馬と虎
宿で食事をした後、ゼントはゼンに特訓だ!と言われて宿の近くの空き地に来ていた。
周囲は薄暗くなった来ている。
「ゼント、今日こけたのはスキルが使えなかったからじゃろう?」
「っ!やっぱりばあちゃんには分かってたのか。」
「ああ、瞬歩を使おうと思ったら、スキルが発動しなくてこけちゃったんだ。」
「他のスキルは使えておるのか?」
「組織再生スキルとコネクトは使えてるよ。」
『ハイ、私ハ稼働シテイマス。』
ゼンは少し考えると、空き地にある大きな紅葉した木を指さした。
「儂が斬撃であの木の葉を落とすから瞬速のスキルで地面に落ちる前に全手の葉を真っ二つに切ってみろ。」
「それって〇歩じゃね?」
思わずゼントは突っ込みを入れてしまったが、ゼンは意味が分からず怒りだした。
「〇歩か二歩か知らんが、やるのかやらんのか!」
「・・・・分かった、やるよ。ブルー少し離れていてくれ。」
「キャウ―」
ブルーはゼントの肩からゼンの肩に飛び移った。
「良し、やるぞ!」
ゼントが頷くと、ゼンは立ち木に向かって斬撃を放った。
バサッ、斬撃が木に到達すると無数の葉が宙に舞った。
その瞬間ゼントの姿が見えなくなり、宙を舞う葉の中を空間の歪みの様なものと共に無数の青い閃光が煌めいていた。
「ふぅっ。どうだい、ばあちゃん!」
ゼントが宙を舞う葉の中に姿を現した時には全ての葉が真っ二つになっていた。
「ふむ、”木には”使えるようじゃな。」
「よし、こんどはスキルを使って儂にかかってこい。」
「い、いいのか?」
スキル無しでもう少しでゼンに一撃を加えられるまでに腕を上げているのだ。ゼントが本気でスキルを使えばゼンに勝てる。ゼントはそう考えていた。
「ああ、儂に一撃でも与えられたら、儂の作った味噌を欲しいだけやるぞい。」
「よーし!気合が入って来た。味噌貰ったぞ!」
ゼントは木刀を構えると一気にゼンに襲い掛かった・・・・ただし瞬歩も瞬速も発動しないまま。
「キャウ―」
ブルーがゼンの肩から飛び立った。
バゴン! ゼントはゼンの刀の鞘で思い切り頭を叩かれて地面にめり込んだ。
「う、ぐぐぐぐ・・・・。」
ゼントは腕立て伏せの姿勢で体を起こしてゼンを睨んだ。
「ほれ、さっきの勢いはどうした!」
「まだまだ!」
ゼントは起き上がると直ぐにゼンへの攻撃を再開した。
ゼントは何度もゼンに切りかかるが、スキル無しでは一撃も与えることが出来なかった。
「はあ、はあ、はあ・・・・。」
数分後、ゼントは肩で息をしながらゼンと対峙していた。
「やっぱり、人に対してはスキルを発動できんようじゃのう。」
「な、なんでだよう・・・はあ、はあ・・・。」
「これはな、あれだ、心的外傷と言うやつじゃな。お前がスキルを使って野盗を殺してしまったことが心の中に傷として残って無意識のうちにスキルの発動を止めておるのじゃろう。」
「あ、それ俺知ってる!馬と虎ってやつだな。」
ゼントは得意満面で言い放った。
「ボケー!そえを言うなら虎馬じゃ————!」
ゼンは刀の鞘で再びゼントの頭をぶん殴った。
「痛ってーな———!、ちょっと間違えただけじゃあないか。
ゼントはどや顔しているゼンに涙目で訴えた。
「ゼント、ちゃんと言葉の”順番”は覚えんといかんぞ。」
ゼンはどや顔で説明していた。
『アノウ、オ取込ミ中スミマセンガ、一言ヨロシイデショウカ?」
「なんじゃい、コネクト、言ってみい。」
『”トラウマ”ハ、ゼンサン達ガ住ンデイタ日本トイウ国デハ外来語ニナリマスノデ、漢字デ”虎馬”デハナク、カタカナデ”トラウマ”と書クノガ正解デス。」
「「えっ?」」
ゼントもゼンもずっと漢字だと思っていたのでコネクトの指摘に固まってしまった。いや、なにより自分たちの世界の言葉の間違いを異世界のAIに指摘されるとは夢にも思っていなかったので、指摘されたことに思いきり恥ずかしいと思ったのだ。
こんな時はどうする?そう、”無視”するのだ。二人の思考は一致した。
「ばあちゃん、人にスキルが使えないのなら、それほど大きな問題じゃないんじゃないか?間違って殺すこともないし。」
『チョッ』
「そんなことは無いぞ、とんでもないスキルを使う相手じゃったら歯が立たないだろう。」
『チョット、オ二人サン!』
「そうか、確かにスクルスみたいなのだったら勝ち目が無いな。」
『チョット、オ二人サン!私ノ指摘ヲ無視シナイデクダサイ!』
「そうじゃ、それにモンスターにも使えんかもしれんじゃろう。」
『・・・・・』
「確かにモンスターに使えないとまずいな。どこかにモンスターいないかな?」
『・・・イイデショウ、オ二人共、ワカリマシタ。私ハコレカラスリープモードニハイリマス。金輪際サポートヲシマセン。ヨロシイデスネ?』
「「よろしくありません!無視して申し訳ありませんでした————!」
二人は姿の無いコネクトに対して流れるように土下座していた。
「モンスターだ————!!」
薄暗い街の中に男の声が響き渡った。
「何じゃとー!」
「何でこんな街の中に」
ゼンとゼントは全速で声の方に駆けて行った。
「うっ・・。」
ゼント達が駆けつけると数人の男が血まみれで倒れていた。
血まみれ男達の体は切り刻まれていて、完全に息絶えていた。この状態ではエクストラヒールを使っても既に手遅れである。
「グヒ————————————!!!」
倒れた男たちの前には身の丈3mはある巨体のモンスターが立って咆哮を上げていた。
『アレハ、”デーモンオーク” SSランクノモンスターデス。」




