ケイラ商会②
ゼント達の『その話は聞きたくありません。』オーラを気に留めもせずブライアンは話始めた。
「そう、そんな事を言ってもただの爺バカと思われるかもしれませんので、ケイラ商会について少し話をさせてください。」
「ケイラ商会は私の祖父、いえ祖母が起こした商会なんです。祖父は腕の良い鍛冶屋でしたが、商売は全くダメでした。当時は職人が武器を作って自分で販売するというのが当たり前の時代だったので、当然祖父も自分で作った武器や金物などを自分で販売しなければなりませんでした。そう祖父には商才というのが全くなかったので。いい品を作ってもいいように買いたたかれていました。」
「そんな当時の祖父を見かねた祖母が、押しかけ女房の様に祖父の元に嫁ぎ、祖父の作った武器や金物の販売を始めたのです。」
「祖母は見た目の良いなまくら刀と祖父の作った見目は悪いがしっかりと使える刀を比較して売ったり。祖父が作ったものがある期間の内に破損した場合は無償で修理する保証をつけるなど当時としてはとても斬新な方法で売上をどんどん伸ばしました。そうこうしているうちに祖父の仲間からも自分の武器を打ってほしいという要望があり、祖母はそれに応えました。」
「そんな事をしているうちに店はどんどん大きくなり、そのうち武器以外も取り扱うようになり店は発展を続けたのです。」
「おばあさんはとても斬新なアイデアの持ち主だったのですね。」
ヴェルスの質問にブライアンは嬉しそうに答えた。
「ええ、私が思うに祖母は異世界の転生者ではなかったかと思うんですよ。名前もこの世界では変わっていて『トモエ』という名でした。後で聞いた話ですが、親から貰った名は別の名前で成人した時に自分で勝手に改名したとのことです。元の名前は最後まで教えてくれませんでした。」
改名したってのはばあちゃんと一緒だな、名前も『トモエ』だと元は日本人確定か?
ん?ばあちゃんの親からもらった名前は何て言うんだ?
ゼントがそんな事を考えているうちにブライアンは話を進めていた。
「店の発展は祖母の一人娘である私の母の時も続きました。気が付けば、小麦から帆船まで手掛ける巨大な商会となっていました。」
ブライアンはお茶を一口飲むとやや渋い顔になり話を続けた。
「ただ、一人息子だった私は母からこの商会を引き継いだのですが、残念ながら私の代で商会を更に発展させることはできませんでした。母と祖母に叩き込まれた知識でも維持するのがやっとだったのです。それは息子のラウスの代でも同じでした、私達には斬新な発想が出来なかったのです。」
「ところが、この孫娘のシェリーの発想は斬新で、まるでトモエばあさんの生まれ変わりじゃないかと思ったくらいです。更にもう一人の孫娘のサリーは鋭い洞察力で先の先を読む力を持っており、この二人にケイラ商会を任せられれば鬼に金棒、怖いものなしと言ったところなんです。」
ブライアンは先程とは打って変わって満面笑みとなっていた。
「はぁ、そうなんですか。」
ゼントは、結局爺バカなのかと思い、そろそろお暇したくなっていた。
「そこで、ここからが本題なのです。」
ブライアンはにやけた顔を引き締めた。
「5年程前なのですが、ここ王都にオーラ商会という新しい商会が出来まして、オーラ商会はやり手の店主のおかげで急激に大きくなり、あっという間にケイラ商会のライバル関係となったのです。」
「当初は、よきライバルがいればお互いに競い合いながら成長できると思っていたのですが、オーラ商会のやり方は強引で、職人達に当商会より良い買取条件を提示して引き抜いた後に、徐々に買取条件を下げ、色々な名目で手数料を取るなどして、知らないうちに職人達を借金だらけにしてしまい、奴隷扱いでただ同様に働かせているのです。結果として原価が安くでき、小売りを当商会より安くしてもそれ以上の利益を出すようになったのです。」
「流石に私も息子もそんな職人たちの惨状を見かねまして、古くから付き合いがあった方には借金の返済の手助けをしたりして元の様に生活や仕事が出来るように手助けをして参りました。」
「・・・・まあ、そんな事をすればオーラ商会も気に食わんのでしょう。借金を返却した職人に嫌がらせをしたり、我々の荷物の運搬を邪魔したりとあからさまに嫌がらせをしてきました。そのぐらいは予測の範囲内だったのですが、つい先日は娘が暴漢に襲われかけたのです。その件はオーラ商会がやったとは断言できなかったのですが、念のためAランク冒険者を4名雇って護衛を始めた矢先に昨夜の事件が起きたのです。」
「ちょっと待ちな、あれがオーラ商会の仕業って言うのかい!」
ゼンが語気を強めてブライアンに問いただして。
「ええ、あんなSSランクの化け物を王都のど真ん中に召喚するなど、一介の商会に出来るはずないとお考えになるのもごもっともですが、私にはそう思えてなりません。」
少しの沈黙の後、ブライアンは話を続けた。
「・・・・ここで申し上げるのも何ですが・・・。私どもが調べた結果ですが、オーラ商会の資金源はオーマ国の可能性が高いのです。」
「まさかの国家が後ろ盾と言うことか・・・・。」
ゼンもゼントもまたかと思ったが、流石に口には出さなかった。
「仮にオーマ国が黒幕だったとしても、一商会の跡取りを暗殺するためにSSクラスのモンスターをゴード国に出現させるかな?俺だったら本気で戦争仕掛ける時に使うよ。」
ゼントの言い分も最もだった。災害クラスのモンスターを出現させるなら国家転覆を狙うような時に使う方が良いのだ。
「どうやってあのモンスターを捕獲し王都に放ったかは分からんが、奴が倒されなければあんな化物が王都に出現したとはだれも思うまいな。」
「あ、そうか・・・。」
ゼンの言葉にゼントは理解した。
「あのモンスターを一時だけ出現させて目的を完了した後、転移させてしまえば、どんな奴があなた方を殺したのか分からないということじゃ。死人に口なしと言うじゃろう。」
「お前があれを倒さなければこれ程大事にはならず、何者かによる惨殺事件ということで片付いたのじゃ。普通に考えたらあいつを見た時点で生き残れる可能性は限りなく0に等しいからな。奴らはモンスターがいたという事実を残す気が無かったんじゃよ。」
「ということは・・・あいつ等相当焦ってるよな。」
「そうじゃな、どの様なことを企んでるか分からんが、事を急ぐ可能性はある。」
「ところで、あのモンスターが持っていた剣はオリハルコンじゃったが、あのオリハルコンは調査しておるのかのう。」
「ばあちゃん、どういうこと?」
「オリハルコンはな、産地によって魔力を蓄える能力が違うんじゃよ。一番魔力を蓄えることが出来る質の良いオリハルコンを産出するのがフラウリング国で、質は良くないが大量にオリハルコンを産出するのがオーマ国じゃ。」
「それなんですが、ギルドから当商会に鑑定依頼が出ておりまして、既に産地が特定できております・・・・ご想像通りオーマ国でした。」
暫らくの沈黙後ブライアンは懇願するように話始めた。
「是非あなた方にお願いがあります。王都にいる間だけでも良いので孫娘の護衛をしてくれませんか?」
ゼント達は思わず顔を見合わせてしまった。そう、ゼント達は王都にいる間は自由にしてよいと言われていたので観光気分満々だったのだ。
「あなた方はBランクのパーティですが、 特秘Sクラスの依頼を受けられることから王家からの信頼もあり、なにより昨夜の件でSランク以上の実力を持っておられることとお見受けします。あんなモンスターに襲われる可能性があるとなるともうAランク冒険者ではどうにもならないのですよ。」
少し考えた後にゼンが話始めた。
「儂らは知っての通り依頼で王都に来てるからな、依頼主に相談せんと回答は出来かねるな。」
いや、ばあちゃん自由にしていいって言われてるじゃん。ゼントは心の中で突っ込んだが、口には出さなかった。ゼントも当然王都で遊びたかったのだ。
「そうですか、分かりました。依頼主の方と相談なさってから返事をください。良いご返事を期待しております。」
ゼントとゼンは、ブライアンがもう少し食い下がってくるかと思ったが、意外とあっさり引き下がったので拍子抜けしてしまった。
「それでは、俺達はもう帰りますね。」
ゼントがそう言って立ち上がると、シェリーが、引き留めるように質問をしてきた。
「ゼント様、よろしければこの後のご予定を教えていただけませんか?」
「いや、この後は少し王都を見て回ろうかと思っているけど。」
「それなら私がご案内致しましょうか?」
「いや、命を狙われているかもしれないのに、あまりうろつくのは良くないんじゃない?」
「あんなSSランクモンスターが出てくるならどこにいても同じですよ。それよりそのモンスターを倒せる方の傍にいた方が安全だと思いませんか?」
「ああ、それもそう・」
「そうですよね!それでは参りましょう。」
ゼントが返事をする前にシェリーは強引に話を決めてしまった。




