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28/32

#26 残り火

静かに、

目を閉じたまま、

何も語らなかった。


砂時計を、

そっと…反転させた。

一同は、

テレポで、

スウィフトパーチ入植地へ転移した。


空気が

わずかに震え、

まるで、

周囲の時間まで、

変化したかのように感じられる。


先に偵察していた、

サンクレットが駆け寄る。


「おい!ここだ!」


皆の足が止まる。


円を、

描くように集まる。


サンクレットは、呼吸を整える。

視線を巡らせた。


「状況は……こうだ」


指先が

周囲を指し示し、

声には緊張が滲む。


「アゼムの姿はまだ確認できない。だが、周囲の気配が異常だ。油断するな」


アルフィノが、眉をひそめる。


「……異常?」


サンクレットは、目を細める。

唇を噛む。

拳を握りしめた。


「このままでは時間の猶予はない。慎重に、だが迅速に行くぞ」


その声に、

呼応するように、

アルフィノが指を差す。


「ほら、あそこ!」


エメトセルクは、

反射的に、

その指先を追う。


息を呑んだ。


「ソロル……」


サンクレットが、

即座に口元へ指を立て、囁く。


「しっ、声を落とせ。バレたらまずい」


アリゼーは、

少し首をかしげ、

眉をひそめて問いかける。


「ねぇ……ソロルって誰?」


ルミナは、

小さく息を吐き、

声を潜めて答える。


「アゼムの呼び名です」


その言葉が落ちた。

――その瞬間。


皆の視線が、

アゼムへ向かう。


緊張が、

胸を締めつける。


武器を握る、

その指先に、自然と力がこもる。


風が止み、

草の揺れる音すら遠のく。


静寂だけが、

戦いの、

前触れのように、そこにあった。


遠くから、

皆は息を潜めて様子を窺う。


アゼムは、

海辺を見つめ、

誰かの名を呼ぶ。


「リリン……私の可愛いリリン」


エメトセルクたちは、

互いに目を合わせ、言葉の意味を探ろうとする。


ノクスは、

唇を噛み、

視線を地面に落とす。


――すまない。


オルフェンは、首を傾る。

呟く。


「誰のことを言ってるんだ」


アゼムは、涙を流す。

空を見上げ囁いた。


「アイデネウス…貴方に会いたい」


エメトセルクは、

深く息を吸い込んだ。


意を決して、

アゼムへ駆け寄る。


足取りは重いが、

心は揺るがない。


ただ、

一つの、

想いだけに、

向かっている。


サンクレットは、慌てて声を張る。


「な!エメトセルク、止まれ!」


振り返らなかった。


アゼムを、

優しく見つめる。


その名を呼ぶ。


「ソロル…」


アゼムは、

振り返り、

苛立ちを滲ませる。


「ああ、アイデネウス…いや、違う。お前は何者だ。ここはどこだ」


英雄は、

クリスタルを握り、

意志を一点に集中させる。


その瞬間、

アゼムの動きがピタリと止まる。


エメトセルクは、

アゼムの瞳の奥に、

微かな、

光の揺れを、

見逃さなかった。


そっと、

一歩前へ、踏み出す。


「ソロル…」


仲間たちは、

固唾をのんで見守る。


緊張の糸が、

空間を満たす。


次の瞬間を待つ。


アゼムは、

剣先を向け、低く告げる。


「我は十四人委員会所属、名はアゼム。偽物め…貴様はここで消えてもらう」


エメトセルクの顔色は青ざめる。

唇を震わせた。


拳の指先に力を込めるが、

胸の奥の不安と恐怖は押さえきれなかった。


アルフィノたちも、

声の重みとその内容に凍り付き、

言葉を発することもできず立ちすくむ。


エメトセルクは

眉間に深い皺を寄せ、

声を震わせながら叫ぶ。


「英雄!もし私が倒されたら…アゼムを、殺せ!」


アルフィノは、

咄嗟に手を伸ばし、声を荒げる。


「何を言ってるんだ!」


サンクレットが駆け出す。


「仕方ない!行くぞ!」


仲間たちも続き、

薄暗い空間に緊張と足音が響く。


エメトセルクは一瞬立ち止まる。

アゼムを見据える。


目には、

決意と覚悟を宿す。


息を整え、

前へ踏み出した。


暗黒騎士の装束を纏う。


鎧は、

軽やかで身のこなし。


鈍さはなく、

熟練した戦士のように、

武器を握る手も滑らかだった。


「来るな!私一人で大丈夫だ」


その声に

迷いはない。


身のこなしは、

戦場での経験を物語っていた。


サンクレットたちは

咄嗟に

足を止め、

息を呑んだ。


エメトセルクは、

鋭く武器を構え、

視線をアゼムに、固定した。


土煙と共に、踏み出す。


その動作は素早く、

それは、計算され尽くされていた。


周囲の空気まで、

張り詰めるようだった。


次の瞬間、

鋭い一閃と共にアゼムへ飛びかかる。


衝撃の前に、

微かな風圧が立つ。


空間が、

わずかに揺れる。


緊張を、

さらに際立たせる。


だが、

アゼムは、

微動だにしない。


エメトセルクは

一瞬、足を止めた。


眉間に皺を寄せる。


呼吸を整えつつ、

アゼムの、

次の動きを伺った。


アゼムは、

鋭い目で見つめる。


微かに、

笑みを浮かべた。


「ほう、魔法で対抗しないと…フッ、やり甲斐がありそうだ」


アゼムが駆け出す。

次の瞬間、姿を消した。


エメトセルクは、

瞬時に防御態勢に入る。


背後から気配。

咄嗟に回避。


頭上から

斬撃が襲いかかる。


エメトセルクは大剣で受け止めた。

火花が散る。


それは、

衝撃波となり、

砂塵が舞い上がる。


アゼムは、

再び姿を消した。


エメトセルクは、気を集中させた。

アゼムの位置を探る。


――…見つけた。


次の一手を、

読み取ろうとした。


その瞬間、

静寂が訪れる。


違和感を覚え

目を開くと、目の前にアゼムが立っていた。


「…アイデネウス」


エメトセルクは、

緊張で重い呼吸を整える。

まるで、心の叫びの様に反応する。


「何だ!」


アゼムは

涙を流した。


頬を伝う雫。


静かに、

首を傾げた。


「別人なのに…貴方は変わらない。もしかして…私と一緒?」


エメトセルクは、たじろぐ。

困惑した。


「何を…言っている…」


アゼムは続ける。


「わからないのね…ここは貴方にとって、現実ではないの」


アゼムは、

震える手で、

エメトセルクの頬に触れた。


「もう大丈夫…ねぇ、一緒に帰ろう」


エメトセルクは、翻弄される。

眉をひそめる。


「…厭だ厭だ。さっきから…何を言っている…」


アゼムは、

微かに、

笑みを浮かべる。


囁く。


「リリンに教わったんだ」


詠唱し始める。


「迷える魂よ、

我が声に応えよ!

汝の肉体を、

正しき主のもとへ還せ!」


――バリンッ


鈍い響きが空間にこだまする。


アゼムは、

力なく膝をつき、

その身が崩れる。


エメトセルクは、

咄嗟に、

アゼムを受け止める。


体を、

揺すりながら呼びかける。


「おい!ソロル!」


アゼムの胸元に、

儀式の紋章が、

淡く輝きながら浮かび上がる。


「これは…!」


彼女を抱き上げ、

仲間たちの元へと戻る。


オルフェンは、小声で呟く。


「どうした?何があったんだ…」


皆は、

慎重に距離を保ちつつ、

アゼムの様子をうかがう。


緊張のせいか、

微かな風の音まで耳につくようだった。


エメトセルクは

深く息をつき、

皆を安心させるように呟く。


「気を失っている。今は大丈夫だ…ゆっくり休ませてやれ」


紋章について、

アシエルに問いかける。


彼女は、

顎に手を当て、

慎重に答えた。


「なるほど、儀式が失敗したわけではない」

続けて言う。

「操る者が居なくなったことで、主を探して迷子になっている、ということだ」


周囲に漂う静寂。


アゼムの、

胸元の紋章は、

ゆっくりと光を弱める。

やがて完全に消えた。


長い沈黙。


仲間たちは、

互いに視線を交わし、

ようやく緊張の糸を緩め始めた。


ノクスは、

静かに一歩踏み出し、低く言った。


「その呪いの解除、試してみる?」


エメトセルクは、眉を寄せた。


アゼムの顔を、

見つめながら答える。


「話せば…和解できそうだがな」


アシエルが、

冷静に口を開く。


「仮初の方法でいいのか?本来のアゼムは封印されたままになるぞ」


エメトセルクは、

嫌そうに眉を歪め、

深くため息をついた。


「やれやれ…なんて厄介なんだ」


アシエルは、

道具を取り出しながら呟く。


「儀式をする…エメトセルク、お前も参加しろ」


エメトセルクは、

眉間に皺を寄せた。

苦々、目を細める。


「……私を巻き込むのか」


カリオンは、

手元を照らすために小枝を集める。


焚き火を起こした。


「暗くて足元が見えん。これくらいは必要だろう」


炎がゆらめき、

儀式の準備を進める、

彼らの影を長く伸ばす。


その炎が、

結果的に、

儀式の中心を照らすことになるとも知らずに。


ダスクランが低く告げる。


「まずは呼吸を整え、三回目に吸ったら唱えはじめる。わかったか?」


「厭だ厭だ…強制か」


そう言いつつ、

エメトセルクは、

胸に手を当て、ゆっくりと息を整えた。


鼓動が速まり、

指先に微かな震えが走る。


周囲の空気が静まり返りかえる。

時間が、

一瞬、

止まったかのように感じられた。


三度目の吸気。


アシエルが、

静かに合図する。


「では――始める」


エメトセルクは

瞼を閉じ、かすかに震える声で詠唱を口にした。



(息を吸って…)

“迷いし魂よ、元の世界へ還れ”


(短く間を置く)

“そこにお前を待つ者あり”


(低く沈む声で)

“我ら、汝に害を為さず”


(息を整えながら)

“道標に従いて進め”


(軽くうなずくように)

“恐れるな、必ず無事に帰還せん”



静寂の中で、

その言葉が、

何度も繰り返された。


淡い光が、

アゼムの胸元で瞬き、

儀式の空気が震える。


五度目の詠唱。


それが、

終わった時には、

光は弱まり、静けさだけが残った。


アゼムは、

深い眠りのまま、動かない。


エメトセルクは、

その横顔をじっと見つめる。


肩をわずかに、

震わせて吐息を漏らす。


「…おい、紋章が取れていない!」


ノクスが、

拳を握りしめる。


悔しげに、

呟いた。


「……やっぱり、間に合わなかったか」


沈黙の中、

カリオンが、

焚き火の明かりを、

踏み越えて近づいてきた。


「お前…大丈夫か?儀式の間、胸元が光ってた。まるで、お前自身が媒介みたいに見えたんだが」


――エメトセルクの視界が揺らぐ。

輪郭が霞む。


「な……何だ……?」


演唱の反動だろうか。


息が浅くなり、

胸を締めつける痛みが広がる。


体は鉛のように重く、

意識を繋ぎとめることもできない。


遠のく声が、

波のように耳をかすめた。


『おい!大丈……か?!』


『エメ……ルク!』


『……しっかり……!』


夜気が肌を刺した。

焚き火の残り火が、かすかに頬を照らす。


その温もりすら遠く、

体の内側から、

冷えていく。


そんな、

感覚が広がった。


胸の奥で、

鼓動が暴れ、

世界が溶ける。


光も音も、

時間の輪郭すら、

失われていく。


そのまま、

意識は、

闇の底へ、


――沈んだ。

第3章 完。


――次回、第4章

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