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饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


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256/262

第256話 蒼名の歩かせ方

訪問ありがとう。今日は少し静かに名を歩かせる回。すぐ決めず、足で見る流れを楽しんでもらえたら嬉しいです。

翌朝、道は乾いたままだった。


雨が降らなかったのは都合がいい。

足跡は残りにくいが、足癖は見える。

左を引く者は、乾いた道でも左を引く。癖は、土の深さよりも歩幅に出る。


ガラムは南壁の外を見た。


水車小屋へ向かう道。

そこから廃倉へ曲がる細い道。

昨日まで線で追ってきたものが、今日は実際の道になる。


赤、灰、茶の棒は広場に立てたままだ。

受け取りも止めない。

だが今日は、中央ではなく門外に目を置く日だった。


エドが低く言う。


「ザムは来るか」


「来る」


ガラムは答えた。


「来なければ、名だけが残る。それは向こうにも困る」


見張りが板を二つ打った。


門前に来たのは四人。

ラダン。

ボラン。

掃き役の小柄な女。

そして、左足を少し引く男。


ザムだろう。


男は痩せていた。

目つきは悪くない。だが、場慣れしている。責められた時にどう逃げるかを知っている顔だった。


ガラムは門を開けない。


「名は」


男は肩をすくめた。


「ザムだ」


「お前が持っているものは」


「俺の足だろ」


軽く返した。

だが、笑いは広場まで届かなかった。


ガラムは言う。


「歩け」


ザムの眉が動く。


「どこを」


「水車小屋の裏から、廃倉前までだ。昨日話に出た道を、そのまま歩け」


ザムはラダンを見た。

ラダンは何も言わない。

ボランも黙っている。


逃げ口はない。


ザムは鼻を鳴らし、門の外へ向き直った。


「歩けばいいんだな」


「ああ。ただ歩け。早くも遅くもするな」


ガラムは掃き役の女へ目を向けた。


「見るのは、お前だ」


女は頷く。


「似た足と同じ足を分けます」


ディノが壁の上から笑う。


「ずいぶん覚えがいい」


「覚えないと、また誰かへ落ちますから」


女の返しに、広場の空気が少しだけ締まった。


ザムが歩き出す。


左足が、わずかに外へ逃げる。

右足が強く入る。

歩幅は広くない。

だが曲がる時だけ、左の爪先が遅れる。


水車小屋の裏。

細道。

廃倉前。


見張りが壁上から目で追う。

掃き役の女も、少し離れて歩きながら踏み方を見る。

誰も声を上げない。

誰も名を急がない。


しばらくして、ザムたちは戻ってきた。


女は広場の外で足を止め、はっきり言った。


「似ています」


ザムが笑いかける。


だが女は続けた。


「ただ、同じとはまだ言えません」


笑いが止まる。


「昨日見た踏み跡は、左足の引きがもう少し浅い。ザムさんの足は、曲がる時にだけ強く出ます。水車小屋の裏の跡とは近い。でも廃倉前の跡は、別の者が踏み返した可能性があります」


ガラムは頷いた。


「なら、今日置くのは何だ」


女は少し考えた。


「ザムの足は、水車小屋の裏には寄る。廃倉前には、まだ届かない」


「よし」


ガラムは門前の土に新しく印を置いた。


寄った足。

届かぬ足。


ザムが不満げに言う。


「つまり俺じゃないってことか」


「そうは言ってない」


ガラムは答える。


「だが、お前だともまだ言わない」


ザムは口を閉じた。

責められるより、曖昧に止められる方が気味悪いのだろう。


ラダンが低く言う。


「水車小屋には寄った。廃倉までは届いていない」


「ああ」


ボランが眉を寄せる。


「なら、頼み口と廃倉の間に、もう一つ足があるかもしれない」


「あるかもしれない」


ガラムは即答した。


「今日はそこまでだ」


広場に残っていた者たちは、誰も不満を言わなかった。

名が出た。

本人が歩いた。

それでも、まだ決めない。


ここまで来ると、もう急がないこと自体が場の力になっている。


薬草婆がぽつりと言った。


「名を歩かせた甲斐はあったねえ」


「名だけよりは、ずっとましだ」


ガラムは返す。


狼は腹で走る。

群れは順で持つ。


聞いた名は速い。

歩いた足は遅い。

だが、遅いからこそ嘘が残る。


ザムの足は、水車小屋に寄った。

けれど廃倉にはまだ届かない。


なら次は、

その間にある踏み返しを見る。


名が届かない場所に、別の足がある。

線はまだ、そこへ伸びている。

最後まで読んでくれてありがとう。聞いた名をそのまま置かず、実際に歩かせてみると見え方が変わるんです。次も楽しんでもらえたら嬉しいです。

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