第255話 蒼同の踏み跡
訪問ありがとう。今日は少し静かに足跡を追う回。名に飛ばず、踏み方を見る流れを楽しんでもらえたら嬉しいです。
翌朝、広場の土は乾いていた。
乾いているぶん、足跡は残りにくい。
だが、踏み方の癖は残る。
深さではなく、向き。
幅ではなく、ずれ。
重さより、繰り返しだ。
ガラムは中央の印を見た。
足癖。
向かい先。
同じ足か。
昨日、名は出さなかった。
水車小屋から廃倉へ向かう足が、本当に同じ足か。
今日はそこを見る日だった。
赤、灰、茶の棒はいつも通り立つ。
受け取りも止めない。
ただ中央の余白だけ、昨日より少し長く取った。
足の道は、点ではなく線で見る。
エドが低く言う。
「足跡を持ってくるのか」
「足跡そのものじゃない」
ガラムは答えた。
「踏み方だ」
見張りが板を二つ打った。
門前に来たのは三人。
ラダン。
ボラン。
それと、廃倉近くの掃き役だという小柄な女だった。
女は手に細い板を持っている。
そこには土を擦った跡が残されていた。
足跡を写したものではない。
踏み跡の幅と向きを覚えるための、簡単な控えだ。
ガラムは門を一人分だけ開けた。
「入れ」
三人が中央へ来る。
女は軽く頭を下げた。
「水車小屋の裏と、廃倉前。どちらにも似た踏み方がありました」
「似た、だな」
ガラムが言うと、女はすぐ頷いた。
「同じとは言いません」
悪くない。
ガラムは中央の土に新しい印を置いた。
似た足。
それから少し離して、もう一つ。
同じ足。
「今日は、この二つを混ぜない」
ラダンが頷く。
「水車小屋の裏では左足が浅く、右足が強い。廃倉前でも同じような踏み跡がある」
ボランが続ける。
「ただ、廃倉前は人の出入りが多い。踏み返しもある。完全には取れない」
「なら、同じ足とはまだ置けない」
「置けない」
ボランは素直に認めた。
ガラムは女を見る。
「お前が持っているものは」
「似た踏み方を見たことです」
「聞いたものは」
「その足が誰のものか、です。廃倉の連中が、左足を引く口利きならザムだろう、と言っていました」
ラダンが少しだけ目を動かす。
ザム。
名が出た。
だが、ガラムはすぐに手で止めた。
「今の名は聞いたものだ」
女は頷く。
「はい。私は見ていません」
「なら名はまだ置かない」
広場の空気が、そこで一つ止まり、また動いた。
名は出た。
だが、まだ地面には置かない。
それが今日の守りだった。
薬草婆が小さく笑う。
「聞いた名は、足より軽いねえ」
「軽い。だが走る」
ガラムは答えた。
だから止める。
聞いた名が走れば、踏み跡より先に人へ届く。
それでは、ここまで足で戻ってきた意味がない。
エドが腕を組む。
「次は、そのザムって奴の足を見るわけか」
「聞いた名と、似た足を、まだ直接結ばない」
ボランが低く言う。
「ザム本人に立たせるか」
「立たせるだけでは足りない」
ガラムは首を振った。
「歩かせる。水車小屋から廃倉へ向かう時と同じ道でな」
ラダンの目が少し細くなった。
だが反対はしなかった。
「そこまでやるか」
「名を出すならな」
小柄な女は、ほっとしたように息を吐いた。
自分の口から出た名が、そのまま誰かを落とす形にならなかったからだろう。
ガラムは似た足の印を見下ろした。
「今日はここまでだ。似た足はある。聞いた名もある。だが、同じ足ではない」
ディノが壁の上から言う。
「地味だな」
「地味でいい」
ガラムは返す。
「派手な名ほど、踏み跡を飛ばす」
狼は腹で走る。
群れは順で持つ。
足跡は薄い。
名は速い。
だから、名より足を先に歩かせる。
似た足。
聞いた名。
同じ足。
この三つを混ぜなければ、まだ誰か一人へ落ちない。
ガラムは南壁の外を見た。
道は乾いている。
だが、乾いた道でも癖は残る。
次は、名が出た者を歩かせる。
そこで足が同じ向きへ沈むかどうか。
決めるのは、それからでいい。
最後まで読んでくれてありがとう。似た足と同じ足を分けるだけで、話の走り方ってかなり変わるんです。次も楽しんでもらえたら嬉しいです。




