#12 アイデネウス
『アイデネウス』
古代人時代の生まれ持った名前です。
――原作名。
ふと目が覚めた。
まだ夢の続きが見たかった悔しさ半分、心の動揺半分で、体がうずうずしている。
――温かい。
気づけば、エメトセルクの腕の中にいた。
寝息が髪にかすかに触れ、胸の鼓動が早まっていく。
エメトセルクが低く呟いた。
「……ソロル……」
――え……寝言?
そっと見上げると、無防備な寝顔。
その顔に、思わず小さな笑みがこぼれる。
――ふふ、また見ちゃった。
その瞬間、エメトセルクがもう一度、はっきりと呟く。
「ソロル!」
腕の力が強まり、思わず息が詰まる。
――うわわっ……!
思わず胸に手を当て、抵抗する。
「アイデネウス…く、苦しいよ!!」
ハッと目を覚ますエメトセルク。
「おい…今なんて言った!」
アゼムは目をぱちぱちさせ、混乱した様子で小さく答える。
「苦しい…」
「違う、その前だ!」
眉間に皺を寄せ、必死に問い詰める。
不思議そうに首を傾げるアゼム。
それは無意識に出た言葉だったのだ。
「ごめんなさい…覚えてません」
額に手を当て、エメトセルクは深いため息。
「すまん…」
アゼムは小さく笑い、なおも恥ずかしそうに言った。
「エメトセルクさん、ずっとソロルって言いながら…ぎゅーってしてきたので、びっくりしました…」
「ソロル…?」
エメトセルクは驚きと戸惑いが入り混じる。
「知り合いなのですか?」
――心の中で、言いたかった。『お前だ』と。
アゼムも気づいていた。夢の中でも、自分を“ソロル”と呼んでいたのだから。
「エメトセルクさん……夢の続きを見られる魔法って、あるんですか?」
「ふ……そんなものがあったら、人は二度と起きなくなるだろうな」
「ふふ……確かに」
互いに小さく笑い合う。
けれど、エメトセルクの腕はまだアゼムを抱きしめたまま。ほどく気配はない。
「夢の中で……エメトセルクさんが出てきました」
「……ほう。夢の中でも私はお前に捕まっているのか」
呆れたように言いながらも、腕の力は緩まない。
「それで……“ソロル”って呼ばれて」
「……それは……私の寝言だろう」
わずかに息が詰まるような声。
アゼムの頬が赤く染まる。心臓が早鐘のように打つ。
「でも……夢の中で呼ばれて、今もこうして抱きしめられて……どっちが夢か分からなくなります」
エメトセルクは目を細め、視線を落とす。
「……私も夢を見た。黒いローブを纏ったお前がいて、私を“アイデネウス”と呼んでいた」
「え……?」
「……だからかもしれん。眠っていても……お前を“ソロル”と呼んで、離したくなかった」
その呟きは静かで、苦く、切ない響きを帯びていた。
アゼムは言葉を返せず、ただ抱きしめられたまま、胸の奥にじんわりと広がる熱に身を委ねた。
気づけば朝になっていた。
腕の中には、気持ちよさそうに眠るアゼム。
「おはよう…ソロル…」
低くささやきながら、エメトセルクは腕の力を緩めず、意地悪く抱き締め続ける。
「…もっと傍にいたいです」
頬を赤らめるアゼムに、エメトセルクは腕の力を少し増す。
「うあっ!!ギブギブッ、苦しいっ、痛いっ!!」
必死にもがくアゼム。
息が詰まりそうになりながらも、抗えないほどの温もりに、胸の奥はどこかじんわりと満たされる。
「……ふっ、起きたか?…ククッ」
エメトセルクは笑いを抑えつつ、腕の力をわずかに調整するだけで完全には緩めない。
「さあ、起きろよ」
アゼムは涙目になりつつも、笑いをこらえ、ぎゅっと自分の体を支える。
「ひどいです…!!」
それでも腕の中の温もりは消えず、ほのかに安心する。
意地悪な抱き締めが、朝の甘さと少しのほろ苦さを二人の間に残していた。
『エメトセルク』は、
十四人委員会の座の名前。
『ハーデス』は、
アシエン・エメトセルクの座の名前。




