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饗狼傭兵団戦記 〜腹を満たすまで〜  作者: 影道AIKA


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225/236

第225話 蒼直の名乗り

訪問ありがとう。今日は静かに名の重さを測る回。派手さはないけど、じわっと楽しんでもらえたら嬉しいです。

夜明け前、南壁の上はまだ薄青かった。


見張りの肩越しに見える街道は静かだ。荷車の音もない。人影も薄い。だが、静かな朝ほど次の手は近い。昨日、名だけを預けに来た干し肉売りの足は軽すぎた。あれは様子見で、本手ではない。


ガラムは広場へ降りる前に、見張りへ一つだけ言った。


「今日は、名を先に通す」


見張りの若者が頷く。

意味はもう伝わる。物より先に、紙より先に、誰の名で来たかを場に通す。そこを曖昧にすると、また名だけが先頭に立つ。


広場では、赤、灰、茶の棒がいつもより少し狭く立てられていた。今日は人の動きより、口の往復を見る日だ。狭い方が視線が交わる。交われば、誰がどこで何を言ったかも追いやすい。


受け取りが始まってしばらくした頃、南壁の見張りが板を二度打った。


門前に来たのは一人の老人だった。

杖をついているが、足元はしっかりしている。町側でも顔の通る仲立ちだ。知らない者ではない。だからこそ厄介だった。知らぬ顔の理屈より、知った顔の名乗りの方が場へ入りやすい。


老人は門前で軽く手を上げた。


「話を持ってきた」


「誰の名でだ」


ガラムはすぐ聞いた。


老人が少しだけ目を細める。


「せっかちだな」


「順だ」


それだけで、老人は苦く笑った。


「ラダンの名で来た。昨日の帳面切れの件、あれは組合の不足と繋がるかもしれん。拗れる前に、見つかった物と荷の流れを照らしたい。そういう話だ」


昨日より一歩進んでいる。

名だけではない。用向きまで整えてきた。


だが、まだ継ぎ目が足りない。


「お前はラダンに直接そう聞いたのか」


「聞いた」


「どこで」


「町の北市だ」


「他に誰がいた」


老人は杖の先で土を軽く突いた。


「八百屋の爺と、布屋の若いのがいた」


そこまで出るなら、少なくとも昨日までのふわついた名よりは重い。だが、重いからそのまま受けていいわけではない。


ガラムは門を開けないまま言った。


「名は通った。次に用向きだ。照らすと言ったな。誰の帳面と、どこの荷だ」


老人が少し黙る。


その間が、広場にも見えた。

赤布の列にいた者が一人、そっとこちらを見て、また前へ向き直る。


老人は答えた。


「そこまでは、まだ決まっておらん」


「なら、まだ話はここまでだ」


「待て。話を細くするな」


「細くしてるんじゃない。太らせないだけだ」


老人の眉がぴくりと動いた。


名乗りは直だった。

だが用向きはまだ曖昧だ。

名だけを重くして、用向きを後から足す。そういう運び方は、結局また向こうの順になる。


ディノが壁の上から笑う。


「今日は昨日より上手いな」


「上手い分、半端が見える」


ガラムは返した。


老人はしばらく考え、やがて肩を落とした。


「……わかった。ラダンにはそう返す。名は通ったが、用向きが足りんとな」


「そうしろ」


「お前ら、本当に面倒なやり方になったな」


「腹を崩さないためだ」


老人は鼻で笑ったが、怒ってはいなかった。

むしろ少しだけ感心している顔に近い。そのまま杖を返し、町道へ戻っていく。


ガラムはその背を見送りながら思う。


これで一つ見えた。

相手は、もう名を曖昧には運べないところまで来ている。なら次は、名も用向きも揃えて来る。揃えて来られれば厄介だ。だが揃えるには手間がいる。手間が増えれば、急ぎの押しつけは減る。


広場では受け取りが止まらない。

赤、灰、茶の流れは細く、だが切れずに続いている。


狼は腹で走る。

群れは順で持つ。


名を受けるにも順がいる。

それが今朝、ようやく場の方にも根を下ろし始めていた。

最後まで読んでくれてありがとう。名がまっすぐ来た時ほど、どこまで受けるかの線引きが大事なんです。次も楽しんでもらえたら嬉しいです。

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