ケイラ商会①
ゼント達がギルドから出ていくとシェリー達が待っていた。
「ゼントさん、お待ちしておりました。どうぞこちらの馬車にお乗りください。」
そこには黒光りした車体に金色の縁取りや模様が描かれた、いかにも高そうな馬車が控えていた。
この馬車、カール教授を迎えに来た馬車より豪華だぞ・・・。ケイラ商会って一体どんな店なんだ?
「いや、ギルドから人命救助の報奨金を貰ったから、助けたことはもう気にしなくていいですよ。」
「いえいえ、あれでは私達の気がすみません。是非当店にお越しいただき、お礼をさせてください。」
ゼント達は無下に断るのも何だと思いシェリー達に勧められるがまま馬車へと乗り込んだ。
馬車の中は外観と同じ様窓の縁は金色に塗られており、壁や天井には柔らかい布で覆われており、如何にも豪華な造りであった。椅子は毛の短い柔らかい素材で出来ており、適度な固さで椅子の座り心地はすこぶる良かった。
「凄く豪華な造りですね。」
ヴェルスが素材を確かめるかの様に椅子や内装を触っていると。ミュウが椅子の上でご機嫌に跳ねていた。
「本当だ!この椅子とても良く跳ねるよ!」
「お気に召していただけて嬉しいですわ。」
馬車は前側に3人後ろ側に3人、計6人乗りであったが比較的ゆったりしていたのでゼント達は後ろ側に4人詰めて乗り込んだ。
「それではきついですよ。ゼントさん、よろしければこちらにどうぞ。」
「いや、さすがにそこは悪いでしょう。」
シェリーはブライアンとの間を空けてそこに座る様にゼントに言ってるのだ。
「いえいえ、私達は全く気にしませんので、どうぞ。」
シェリーはやや強引にゼントを自分たちの間に座らせると馬車は出発した。
ゼント達は二人に挟まれて少し落ち着かなったが、馬車が動き出すとそんなことを忘れてしまう程驚いた!石畳の道の振動がほとんど伝わってこないのだ。
「この馬車凄いですね。こんな乗り心地の良い馬車は初めてです。」
「そうですか、お気に召していただき大変光栄です。」
ブライアンが待っていましたと言わんばかりに嬉しそうに話始めた。
「この馬車には『サスペンション』と言うものが付いていまして路面の振動を吸収する最新式なのですよ。このサスペンションと言うのは『バネ』と言うものが付いていましてそれで振動を吸収して、『ダンパー』とういものでバネが揺れすぎるのを防いでいるんです。この機構を採用したのは当店が初めてでして、これから本格的に売り始めるところなのですよ!」
ん?それもあちらの世界の技術では?なんか妙に異世界人(もしくは転生者)多くないか?やっぱり何か元居た世界とのつながりがあるのだろうか?ゼントがそんなことを考えていると馬車はある店の前で停車した。
店は武器や防具を打っている店で、店構えはしっかりしているがそんな大店と言った感じはなかった。後ろに立っている4階建ての建物の方が余程大きい。
「どうぞこちらに。」
先に馬車を降りたシェリーに従ってゼント達は武具店に入って行った。
「おかえりなさいませ、大旦那様にシェリーお嬢様。」
ブライアンとシェリーが店に入ると店員達がブライアン達の方を向き頭を下げたのだ。
「皆さん、今日お連れしたお客様は私達の命の恩人ですから、粗相が無いようにね。」
ブライアンがそう言うと、店員の中で一番年上と思われる男がゼント達の方へ歩み寄ってきた。
「貴方がゼント様ですね。私はケイラ商会で大番頭をしておりますリチャード・ケスと申します。昨日は大旦那様とシェリー様を助けていただき本当にありがとうございます。奥におくつろぎになれる場所をご用意しましたのでこちらにどうぞ。さあ、お美しいお嬢様方もこちらに。」
美しいと言われて嬉々としたゼンを先頭にゼント達は店の奥に入って行った。
ん?なんか外から見たより奥行があるような??
「申し訳ありませんが、ここから上の階に上がっていただきます。」
ゼント達の前には階段があった。
階段?いやこの店平屋だったよね??
ゼント達はリチャードについて階段を登り始めた。
2階・・・4階ってことはあの店の後ろにあった4階建ての建物か!
そう、武具店は後ろのビルと繋がっていたのだ。
「どうぞこちらのお部屋にお入りください。」
ゼント達が入った部屋は豪奢な造りをした家具や名画と思われる巨大な絵が壁に掛けてあった。更にゼント達を驚かせたのは窓側が全面ガラス張りになっている事だった。全面ガラス張りと行っても1m四方のガラス板が細い枠にはめられて何枚も繋がっている状態なのだが、この世界の標準を遥かに超えていることが分かった。この世界でもガラス窓は普及しているが、ガラスの純度が低いのか妙な色味がかかっていたり中に気泡が入っていたりして透明度が低い。さらに30cm四方の小さいガラス板でも平面度が悪く外が歪んで見えているのだ。それが、この窓は一枚1m四方あるにもかかわらず歪みがほとんど無く、色味も気泡も少ないため外の景色がとても良く見えるのだ。
「凄いガラスですだ!」
「そうですね、これだけ綺麗なガラスは天か・・・・天、天、そうまるで天国見たいですね。」
ヴェルスが天界と言おうとしたので ゼントが肘でヴェルスを突いて止めたのだ。
「ふむ、これだけの純度のガラスを作るとなると相当な技術が必要じゃろうな。」
「流石、お目が高い。これだけのガラスを作るのに職人達にはとても頑張ってもらいました。それでもガラスの純度を上げる事が出来れば、灯りをつけずとも部屋の中を明るくできますし、見やすい良い眼鏡を作れるなど、色々とと人々の生活に役立てることが出来ます。この部屋はそう言った事を多くの人に理解してもらうためのパフォーマンスの場として作りました。ちょっと成金趣味に思われてしまう所が難点ですが・・・。」
ブライアン氏は頭を搔きながらも熱心にゼント達に説明してくれた。
「凄いな、王都が一望できるぞ!あそこは緑の牧亭だ!」
ミュウが窓側に駆け寄り指をさした方向に緑の牧亭が見えた。
「あそこは、あの水路の近くは昨日モンスターが出た場所じゃないか?」
ゼントが指さす方向には水路の曲がり角があり、そこには昨日の雑貨店があった。
「そうじゃな、間違いない。意外とここから近いんじゃな。」
「その、昨日のモンスターの件何ですが・・・。」
ゼント達が声の方を向くとお茶とお菓子を持ってきてくれたメイドがそこに立っていた。
「昨日のその時間、丁度この部屋の掃除をしていたのですが、気になることがありまして。」
メイドはゼント達の話をしようとしたその時。
「こら、お客様がいる時に無駄な話をしてるじゃない。ご迷惑になるから早く戻りなさい。」
リチャードがメイドを叱責すると、メイドは申し訳なさそうに部屋を出ていった。
「さあ、皆さん外を眺めるのも良いですが、お茶の準備が出来ましたので、こちらでお召し上がりください。」
リチャードに勧められて皆椅子に座ったが、ゼントだけがそわそわした様子で立ったままだった。
「すみません、トイレを貸してもらえませんか?」
「はい、トイレでしたら、階段の近くにあります。ご案内致しましようか?」
ゼントはリチャードの案内を断り、部屋の外に走って出ていった。
部屋を出たゼントは瞬歩を使い一瞬で姿を消した。
「お嬢さん、ちょっといいかな?」
部屋の前から姿を消したゼントはなぜか先程のメイドの前に立っていた。
右手をメイドの壁に突き立てた状態で・・・。
「・・・・。」
メイドは突然現れて壁ドンしてきたゼントに顔を赤らめて呆然として立ち尽くしていた。
「ごめん、驚かしちゃって。」
「え?貴方様は・・・。」
「さっき言いかけたことを教えてくれないかな?昨日あなたが見たことなんだけど。」
「それでしたら。」
メイドは気を取り直して話始めた。
「昨日、あの部屋をお掃除していた時なんですが、窓の外の夜景が綺麗だなと思って少し外の景色に見とれていました。」
「その時なんですが、急に街の一部がパッと一瞬だけ輝いたんです。」
「それは、モンスターが出現した辺りかな?」
「いえ、その辺りだけではなく、そこかしこで同時に光っていました。」
「それってもしかしてモンスターが出た辺りが真ん中辺じゃなかった?」
「えっと・・・・そう言われてみれば・・・はい、そうだったと思います。」
成る程、何かあるな。つ・・・・。ゼントはコネクトの警告でリチャードが近づいてくるのを察知した。
「お嬢さん、情報ありがとうございます。もし、リチャードさんが俺に何を話したか聞かれたら。『仕事が終わったら二人で食事に行かないかって誘われたので断りました。』って言っておいて。さっきの話を聞かれたことは言わない方がいいよ。」
「あ、はい・・でも」
メイドにはゼントが何故そんなことを言うのか分からなかったが、ゼントの真剣な顔をみて頷くと丁度リチャードが通路の角をまがって姿をあらわした。
「ゼントさん、トイレはそちらじゃないですよ。」
「え、あ、すいません。急いでたので瞬歩を使ったら。変な方向に来ちゃったみたいで。メイドさんにトイレを聴いていたところだったんですよ。」
「そうですか、トイレは反対側になります。」
「ありがとうございます。んじゃあ!」
ゼントは再び瞬歩を使いトイレに向かって行った。
残ったリチャードは冷たい目でメイドに話しかけた。
「あの男に何を聞かれたんだ。」
「え、あのうトイレを・・・。」
「本当か?」
リチャードの冷たい目が今度は刺すようにメイドを睨んだ。
「えっと、実は仕事が終わったら二人で食事に行かないかって誘われたのです・・・。」
リチャードの冷たい目が一瞬で点になってしまった。
そう、美女を3人もつれている男が別の男にナンパするなど、普通ならそんな話は信用しないはずなのだが、先程は壁ドンするなどあからさまに口説いている様子だったのと、なによりこのメイドがケイラ商会で一番の美女だった。結果としてリチャードは別の発想をしたのだ、そうこの男は片っ端から女を口説きパーティに引き込んでいると・・・・。
「あの男、美女3人とパーティを組んでるのに陰でナンパしているのか・・・・呆れた奴だな!」
「はい。丁重にお断りしておきました。」
「分かったもういい、戻って仕事をしなさい。」
メイドはそそくさと廊下を先へと進んでいった。
ゼントが部屋に戻ると皆既にお茶を飲み、お菓子を食べているところだった。
「ゼントさんも、どうぞこちらにお座りなってください。」
ゼントはシェリーに勧められて椅子に腰を下ろした。
「ゼント、この菓子美味いぞ!」
ミュウが口いっぱいにお菓子をほおばっていた。
「この紅茶、とても良い香りがして美味しいですよ。」
ヴェルスは上品に紅茶を飲んでいて、ばあちゃんは・・・ミュウと同じ状態だった。
ゼントもクッキーの様なお菓子を一つ頬張ってみると。
「これは!」
チョコチップが入っていて、サクサクとした食感は味は元の世界のクッキーと同じだ!この世界のクッキーは、お菓子と言うより保存食の様な感じで味はまあままだが、とにかく硬いのだ。オナシティで食べた元の世界のお菓子を真似たと思われるお菓子はかなり微妙なものが多かったが、このクッキーの再現度は高いのだ!ミュウとばあちゃんがガッツいているのも分かる。
「お気に召していただいたようで何よりです。このクッキーは今度私達が経営する菓子店で販売する予定なんです。」
シェリーが満面の笑みでゼントを見つめた。
俺、そんなに分かりやすい顔してたか?
「ええ、本当に美味しいですね!これならベストセラーになりますよ!」
ゼントは別のクッキーに手を伸ばした。
「はい、私もそう思います。実はこのクッキーは異世界から転生したという人が前世の記憶を頼りに作ったものなんですよ。」
「ぐっ、うぐっ・・・・。」
ゼントはシェリーの言葉を聞いてクッキーを喉に詰まらせたのだ。
「だ、大丈夫ですか?はいお水をどうぞ。」
シェリーは、机の横に用意しておいたポットからコップに水を注いでゼントに渡した
「イ、イセカイデスカ?ソンナ人ガイルノデスネ。」
ゼントはドキドキしながら妙に硬い口調になっていた。
「ええ、こことは異なる世界があることは昔から知られています。オーマ国では勇者を異世界から召喚しているなんて噂もあるくらいですからね。実際、異世界から召喚した人がこの世界の発展に寄与したという事はいくつもあるんですよ。」
「ハア、ソウナンデスカ。」
この人はもしかしたら異世界人を見分けられるのか?
「ええ、一番身近な例では銭湯がそうですし、魔道具としてコンロを作ったのも異世界から来た方だという話ですよ。」
この世界って、異世界に対して寛容なんだな。ゼントはそう考えながらクッキーに手を伸ばした。
「さて、クッキーがお気に召したようでなによりですが、これだけがお礼という分けではありませんので、ご安心ください。」
「まずは改めてですが、本当に私と孫娘を助けていただき本当にありがとうございました。これは少しですがお礼の気持ちになります。どうぞお納めください。」
大旦那のブライアンと孫娘のシェリーがゼント達の前で深々と礼をすると、ブライアンがゼントの前に黒い箱を差し出してきた。
「これは?」
「どうぞ中身をご確認ください。」
え? これは金貨が・・・・。ゼントが箱の中身を確認するとギルドでもらった報酬より明らかに多かった。
「いや、こんなにいただいては。既にギルドから謝礼をいただいてますし。」
「いえ、どうかご遠慮はなさらないでください。あの時は二人共死を覚悟していましたので。ここで五体満足で話が出来ていること自体が奇跡ですから。何より孫娘のシェリーが今後のケイラ商会の要となる跡継ぎなのでケイラ商会にとってもとても喜ばしい事何なんですよ。」
シェリーは「お爺様そんなことありませんよ。」と言って恥ずかしそうにしていたが、ブライアンは話を続けた。




