第七話「影桜」④
最初に動いたのは、斧の男だった。
気合いとともに踏み込んで、斧を斜め上から叩き降ろしてくる。
重い一撃だった。体重を乗せた、力任せの斬撃。
正面から受ければ弾き飛ばされる。
だが、軌道が見えた。
振り上げた肩の角度。重心の位置。踏み出した足の向き。
男が実際に動き出すより前に、その全てが夜久の中で像を結んでいた。
観桜。
夜久は踏み込みながら斧の内側へ入り込んだ。
刃が頭上を通り過ぎる。
腕が伸び切った男の手首に、影桜の刃の腹を打ち付けた。
斬らない。
骨に響く、鋭い打撃だけを与える。男が短く叫んで斧を取り落とした。手首を押さえてよろめく男を、夜久は流れるように回り込みながら通り過ぎた。
すかさず棍棒の男が横合いから振ってくる。低く速い軌道だった。
夜久は体を沈めてかわし、すれ違いざまに影桜の柄頭で男のこめかみを打った。鈍い音がして、男がふらついた。膝をつき、そのまま前に倒れた。
残る一人、鉈の男が距離を詰めてくる。じりじりと、慎重に。
先の二人がやられたのを見て、警戒している。
夜久は動かず、男の出方を待った。
男が踏み込んだ。大きく、前傾になって。
夜久は一歩だけ外へずれた。男の体が前へ泳ぐ。
重心が崩れた瞬間、夜久は影桜を鞘に収めながら、鞘を持った左手で男の後頭部を打ち下ろした。男が地面に伏した。
静寂が戻った。
三人が砦の地面に倒れていた。死んではいない。呼吸はある。
だが、すぐには立ち上がれないだろう。
夜久は影桜を見た。
鞘に収まった漆黒の刀。血はついていない。一度も斬っていない。それでも、この刀が何か特別なものだという感覚だけが、じわりと手の平に残っていた。
なぜこの刀を持ってきたのか、自分でもまだ分からない。
でも今夜、確かに役に立った。それだけは、分かった。
夜久は息を整えて、柵の方へ走った。




