#23 メレアス
何も、
言えない。
理由?
――重い。
宿屋に、
戻ったアゼム。
鉛のように重い体は、
ベッドに沈むしかなかった。
「アイデネウス…」
涙が、
頬を伝う。
ふと、
ベッド横に置かれた、
エメトセルクの荷物に目がいく。
「……ぅ…」
重い体で、
必死に手を伸ばす。
掴めたのは
エメトセルクの上着だった。
「…全然…違う」
その言葉は
他の者が聞いたら意味がわからない。
――ああ…姿は同じなのに何かが違う…。
それでも、
その上着を抱き寄せ泣き続けた。
月明かり。
照らされた暗闇。
部屋の中で、
泣き疲れたアゼムは深い眠りに入る。
---
翌朝、
宿屋を出る。
冒険者ギルド『クイックサンド』を後にした。
町中で、
立ち止まり、
意識を集中する。
アゼムは、
昨夜の残像を思い浮かべ、心が痛くなる。
「アイデネウス、生きてる」
空中に浮かび、
剣を構えるアゼム。
そのまま、
どこかへ、
高速で飛び去った。
その異様な光景を、
目撃した人々の間で、
噂は瞬く間に全土へ広がった。
アゼムは、
小さな集落にたどり着く。
周囲を見渡した。
「この辺りから感じる…」
エメトセルクは、
深い眠りのままだった。
町外れの小屋は、静かだった。
その静けさの裏に、
すでに悲劇の影が潜んでいた。
建物から、
メレアスとルミナが楽しげに歩いて出てくる。
ほんの束の間の、光景だった。
建物の影から、
かすかに呻くような風の音が聞こえる。
その奥には、
まだ、
気づかれていない。
異変が潜み、
悲劇の気配がじわりと迫っていた。
アゼムの視線は、メレアスを追う。
「お姉ちゃん…」
剣先からほとばしる、
光と闇の波動が、二人の目の前で炸裂する。
アゼムの瞳は、
いつもと違う光を帯び、
己でも制御できない衝動が胸を突き上げていた。
粉塵の向こうに、
凍りつくような恐怖が漂った。
金属が擦れるような耳鳴りが胸を打ち、地面が微かに振動する。
メレアスは、
反射的に身をかわし、
ルミナは両手で顔を覆う。
「ひっ!!」
「アゼム?!やめて!!」
光と影が揺らめき、周囲を震わせる。
逃げる間もなく、
波動はさらに迫り、
二人を巻き込もうとしていた。
アゼムは、
涙を浮かべながら剣を構える。
「…お姉ちゃん」
言葉と行動が、
いつもの彼女とは明らかに違った。
メレアスは杖を構え、呪文を唱える。
ルミナは本を開き、
メレアスに防御魔法をかける。
アゼムとメレアスは、
間合いを取り、互いの動きを見極めた。
瞬きをした。
その瞬間、
アゼムの姿は消えた。
メレアスは、
視線を右往左往させる。
警戒を強める。
「はやい!!」
次の瞬間、
アゼムの斬撃が炸裂。
衝撃波で、
メレアスは吹き飛び、
壁に激突し意識を失った。
瓦礫が落ち、
建物が揺れる。
異変に気づいた、
カリオンたちは互いに目を合わせ、外へ飛び出した。
オルフェンは、
思わず名を呼ぶ。
「アゼム!」
手を伸ばしても、
波動が立ちはだかり届かない。
アゼムは、
振り返り力なくオルフェンに呟く。
「その呼び方…どうにか…ならないのか…」
アシエルたちも、
駆け寄ろうとするが、
アゼムから発せられる圧力が地面に押し付ける。
身体がまるで、
鉛に縛られたかのように動かない。
立ち止まるしかない。
――その焦燥感が胸を締め付ける。
遠くでガラスが割れる音。
耳がキンと鳴り、
瓦礫が肌に当たり、痛みが走る。
カリオンは、
怒声を上げた。
「アゼム!やめろぉぉ!!!」
その声に、
アゼムは涙をこぼす。
手先に、
うごめく光と闇の波動は止まる気配がない。
周囲の空気は、
ねっとり重く、
息を吸うたびに、体に痛みが走る。
アゼムは、
微かな声で囁く。
「お姉ちゃん…アイデネウス…」
心は闇の中で彷徨い、
どこにいるのかもわからない迷子のようだった。
――気づけば、姿はどこにもなかった。
皆は、
急いで、メレアスに駆け寄る。
全身全霊。
エーテルを流し込む。
ギリギリのところで呼吸が安定した。
ルミナは、
涙目で力なく言った。
「これ以上私たちでは…救護隊に頼むしか…」
メリアスの意識は戻らず。
医療班を要請、
都市の治療室へ運ばれることになった。
エメトセルクが、
意識を取り戻したのは、
――戦いの傷がまだ色濃く残る、あの日から数日後のことだった。
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