかリンクしていた。


ゴトンッ!


上の階の物音に、エメトセルクは弾かれたように肩をすくめた。


「……やれやれ」


ベッドを見れば、彼女は何事もなかったかのように眠っている。


「のんきなものだな。少しはこっちの身にもなってくれ」


呆れながらも、どうしても目が離せなかった。


夜風が窓を揺らす音と、重なり合う二人の鼓動。

エメトセルクはふとした衝動に抗えず、ベッドの端に腰を下ろし、そっと彼女の隣に身を寄せた。


「……くっ。私は何をやっているんだ」


熱くなる頬、速まる鼓動。

だが、心は驚くほど穏やかだった。

身を引こうとした瞬間、アゼムが寝返りを打ち、彼の腕をぎゅっと掴む。


「! ……っ」


声を飲み込み、固まる。振り払おうとすればできる。

だが、なぜか動けなかった。

夜はゆっくりと明け、差し込む朝の光がアゼムの顔を鮮明に照らし出した。

pixivから、

引越し中です。

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