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6話 気高き遊女

「……山荷葉大学の、日本歴史学部を受験します。合格のための、験担ぎを願いたく」

直里が意を決してそう告げた瞬間だった。

それまで細く開いた煙管の煙をくゆらせていた竜舌の指が、ぴたりと止まった。

「帰りな」

短く、そして氷のように冷たい拒絶。

直里が呆気に取られている間に、竜舌は一度も彼を見ることなく、傍らに控えていた双子の禿、ドラセナとユッカに顎で合図を送った。

「え……? あの、今なんて」

「聞こえなかったのかい? 山荷葉サンカヨウなんて名を聞くだけで反吐が出る。その不愉快な大学の名を二度と私の前で口にするんじゃないよ」

「ちょっと待ってください! 祖父と父が、高い金を払って……」

「金ならその辺に捨てておきな。そんなゴミより、私の『時間』の方がよっぽど値打ちがあるんだ」

竜舌が鋭く袖を振ると、九歳の双子が影のように直里の両脇に滑り込んだ。子供とは思えぬ力で腕を掴まれ、直里は成す術もなく廊下へと押し出される。

「ちょ、離せ! 理由を教えてくれ! なぜ山荷葉大学じゃダメなんだ!」

バタン、と重厚な唐紙が直里の鼻先で閉め出された。

静まり返った廊下。背後から、「ヒッヒッヒ」という枯れた笑い声が聞こえた。

振り返ると、いつの間にかやり手婆が暗がりに立っていた。

「……あァら、若旦那。おいたが過ぎましたかねぇ」

「婆さん、どういうことだ。大学の名前を言った途端、急に不機嫌になって……」

婆は深いシワの奥にある瞳を怪しく光らせ、閉ざされた扉を見つめた。

「竜舌はね、数字や記号で人を測るのが大嫌いなんだよ。特に『山荷葉』……あそこの創設に関わった連中が、昔この街で何をしたか。それを知っているのは、317年生きていると宣うあのアマくらいなもんさ」

「……歴史?」

「そうさ。若旦那、あんたが教科書で学んでいる『綺麗な歴史』じゃあない。あの女の腹の中に溜まった、どす黒い本物の歴史だよ」

婆は直里の胸倉を掴むと、無理やり顔を近づけた。

「いいかい、若旦那。山荷葉の合格サクラを咲かせたいなら、まずはあの女の『逆鱗』を解いてみな。さもなくば、あんたの受験票はただの死に損ないの紙切れになるよ」

直里は、閉ざされた扉の奥にいる「気高き遊女」の正体に、恐怖と同時に抗いがたい興味を抱き始めていた。

山荷葉大学と吉原、そして竜舌。

その間に横たわる、隠された因縁とは一体何なのか。

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