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第八話「ただいま」②
リナは走ってきた。
村の中から、石畳を蹴って、転びそうになりながら走ってきた。亜麻色の髪が揺れて、大きな目が一点だけを見ていた。
周りに人が集まってきていても、声をかけられても、何も目に入っていないようだった。母親の姿だけを見て、ただまっすぐに走ってきた。
あと数歩というところで、足がもつれた。それでも止まらなかった。
「お母さん——!」
声が夜の村に響いた。
リナの母親が、膝をついた。娘が飛び込んでくるより先に、自分から地面に膝をついて、両腕を広げた。リナがその腕の中に飛び込んだ。勢いのまま、二人が地面にへたり込んだ。
リナが泣いた。
声を上げて泣いた。必死で泣くまいとしていたリナが、ようやく子どもに戻ったような泣き方だった。
肩を震わせて、母親の服を掴んで、名前も言葉も出てこなくて、ただ泣いた。何度もしゃくり上げて、息が続かなくなるまで泣いた。
母親は何も言わなかった。ただ、娘の背中をゆっくりと撫で続けた。髪を梳くように、何度も、何度も。
夜久は少し離れた場所から、それを見ていた。
見ながら、リナが村の入り口で頭を下げたあの夜を思い出した。
自分で涙を拭って、まっすぐ顔を上げた、あの目を。
あのときの我慢が、今夜ここで全部溶けていた。




