王都 フィールドビヨンド②
「さて、まずは宿でもさがすとするかのう。」
ゼント達は王城の冒険者ギルドを少し過ぎた所で馬車から降ろしてもらっていた。
「宿より、まずは市場に行ってみないか?」
「ゼントよ、市場に行きたい気持ちは分かるが、まずは宿じゃな。週単位で泊まれて自炊可能なところが良いな。」
「それなら、我が昔泊っていた宿がいいよ。宿のおばちゃんも親切だし、自炊も出来るよ。最も我は料理作れなかったけど・・・。」
「とりあえずそこに行ってみるとしようか。ミュウ、案内しとくれ。」
「分かった!」
ゼント達はミュウの案内でお勧めの宿に向かった。
日はかなり傾いており、路上には人々の影が長く投影されていた。
「やっぱり王都だけあって人が多いな。」
ゼント達はメインストリートか外れているが人の混み具合は余り変わっていないのだ。
「そうですね。この辺の繁華街の規模でもオナシティの3倍くらいはありますし、この規模の繁華街が他に5箇所ありますので。」
ゼントはヴェルスの説明に頷きながらも注意は既に周辺の飲み屋に移っていた。
「この辺りは飲み屋が多いけど冒険者風の人は少ないね。」
「王都でもこの辺りは魔物が出現する場所から遠いので、魔物の討伐依頼は少ないのだと思います。」
「そうだ、王都で魔物が出るのは海辺や河川付近、それと西部の山間部かな。」
ミュウがゼント達に会話に加わってきた。
「え、じゃあなぜミュウはこんな所で冒険者やってたんだ?」
「我は人間の街の視察が主目的だったし、この街のギルドでも討伐依頼は受けらるからね。走っていけば西の山なんて直ぐ着いちゃうよ!」
「このアマ——俺のビールをどうしてくれるんだ!」
ミュウが話をしていると前方から大声が聞こえてきた。
オープンテラス、もとい、露店に置かれた食堂のテーブルで冒険者風の大男がウエイトレス、もとい、食堂の女給の胸倉をつかんでいた。
「お前が俺に当たったから、ビールをこぼしちまったじゃねえか!弁償しろ!」
男の前のジョッキが倒れてビールが全てこぼれていた。
「ちょっと体が触れただけじゃないか、あたしは知らないよ。」
そう、女性が言うように、ジョッキの径は大きく底まで寸胴の形をしているため、ちょっとやそっとでは倒れない形状をしていた。
こいつ、言いがかりをつける気だな。ゼントはそう思い木刀に手をかけた。
男は女の言葉に激怒し、拳を振り上げたその時。
やばい!そう思ったゼントは瞬歩で一気に間合いを詰めようとしたが・・・・・。
どすん!と言う音と共にゼントは顔面から地面に倒れてしまった。
「やめなよ、おっちゃん!」
倒れたゼントを他所にミュウが大男の拳を受け止めていた。
「おめ、何するだ!」
周囲の男たちからミュウにやんややんやの喝采が飛んでいた。
男は、女給を掴んでい手を離すと、今度はその手でミュウに殴りかかろうとした。
「うがっ! なにぃ? はえ? ほぇ? か、か、体が動かん!!」
男は目を丸くして殴りかかる姿勢のまま固まっていた。
「そこまです!」
今度はヴェルスが男の前に歩み出てきた。
「拘束魔法を使いました。これ以上暴れようとするなら容赦しませんよ。」
「な、何言ってやがる!」
拘束されてもなお、男には反省の色が見えなかった。
「そうですか、それなら一晩中その恰好で反省してくださいね。そのくらいの魔力は込めていますので。」
ヴェルスは悪い笑顔でそう言うとミュウと一緒にその場を立ち去ろうとした。
「ちょっ、ま、待った!俺が悪かった。だからこの魔法を解いてください。お願いします。」
男は涙目になりヴェルスに懇願してきた。
「本当ですか?」
「ほ、本当だ、本当!」
「分かりました。解放してあげますけど、嘘でしたら今度は拘束だけではすみませんよ。」
「ヴェルスーせっかくこいつをぶん殴ってやろうと思ってたのに解放しちゃうの?」
ミュウが不服そうにヴェルスを見た。
「ええ、ここでミュウさんが『ぶん殴って』しまったら、お店の人に迷惑が掛かってしまうでしょう。」
「うーん、まあそうだな。」
ミュウは渋々ヴェルスの意見に従った。
「はい、それでは、リリース!」
男は動けるようになるとそそくさと店を去ろうとした。
「ちょっと待った。料金払ってから行きな!」
先程男に胸倉をつかまれていた女給が今度は逃げようとする男の襟の部分を掴んで左手で丸をつくって料金を請求したのだ。
「わ、分かった払うから。」
男は釣りは要らないと言って、テーブルに銀貨数枚を置いて逃げるように去っていった。
「綺麗な姉ちゃん達、いいぞー!」「よくやった!」「格好いいぞー!」
「奢るから一緒に飲まねえかー!」
同じ飲み屋に居た客や、野次馬で集まってきた人々からミュウやヴェルスに喝采の言葉が沸き起こった。
男が立ち去ると女給がミュウ達の前に来て頭を下げた。
「本当にありがとうございました。彼奴には以前にも同じようなことをやられたことがあるんですよ。本当にせこい奴で困ってたんですよ。本当!すっきりした!」
「そうだ!お礼に奢るから食べていってよ。お酒も奢るよ!」
「いや、大した事していないから悪いよ。」
「そうです、気になさらないでください。それに私達はこれから宿を探さなければならないのでゆっくりしていく分けにはいかないんです。お気持ちだけでも十分ですよ。」
「そうか、忙しいんなら仕方ないね。でも王都にいるなら後でもいいから寄ってよ!一杯サービスするから。」
「そう、それならあそのうち寄らせてもらうよ。」
「そうですね。」
「分かった。待ってるからね!」
「おーいリタ!、こっちの酒を運んでくれー!」
店の中から女給を呼ぶ声がしてきた。
「はーい、分かったよ。直ぐ行く」
「それじゃあ仕事があるんで。」
女給は急いで店の中に入って行った。
「それじゃあ、宿に行こうか。」
「そうですね・・・ってゼントさんはどこ??」
その頃ゼントは・・・。
「おーいゼント。お前の嫁さん達は大活躍しとるのに、お前何やっとるんじゃ?」
ゼンは村雨の鞘で突っ伏して倒れているゼントの頭をつんつんしていた。
「キャウ―キャウ―」
ブルーは心配そうにゼントの頭にすり寄っていた。
「うう、ブルー心配してくれるのはお前だけだよー。」
ゼントは情けなさそうに鼻血を出しながら起き上がってきてブルーの頭を撫でていた。
(コネクト、何で瞬歩のスキルが発動しなかったんだ?)
そう、ゼントはスキルを使うことを前提に動こうとした時にスキルが発動しなかったため、思いと体の動きが会わずにずっこけてしまったのだ。
(スキルニ問題ハアリマセン。主ノ意志デ発動ヲトリヤメタモノとオモワレマス。)
(いや、そんなことは・・・。)
「ゼント、そんな所で鼻血出してないで行くぞ!」
「分かったよ。」
ゼントは鼻血を袖で拭いながらミュウ達の所に歩いて行った。
「ゼント、さっきは何していたんだ?」
「いや、あの女給を助けようと思って飛び出そうとしたら、顔面からこけてしまったんだ。」
ゼントはばつが悪そうにミュウの質問に答えていた。
「フーン、ゼントって意外とドジだな。」
「こけたって、怪我はないですか?」
「ちょっと鼻血が出たけど、もうスキルでなおってるよ。」
組織再生スキルは動いている。何でさっきは瞬歩が使えなかったんだ?ゼントは理由が分からず思考が堂々巡りをしていた。
「あ、見えてきたぞあれが『緑の牧亭』だよ!」
ミュウが指さす方に3階建ての宿屋が見えてきた。『緑の牧亭』と書かれた銀色の金属製の看板が下がっている。
「あ、店の看板新しくしたんだ。前回来た時は木製だったのに。」
「こんちはー!」
ミュウが先頭を切って宿の玄関から入って行った。
「はーい、直ぐに行きますよ。」
家の奥から女性の声が聞こえ、直ぐにバタバタと小走りに中年の女性が出てきた。
「おやーっ!ミュウちゃんじゃないか!久しぶりだねー。」
「おばちゃん、覚えていてくれたの?」
「こんないい子を忘れるわけないよ。見た目と強さのギャップがまた凄かったしねー。」
「へへ、嬉しい!」
ミュウは照れくさそうに、鼻の下に人差し指を当てていた。
「そうだ、おばちゃん部屋空いてるかな?」
「そうだね、二人部屋は埋まっているけど5人部屋なら1部屋空いているよ。後ろの人達もお連れさんなの?」
宿の女将はミュウの後ろゼント達に視線を移した。
「ああ、そうだよ。一緒にパーティを組んでるんだ。こっちがゼントでこっちがヴェルス、それにゼンさんって言うんだ。」
ゼント達はミュウに紹介されて宿の女将さんに挨拶をした。
「ああ、言い忘れてたけど私の名前はアマンダって言うんだ。この 緑の牧亭の女将をやっているんだ、よろしくね。」
ゼント達は宿代や食事の話を聞いてこの宿に泊ることに決めた。宿代はオナシティのホテルワンモーメントよりやや高かったが王都と言うことを考えると安い部類のようだ。
もちろん、ブルーが部屋に入ることも女将は快く了承してくれていた。




