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饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


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255/264

第255話 蒼同の踏み跡

訪問ありがとう。今日は少し静かに足跡を追う回。名に飛ばず、踏み方を見る流れを楽しんでもらえたら嬉しいです。

翌朝、広場の土は乾いていた。


乾いているぶん、足跡は残りにくい。

だが、踏み方の癖は残る。

深さではなく、向き。

幅ではなく、ずれ。

重さより、繰り返しだ。


ガラムは中央の印を見た。


足癖。

向かい先。

同じ足か。


昨日、名は出さなかった。

水車小屋から廃倉へ向かう足が、本当に同じ足か。

今日はそこを見る日だった。


赤、灰、茶の棒はいつも通り立つ。

受け取りも止めない。

ただ中央の余白だけ、昨日より少し長く取った。


足の道は、点ではなく線で見る。


エドが低く言う。


「足跡を持ってくるのか」


「足跡そのものじゃない」


ガラムは答えた。


「踏み方だ」


見張りが板を二つ打った。


門前に来たのは三人。

ラダン。

ボラン。

それと、廃倉近くの掃き役だという小柄な女だった。


女は手に細い板を持っている。

そこには土を擦った跡が残されていた。

足跡を写したものではない。

踏み跡の幅と向きを覚えるための、簡単な控えだ。


ガラムは門を一人分だけ開けた。


「入れ」


三人が中央へ来る。


女は軽く頭を下げた。


「水車小屋の裏と、廃倉前。どちらにも似た踏み方がありました」


「似た、だな」


ガラムが言うと、女はすぐ頷いた。


「同じとは言いません」


悪くない。


ガラムは中央の土に新しい印を置いた。


似た足。


それから少し離して、もう一つ。


同じ足。


「今日は、この二つを混ぜない」


ラダンが頷く。


「水車小屋の裏では左足が浅く、右足が強い。廃倉前でも同じような踏み跡がある」


ボランが続ける。


「ただ、廃倉前は人の出入りが多い。踏み返しもある。完全には取れない」


「なら、同じ足とはまだ置けない」


「置けない」


ボランは素直に認めた。


ガラムは女を見る。


「お前が持っているものは」


「似た踏み方を見たことです」


「聞いたものは」


「その足が誰のものか、です。廃倉の連中が、左足を引く口利きならザムだろう、と言っていました」


ラダンが少しだけ目を動かす。

ザム。

名が出た。


だが、ガラムはすぐに手で止めた。


「今の名は聞いたものだ」


女は頷く。


「はい。私は見ていません」


「なら名はまだ置かない」


広場の空気が、そこで一つ止まり、また動いた。


名は出た。

だが、まだ地面には置かない。

それが今日の守りだった。


薬草婆が小さく笑う。


「聞いた名は、足より軽いねえ」


「軽い。だが走る」


ガラムは答えた。


だから止める。

聞いた名が走れば、踏み跡より先に人へ届く。

それでは、ここまで足で戻ってきた意味がない。


エドが腕を組む。


「次は、そのザムって奴の足を見るわけか」


「聞いた名と、似た足を、まだ直接結ばない」


ボランが低く言う。


「ザム本人に立たせるか」


「立たせるだけでは足りない」


ガラムは首を振った。


「歩かせる。水車小屋から廃倉へ向かう時と同じ道でな」


ラダンの目が少し細くなった。

だが反対はしなかった。


「そこまでやるか」


「名を出すならな」


小柄な女は、ほっとしたように息を吐いた。

自分の口から出た名が、そのまま誰かを落とす形にならなかったからだろう。


ガラムは似た足の印を見下ろした。


「今日はここまでだ。似た足はある。聞いた名もある。だが、同じ足ではない」


ディノが壁の上から言う。


「地味だな」


「地味でいい」


ガラムは返す。


「派手な名ほど、踏み跡を飛ばす」


狼は腹で走る。

群れは順で持つ。


足跡は薄い。

名は速い。

だから、名より足を先に歩かせる。


似た足。

聞いた名。

同じ足。


この三つを混ぜなければ、まだ誰か一人へ落ちない。


ガラムは南壁の外を見た。

道は乾いている。

だが、乾いた道でも癖は残る。


次は、名が出た者を歩かせる。

そこで足が同じ向きへ沈むかどうか。


決めるのは、それからでいい。

最後まで読んでくれてありがとう。似た足と同じ足を分けるだけで、話の走り方ってかなり変わるんです。次も楽しんでもらえたら嬉しいです。

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