#23 絶対に守りたい
エメトセルクって
本来、叫ぶ人じゃないんですよね。
自分の、
感情が負けました。
暗く、
狭い通路を抜ける。
湿った石壁に囲まれた薄暗い部屋にたどり着いた。
ルミナは、
周囲を見渡す。
「アゼム!!」
カリオンは、
先頭に立ち盾を構える。
「助けに来たぞ!!」
オルフェンは、
威勢よく叫んだ。
「お前ら!アゼムを返せ!!」
一斉に、
武器を構える仲間たち。
緊張の中、
胸の奥で互いを思う気持ちが交錯する。
言葉には出さない。
けれど、
アゼムは自分たちにとって特別な存在だ。
そのことを、
無意識に感じながら、
エメトセルクの手は握りしめられる。
崩れた円陣の向こう、
ダスクランが舌打ちする。
「ちっ、もう来やがったか!」
床には、
禍々しい魔法陣。
その中央で、
白い魔力の鎖に拘束された、
アゼムがぐったりとうなだれていた。
エメトセルクは青ざめる。
「ソロル!!」
胸の奥で、
守らなければという焦燥が込み上げる。
ノクスは、
微笑みながら、
頭の後ろに手を組む。
「ふ……もう儀式は終わったよ」
その瞬間、
空気が震えた。
白い鎖の隙間から、
黒い瘴気のような光が滲み出す。
「貴様ぁぁ!!」
掴みかかるエメトセルク。
ノクスは、
殴られると思い焦る。
「暴力はんたーい!」
メレアスが、
鎖を解き、
祈るように唱え始める。
「アゼム様……お目覚めください。我々は――」
その声は、
虚空に吸い込まれ、
何か厚い壁に遮られるように途切れた。
アゼムの剣が跳ね上がる。
「きゃっ!!」
呪文の光が、
飛び散る前に、
斬撃がメレアスを襲う。
光と闇が暴発し、
洞窟に衝撃が走る。
ノクスは、
腰を抜かす。
「なんだ、あの力は!?」
アシエルはたじろぐ。
「こ……こんなはずじゃ……!」
アゼムの剣が、メレアスに向く。
「私の邪魔をしたな?」
「!!まって…アゼム?ねぇ…冗談だよね?」
振りかざし、
胸元ギリギリで止まった、その手は震えている。
瞳から、
一筋の涙が光る。
メレアスの、
息は荒く、
胸の鼓動が鳴り響く。
「やめろ!ソロル!!」
エメトセルクが叫ぶ。
心の底では、
《絶対に守る》という思いだけが燃えている。
近づこうとするが、波動に押し返される。
アゼムは、
エメトセルクの方を向く。
微かに笑みを浮かべた。
瞳の奥に残る意思は、
互いに言葉にしなくても特別であることを示していた。
アゼムの背後に闇が現れ、
吸い込まれるように消えていく。
「待て!!ソロルッ!」
叫びは咆哮となり、
限界を越えた力が全身を駆け巡る。
闇に呑まれるかもしれない恐怖よりも、
ただ大切な仲間を取り戻す決意が勝った。
エメトセルクは
アゼムを追い、
闇の中へ飛び込んだ。
アゼムは、
闇の中を疾走する。
夜空を、
切り裂くように。
エメトセルクは、
チョコボを駆り、
必死にその背を追う。
伸ばした手が、
届きそうで、
届かない。
「くそっ……!ソロル!!」
叫びに込められるのは、
ただの仲間を追う焦りではない。
心の奥底で《絶対に守りたい》という特別な想いだ。
振り向いたアゼムが、視線を交わす瞬間。
放たれた波動に、
チョコボが力を失い、
地面へと落下する。
「な、なに……!」
アゼムは、
落下するエメトセルクの体を、
頭の中では抱きしめたいという衝動が駆け巡る。
現実は、
ただ地面が迫るだけだった。
「ソロルーー!!」
絶叫が
夜空にこだまする。
意識は闇の深淵へと沈んでいく。
その胸の内には、
互いに、
言葉にはできない、
けれど恋人同然の絆が確かに存在していた。
遠くから、
仲間の声がかすかに届く。
「おい! ……しっかりしろ!」
「……あ、ああ……すまない……止められなかった……」
掠れた声に、
胸の奥で押し殺された。
涙の痛みが混ざり、
体は力なく、
床に預けられるように崩れた。
涙で濡れた顔を伏せ、
メレアスは掠れた声で詫びる。
「ご……めんなさい……アゼムを…守れなかった……」
互いに口には出さないけれど、
互いの存在の特別さが、全てを物語っていた。
夜空が遠ざかる。
耳鳴りの中で、
アゼムの名を呼ぶ声だけが、
いつまでも胸の奥に残っていた。
第2章 完。
――次回、第3章




