プロローグ
2025年10月〜開始。
現在、pixivにて最新話を更新中。
港町の酒場は夜の帳が下り、穏やかな灯りに包まれていた。
木製のカウンターにひとり腰を下ろすエメトセルク。
手元のグラスに注がれた水の表面を指先で軽く弾きながら、ぼんやり周囲の喧騒を聞き流している。
「…やれやれ」
小さく吐息を漏らす。
耳に届く笑い声やジョッキの音は、どこか遠くの世界のことのようだった。
一瞬、視界の端に過去の記憶が浮かぶ。
煌びやかな玉座、整然と並ぶ執務官たち、そして自分を“ソル皇帝”と呼ぶ声。
威厳に満ちたその光景に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
しかし、すぐにその記憶は薄れていく。
今、目の前にあるのは温かな木のカウンターと、柔らかく揺れるランタンの光。
かすかに漂う焼き肉の香り。自分はただ、ここに座る一人の人間に過ぎない。
「…厭だ厭だ、昔のことなんて、どうでもいい」
そう呟き、肩を少し落とす。
手元のグラスを軽く揺らすと、波紋が水面を柔らかく広がっていく。
店員が近づき、注文を尋ねる。
「お食事は何になさいますか?」
エメトセルクは一瞬、考え込む。
豪奢な宴を思い浮かべる過去の自分の姿を振り払いながら、淡々と答える。
「…今日のおすすめで構わん」
その声には、過去の威厳も苛立ちも混ざらず、ただ静かに落ち着いた人間らしい調子があった。小さな笑みを浮かべ、店員が去るのを見送りながら、彼は静かに周囲の景色を眺めた。
――過去は確かにあった。でも今は、ただの自分でありたい。
その夜、港の灯火に包まれた酒場で、エメトセルクは静かに、人としての一瞬を噛みしめていた。
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アゼムは酒場の中を右往左往していた。
どのテーブルもすでに埋まっており、座れる席はなかなか見つからない。
肩越しに人々の笑い声やジョッキの音が耳に届く。少し焦りながら、空いている席を探す。
アゼムは視線の端に、一つだけ空いた椅子を見つけた。
慌てて近づくと、その向こうに白い髪の男性が静かに座っていた。
冷静で、どこか凛とした瞳が、ふとアゼムと重なる
――初めて見るはずのその存在に、心がざわついた。
港町の夜はまだ静かに息づいている。
そして、これから始まる物語の、ほんのささやかな一歩が、今、ここにあった。
次回から、
読みやすく、
分割して投稿します。




