シェリー・ケイラ
ゼント達はケイラ商会を出た後、少し坂道を登り王城に近くまで来ていた。
「ここが王都とビヨンド港を一望できる場所なんですよ。」
シェリーに案内された場所は王城からビヨンド港まで一直線に続く道の始点だった。
港の先のサルガス海は太陽に照らされてキラキラと輝いていた。丁度まっすぐな道の先には太陽が来ており、今がほぼ正午であることから王城から道は真南に向かっていると思われる。
時間は正午であるが、晩秋の太陽に位置は低く、王都の街並みに綺麗な陰影が出来ていた。
「潮の香りがしてきますね。」
ヴェルスが海からの風でなびくシルバーブロンドの髪に片手を充てながら呟いた。
うん、爽やかな色気だ。ゼントは心の中で呟いていた。
「もうお昼だからその辺でお昼食べようよ!」
「そうじゃな、折角海に近いんじゃから、海鮮料理が食いたいのう。」
ミュウの提案にゼンも乗っかってきた。
うん、潔い食い気だ。 ゼントは心の中で呟いていたが、ゼントも腹が減っていた。
「どこか、その辺で昼食にしようか?シェリーさん、いいお店知らない?」
「はいお、丁度この道沿いに知り合いのお店がありますので、ご案内しますね。」
そう言うとシェリーはビヨンド港に続く一直線の道を歩き始めた。
通りには食堂が点在しており、いずれも昼時なので満員と思われる店が多かった。中には行列の出来ている店もある。
なんかやたらにキラキラしてないか?
ゼントは通りを歩きながら気が付いた。多くの店の看板がピカピカの金属製で、金や銀に輝いているのだ。晩秋の澄んだ光のせいかよりまぶしく見える。
「シェリーさん、あのいろんなお店にある金属製の看板ですが、王都で流行ってるんですか?」
オナシティや王都に来る途中で寄った街では木で出来た看板が普通だったのだ。金属は青銅製が偶に見かけるくらいだったのに、王都に着たら小さな雑貨屋までやたらと金属製の看板があるのだ。
「あの看板ですか・・・。」
シェリーは余り気が乗らなそうに話し始めた。
「あの看板はですね、元は2年前に当商会が販売を開始したもので、鉄に『メッキ』と言う処理をして錆びにくくしたものなんですよ。」
メッキ?これも異世界の技術じゃないか?この世界の技術の進歩状況を考えるとメッキは早すぎるのだ。
「そう、この『メッキ』という技術は最新の技術で、ケイラ商会で秘匿していたのですが、いつの間にかオーラ商会が同じ商品を販売していたのです。値段は半値以下で。」
シェリーの語気は強く目が座っているので、かなり怒っているであろうことが分かった。
「それから、値段が安いこともありオーラ商会のこの商品はあっという間にベストセラーになり、王都中の店で使われるようになったのです。当店の原価を下回る金額のため、始めは粗悪品ではないかと疑って調べたのですが、品質には全く問題がありませんでした。非常に残念ですが、この商品だけは完敗です。」
シェリーは両手を軽く上げて万歳するようなジェスチャーをとっていた。ゼントはシェリーに何て言ったらよいのか分からず頷いているだけだった。
「ああ、すみません、こちらが海鮮料理で有名なレストラン『イセ』でございます。」
シェリーが足を止めた店は、如何にも高級そうなレストランであった。外観は和食と言うより洋食、もといこの世界の料理が出てきそうな感じである。ただ、名前からするとイセエビでも出てくるのか?とゼントは思った。
高そうだけど謝礼として貰ったお金もあるので、ゼント達は若干躊躇いながらもレストランの中に足を踏み入れた。
店の中に入るとそこはまだ通路でその向こうにすりガラスの開き戸と暖簾があった。
そうそれはゼンとゼントに期待を抱かせるには十分であった。二人は我先にと開き戸を開いた。
「いらっしゃいませー!」
和服姿の女性がゼント達を見て笑顔で出迎えてくれた。ただ、女性の髪の毛は黒ではなく緑がかった銀髪で、瞳の色はかなり濃い緑だった。
黒髪でないことにゼンもゼントもかなり違和感を感じたが、和服姿ということはこの店を起こした人は転生者なのかもしれない。「「よっしゃー!」」ゼンもゼントも心の中でガッツポーズを決めていた。
「あ、ケイラさん、お部屋ちゃんとお取りしておりますよ。」
「はい、ありがとうございます。」
ゼント達は店員に奥の部屋を案内された。
ん?部屋を予約してたのか?ゼントは不思議に思いシェリーに聞いた。
「シェリーさん俺達がこの店に行きたがるのを予測していたということですか?」
「まあ、何となくなんですけどね。内陸から王都に来た方って海の食べ物を食べてみたいという方が多いのと、祖母が行ってたのですが、黒髪の方は魚が好きな方が多いって。それにこの時間帯だとこのお店はいつも混んでいるので予約をしておかないと駄目なんですよ。」
黒髪?日本人のことか?ゼントは思わず髪の毛に手を当てていた。
予知能力でもあるのか?
(イエ、主殿彼女ニソノヨウナスキルハアリマセン。)
(びっくりした!コネクト急に話しかけないで。)
(スミマセン、彼女ハオソラク様々ナ情報ヲ元ニ類推スル能力ニ長ケテイルノダトオモワレマス。)
(爺さんは、発想が斬新ていってたけど、それと類推する能力は違わない?)
(様々ナ情報ヲ元ニ、人々ガ何ヲ欲シテイテ、ソレヲ供給スルタメニ何ガ必要カヲ見極メル事ガデキレバ商売ハ繁盛サセル事ガデキマス。特ニソノ情報源ガ転移者ヤ転生者ナラバ、地道ニ達成シタコトダトシテモ、傍カラ見レバ斬新ニ見エマス。オソラク彼女ハ知合イニ
転移者ヤ転生者ガイルトオモワレマス。)
(ふーん・・・・つ、もしかして俺が転移者だということがばれている?)
(彼女ノ中デハ半分グライ決定事項ニナッテイルトオモワレマス。)
ばれたからって減るもんじゃ無いが、余り公表したくもないな。ゼントはそんなことを考えながら席に座った。
シェリーに、ここの支払いケイラ商会が持つので、値段は気にしなくてよいので好きなものを注文してくださいと言われたが、元々が庶民なので一番コスパの良い物を選んでいた。それでも庶民の店の昼食の価格の4倍はする価格だった。
ゼントとゼンとミュウは海鮮丼を、ヴェルスはちらし寿司を選んだ。
「皆さんが選んだ料理はライ(米)を煮たものに生魚が載ったものですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫って?」
ゼントは不思議そうな顔でシェリーを見た。
「生魚もライもまだ王都近辺でしか食べられていません。昨日オナシティから王都にいらっしゃったばかりだと初めてかなと思いまして。」
「あ、ああそう言うことですか、ん・・・・。」
普通に食べられますと言ったら、異世界人(日本人)丸出しじゃあないか?
ゼントは咄嗟に言い訳を考えた。
「えっと、昨日宿でライは美味しく頂きましたし。生魚と言うのも珍しいので試してみようかと。」
「そうですか、それならよいのですが。」
料理注文するのに何でこんなに緊張するんだ。
ゼントはそれ以上シェリーが何も言われないのでホッとしていた。
シェリーは店長お勧め漬け丼を注文し、しばらくすると全員の分が配膳されてきた。
「さあ、皆さんどうぞ召し上がってください。」
シェリーに言われたが、ゼンとゼントは海鮮丼と一緒に来た『醤油のような』小皿に入ったソースをじっと見ていた。
「ばあちゃん、これなんだと思う?」
「わ、儂には判断できん。」
「匂いは?」
小皿を持って匂いを嗅いだゼントは目を丸くした。
「あ、あれの匂いだぞ。」
「魚醤とは違うのじゃな?」
「魚の匂いはしない。正にあれだって。」
「よし、それじゃあ試すぞ!」
「う、うん!」
ゼンとゼントはガチガチに緊張しながら、小皿のソースを海鮮丼にかけ始めた。
「「よ、よし食べるぞ!」」
二人はほぼ同時に丼ぶりを持って食べ始めた。
「う、美味い!」
ゼントは目を閉じて久しぶりの醤油の味に酔いしれていた。一方ゼンは・・・。
「う、う、う・・・・・・つ。」
泣いていた。
「この世界に生を受けて七十余年・・・とうとう巡り合うことが出来たわい・・・。」
そう、それは紛れもなく『醤油』であった。
ゼンは味噌を作ったことはあったが、醤油は作ったことは無く、自作することはできなかったのだ。昔ソーリの森を越えて人間の住む国に到達した時に必死で探したが醤油は見つけることが出来なかった。当時この王都に来た時も醤油はおろか刺身に出会うこともなかったのだ。
それが今絶品の刺身と醤油と米が混然一体となってゼンの口の中にあるのだ。
ゼンはそれを飲み込むと一言呟いた。
「長かった・・・。」
シェリーはこの二人の行動を見て、確信していた。この二人は転生か転移かは分からないが異世界から来たのだと。
一方ミュウはというと。
「んー3年ぶりの刺身は美味いなー、この醤油っていうソースも美味いんだよな。」
「「え?」」
ミュウの言葉にゼンとゼントは茫然とした。
「ミ、ミュウはこのソース食べたことがあるのか?」
ゼントは真剣にミュウに聞いた。
「ああ、以前王都に来た時食べたぞ、なんか懐かしい味がするんだよね。」
「「あ!」」
ゼンとゼントは少しずっこけたようなポーズをとっていた。
そうか、ミュウの前世は猫だから、醤油と言う言葉は知らないんだ・・・。
そう、以前からゼントはミュウにも醤油を知らないかと言っていたのだが、ミュウからは知らないという返事しかなかったのだ。
「ま、まあいいか、こうやって出会うことが出来たのだから。」
「そ、そうじゃな。」
ゼンもゼントも再び海鮮丼を食べ始めた。
「あら、このご飯酸っぱいんですね!」
ヴェルスがちらし寿司を一口食べて驚いて声を上げたのだ。
「それは酢が入ってるからじゃよ。腐っているわけではないから大丈夫じゃよ。」
「そうなんですか?変わった食べ方ですね。確かに嫌な酸っぱさじゃあないので、生の魚と食べると美味しいですね!」
ヴェルスは満足そうに再びちらし寿司を頬張った。
シェリーは少し不思議に思った、ミュウさんとヴェルスさんも異世界人の可能性があるのだが、どうもゼントさんやゼンさんとは違うのだ。別の国、それともゼントさん達といるから行動が似ているの?いえ、行動が似ているのではない。何かこうどちらも世間ずれしているというか浮世離れしているというか・・・・。
「シェリーさん気持ちでも悪いのですか?」
シェリーはゼントの言葉に我に返った。
「いえ、そんな事はありません。」
「そうですか、箸が止まって凄く辛そうな顔をしていたので気分でも悪いのかと思いました。」
いやだ、私考え事をすると眉間に皺が寄るんだった。気をつけないと。
シェリーは再び漬け丼を食べ始めた。




