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第十八話「煤と星と、朝のはじまり」③

 村が見えてきた。


 木の柵が、朝の光の中に静かに立っていた。昨夜の戦闘と消火の跡が、白い光の中で惨状として浮かび上がっていた。焦げた壁。崩れた屋根。散乱した荷物。半壊以上の建物がいくつも並んでいた。ラズベリの看板は傾いたまま、それでも落ちていなかった。


 火は止まっていた。


 くすぶる煙が何筋か空へ上がっていたが、もう炎の揺れる場所はなかった。消火活動が一区切りついたのだと、遠目からでも分かった。混成隊の人間たちが桶を下ろし、壁際に座って息を整えていた。


 その中に、ゼータがいた。


 桶を地面に置いて、少し離れた石の上に腰をかけていた。腰まである青白い髪が、朝の光を受けて橙色に照らされていた。白いワンピースの裾が、作業の痕跡で少し汚れていた。そして、頬に煤が一筋ついていた。


 夜久はその姿を見て、足を止めた。


 ゼータは夜久が近づいてくるのに気づいて、顔を上げた。灰色の目が、夜久を見た。


「無事」


と言った。


「ああ」


と夜久は返した。


 ゼータの頬の煤を見た。ゼータ自身は気づいていないらしく、平静な顔をしていた。夜久は少し考えてから、言った。


「よく働いたな」


 ゼータは少し間を置いた。


「ん」


と言った。


「消火を手伝っていたんだろう」


「桶を運んだ」


「それでいい」


と夜久は言った。


「ありがとう」


 ゼータはまた少し間を置いた。今度は「ん」とも言わなかった。何かを受け取ろうとしているような、でもどう受け取っていいか分からないような、そういう間だった。


 夜久はゼータの前にしゃがんだ。上着の袖で、ゼータの頬についた煤を拭った。そのついでに、頭に軽く手を置いた。蒼依に対してやるような乱暴なものではなく、静かにそこに置くだけの手だった。


 ゼータは動かなかった。


 固まっているわけではなかった。ただ、動かなかった。灰色の目が、真っすぐ前を向いたまま、何かを感じ取ろうとしているような静け方だった。達成感のような、嬉しさのような、そのどちらでもあるような——何とも言えない、名前のつかない感覚が、そこにあった。ゼータにとって、それは初めての種類のものだったかもしれなかった。


「顔に煤がついていたよ」


夜久はそう言いながら手を引いて立ち上がった。


「ん」


とゼータは言った。


 それだけだった。でも、ゼータは夜久が立ち去った後もしばらく動かないまま、頬に触れた自分の手のひらを、静かに見ていた。

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