0章 重要語句解説
1. 妓楼・月下美人
吉原の頂点に君臨する老舗の妓楼。昭和33年の売春防止法施行という転換期にあっても、その権威は衰えず、政財界との深い繋がりを持っていた。名前の通り、一夜で散る花の如き刹那的な美しさと、その裏に隠された「永続的な呪い」を象徴する場所。
2. 三大妖女
月下美人の中でも、容姿・知力・芸事のすべてにおいて他を圧倒する三人の最高位遊女を指す称号。第0章では、不変の存在である竜舌と、絶頂期を迎えていた木蘭がその名を連ねていた。彼女たちと一夜を共にするには、一国の予算が動くほどの金が必要とされる。
3. 株式会社カラスバ
祖月輪真稜が若くして立ち上げた(あるいは拡大させた)企業。吉原という土地が持つ「負の側面」を、近代的な「都市開発」という名の利益に変換しようとする野心を抱いている。吉原の終焉をビジネスチャンスと捉え、愛すらもその資本の一部として組み込む冷徹な組織。
4. 通行手形
吉原の大門をくぐり、遊郭エリアへ立ち入るために必要な許可証。昭和の時代から、特に女性に対しては「入るは易く、出るは難し」を強制するための物理的な拘束具として機能していた。これが、後の現代吉原における「電子的な檻」の原型となる。
5. サクラサク / サクラチル
元々は戦時中や受験の合否を表す隠語だが、月下美人においては「水揚げ(初体験)」と「破滅(身請け失敗や死)」を意味する。第0章では、真稜が木蘭に「サクラサク(救済)」を約束しながら、実際には彼女を「サクラチル(遊女としての死と、やり手への変貌)」へと突き落とした皮肉として描かれた。
6. 楼閣小判
月下美人の内部でのみ通用する独自通貨。真稜はこの小判を大量に動かすことで、法の手が届かない場所でのマネーロンダリングや権力工作を行っていた。木蘭はこの小判の重みと引き換えに、自らの情愛を捨て去ることになった。
7. 女郎蜘蛛
竜舌が自らを称する言葉。一度巣(吉原)に掛かった男を、300年以上の時をかけてじっくりと喰らい尽くす存在。木蘭に「男の扱い方」を教え込んだ師であり、愛という名の嘘を見抜く冷徹な観測者。




