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第八話「ただいま」③
蒼依が、夜久の隣で鼻をすすった。
「……泣くな」
と夜久は言った。
「だって」
と蒼依は言った。声が震えていた。
「リナちゃん、あんなに一人で頑張ってたんだよ? 村の入り口で、知らない旅人に頭下げて……それで今あんな顔で泣いてて……」
夜久は答えなかった。蒼依もそれ以上言わなかった。二人並んで、リナと母親の背中を見ていた。
ゼータが夜久の反対側に並んだ。
リナたちを見て、それから夜久を見て、また二人の方へ視線を戻した。表情は動いていない。
でも、いつもと少し違う気がした。
何かを測るような目ではなく、ただそこにあるものを受け取ろうとしているような、そういう目だった。
「ゼータ」
と夜久は言った。
「うん」
「何か感じるか」
ゼータは少し間を置いた。杯を持つように、何かを抱えるように、両手を胸の前で重ねた。
「分からない」
と言った。
「でも……」
また間があった。
「見ていたい、と思った」
夜久は何も言わなかった。蒼依もゼータの言葉を聞いて、何も言わなかった。三人でしばらく、同じ方向を見ていた。
リナの泣き声が、静かな夜の村に溶けていった。星が一つ、空の端で瞬いた。




