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第十八話「煤と星と、朝のはじまり」⑤

 ディルクが人を集めた。


 混成隊の隊長格と、自警団の男と、夜久、ジャンヌ、蒼依。ゼータは少し離れたところに立っていた。マルタさんが加わった。村の代表として話を聞く顔つきだった。


「村の状況を確認したい」


とディルクは言った。


「建物の被害、怪我人の数、食料と水の備蓄。今夜どこで眠るかも含めて」


 自警団の男が答えた。顔の右側に、布が巻かれていた。昨夜の戦闘の跡だった。


「建物は、全棟が全壊か半壊です。ラズベリも含めて、屋根の残っているものが三棟。中に入れるかどうかも、確認が必要な状態です」


 静寂があった。


「村人たちは全員無事ですか」


と夜久は聞いた。


「砦から戻ってきた方々も含め、全員の所在は確認できています」


と自警団の男は言った。


「ただ、自警団の者が四名、深手を負っています。今は混成隊の方に手当てをしていただいていますが……」


 言葉が、そこで詰まった。


「回復します」


と混成隊の隊長が言った。短く、しかし確かに。


「二名は安静が必要ですが、命に別状はない。残りの二名も、時間が解決します」


 自警団の男が一度目を閉じた。それから開いた。


「ありがとうございます」


 静かな声だった。隊長はそれ以上何も言わなかった。


 夜久は村の輪郭を見回した。焦げた壁、崩れた屋根、石畳に散らばったままの荷物。これだけ残った中から、今夜の寝床を作らなければならない。


 マルタさんが口を開いた。


「屋根が残っている三棟が無事であれば、怪我人と子どもを優先して入れましょう。大人は外でも眠れます。混成隊の天幕も使わせていただけますか」


「もちろんです」


と隊長が言った。


「ありがとうございます」


 ジャンヌが続けた。


「物資の補給はオルディナに要請できます。私の名前を使えば、騎士団の備蓄から食料と毛布を融通してもらえるはずです。急ぎ使いを出します」


「それは助かります」


と自警団の男は言った。


「ただ」


とジャンヌは続けた。


「今回の件は、賊の上部組織が絡んでいる可能性があります。この村だけの問題ではなくなっています。騎士団に報告し、調査を求めます。しばらくの間、村に詰める者を一人か二人、置いてもらえるよう動きます」


 ディルクが頷いた。


「街道の商人たちとも連絡を取る。食料と日用品の優先供給について、話をしておく。代金は後払いで構わないはずだ。建材の手配も、できる範囲でやってみる」


「ありがとうございます、ディルクさん」


とマルタさんは言った。


「顔が利くだけだ」


とディルクは言った。そっけない言い方だったが、それが彼の照れ方だと、夜久にはもう分かった。


 蒼依が夜久の隣に来た。


「私たちは、どうするの」


と小声で言った。


 夜久は少し考えた。村の再建に必要なことを整理する。人手、物資、安全の確保。自分たちにできることと、できないこと。この先に動くべき道筋。


「今日は村の手伝いをする」


と夜久は言った。


「その後のことは、落ち着いてから話そう」


「分かった」


 蒼依は頷いて、それからマルタさんの方へ歩いていった。何か手伝えることはありますかと声をかけているのが、遠目からでも分かった。


 ジャンヌが夜久の傍に来た。


「しばらくここに留まりますか」


「村が落ち着くまでは」


と夜久は言った。


「そうですか」


とジャンヌは言った。それから少し間を置いて、続けた。


「私も同じです。少し時間がかかるかもしれませんが、騎士団への報告を急ぎます。その間は、ここを離れるつもりはありません」


 夜久はジャンヌを見た。コバルトブルーの目が、村の方を向いていた。リナが母親の手を引いて、崩れた石畳の上を歩いているのが見えた。ジャンヌの目が、その二人の姿をしばらく追った。


 それから、前を向いた。


「夜久」


とジャンヌは言った。


「はい」


「今夜のことは——」


と言いかけて、少し止まった。


「礼は、後で言います。今はまだ、まとまらないので」


「構いません」


と夜久は言った。


 ジャンヌは短く頷いた。それから踵を返し、混成隊の方へ歩いていった。白銀の鎧が朝の光を受けて、ゆっくりと離れていった。


 夜久はその背中を見送ってから、村の方を向いた。全壊した建物、崩れた屋根、それでも人が戻ってきた村。まだ終わっていない。でも、始まった。そういう朝だった。


 影桜の柄に、左手を添えた。


 今日も、するべきことがある。

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