運河
「ゼント、どうしたんだ!」「ゼントさん!」
ヴェルスに抱かれ戻ってきたゼントを見てミュウとリーナが駆け寄ってきた。
「怪我をしたんですか!?」
リーナが心配そうにゼントの額に手をやりヴェルスに聞いた。
「いえ、怪我はしていません。盗賊を瞬殺した後に急に意識を失ってしまったのです。」
「えっ、どうして・・・?」
「それはこいつがヘタレって事じゃな。」
「「「ヘタレ?」」」
ヴェルス、ミュウ、リーナは一斉にゼンの方を見た。
「ああ、その通りヘタレじゃ。こいつは盗賊を殺した事に耐えきれなかったんじゃろう。」
「ええ、確かに殺してますけど、盗賊なんですから殺されて当たり前ですし、罪にはなりませんよ。」
ヴェルスにはゼント何に耐えられないのか理解出来なかった。
「ああ、この世界の常識ではそうじゃが、こいつがいた世界じゃあ一般の人間が意識して人を殺すことなんてほとんど無いんじゃな。こいつにはまだこの世界で生きていくという覚悟が足りなかったんじゃろう。その気になれば一つの街ぐらい全滅させられる力を持ってるのにな・・・まあ、そのうち慣れるじゃろうて。」
ゼンはゼントの頭を軽く叩きながらヴェルス、ミュウ、リーナに聞いた。
「どうじゃ、こんなヘタレには愛想が尽きたか?」
「いえ、ゼントさんにそんな繊細な所があったなんて。」
「そうです、可愛らしいというか・・・。」
「我が守ってやるぞゼント!」
ゼンはやれやれと言いながらも、ゼントの所に来ると優しく頭を撫でていた。
「んっ!あれ、皆どうしたの?」
ゼントが何事もなかったかのように目を覚ましたので皆が目を丸くしていた。
「ゼ、ゼントさん大丈夫ですか?」
「何が?」
「ゼントさん、盗賊を倒した後、突然気絶してしまったんですよ。」
「ごめん、あれは初めて人を殺したのでちょっと驚いたんだ。」
「ちょっとって、気絶までしていたんですよ。」
「なんか、俺にも良く分からないけど、もう大丈夫だから。」
「大丈夫ならいいんですけど・・・。」
ヴェルスはゼントが倒れた時の様を思うと言いようがない不安を覚えた。
「さあ、早く王都に行こう!」
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魔動車は荒地の広がる高原地帯を過ぎると広葉樹の森林地帯に入り道が下り始めた。
つづら折りの道を下っていくと急に視界が開けて大河の下流に広がる広大な都市が見えてきた。
「さあ、見えてきたぞ、あれが王都だ。」
「でっかいな————! 流石、王都!」
「王都の近くを流れるているのはソーリ川から分流したビヨンド川で、王都付近では幅が2km近くになります。ビヨンド川を挟んで東と西に分かれており王宮があるのが西地区でゴード国はこの西地区の南西側にある入り組んだ海岸線の港町から発展しました。」
「始めは西地区側の開拓が進み、200年前にビヨンド川にかかるフィールド大橋が完成してから東地区の開発が進んでいます。」
相変わらずヴェルスの説明は教科書的であった。
「あそこにある橋がフィールド大橋だよね。石積みみたいだけど2kmに及ぶ橋なんてどうやって作ったの?」
ゼントの疑問には前席に載っていたカール教授が答えてくれた。
「あれはですな、土魔法が得意な宮廷魔導士がまずは水中に土魔法で土台を作り、それから石で巨大なゴーレムを造り、ゴーレムに基礎まで自力で移動して立たせたんですよ。橋のアーチ部分は土魔法で切り抜いた石を風魔法で移動させて作っていったんですよ、かなりの精度が必要でしたから着工から完成まで10年も要したですね。」
「あの橋は是非渡ってみたいです!」
ゼントは子供の様に目をキラキラさせながら窓の外を見ているとミュウが懐かしそうに話始めた。
「久しぶりだな、フィールドビヨンド、宿のおばちゃん元気かなー?」
「そうか、ミュウはフィールドビヨンドで冒険者をやってただっけな。」
「そうだ、1年程住んでいたよ。」
「王都についたら街を案内してよ。」
「ああ、もちろん!そうだ、フィールドビヨンドでお世話になった冒険者仲間も紹介してやるよ!」
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つづら折りが終わると勾配は緩やかなっていった。そのうち王都に向かって流れている運河に差し掛かかると魔道車は運河に沿って走り出した。
「この運河って王都に流れ込んでるけど、ここを通って魔物が入り込んだりしないのかな?」
カール教授が後ろを向きゼントの独り言の様な疑問に答えてくれた。
「この運河はフィールドビヨンドの農業用灌漑用水や水道として利用されたいるんですが。ゼント君が言うように魔物が結構住んでるんですよ。昔は外壁の所に鉄の網を置いて魔物の侵入を防いでいたんですが、小さい魔物が侵入して王都の川の中で成長して人を襲うということがあったので今では魔石を使った結界システムで魔物の侵入を防いでいるんですよ。それにほら運河に沿って鉄で出来たフェンスがあるでしょう。」
「ああ、あれですか。」
「あれは、水棲の魔物でも少しの間なら陸上で行動できるのがいるので、そう言った魔物が上陸してくるのを防いでいるんですよ。」
「へーそうなんですか。んっ?」
ゼントがフェンスを見るとその向こうに巨大な水飛沫が上がるの見えた。
「あの水飛沫は・・・。」
水飛沫がフェンスの遥か上まで到達したかと思うと、そこから黒々とした巨大の蛇のようなもの飛び出して来た。
『アレハ、『デモンイール』Sランクノモンスターデス』
「イールって、もしかしてウナギか?」
「そうだウナギだ。」
「ウナギってあの美味い奴か?じゅるる。」
通常のパーティならSランクモンスターが出現すれば、『いかにして逃げるか』を考えるのだが、日本から転生した二人と生粋の日本人の一人違っていた。彼等の頭の中にあるのは巨大なウナギを『いかにして逃がさないか』でだあった。
「儂が出る。」「いや、俺だ。」「我だー!」
「誰でもいいから魔動車を壊されないうちに奴をやっつけてくれ!」
三人の会話に呆れたウイリアムの声が車内に響いた。
「「「ジャンケーン、 ポン!!」」」
「よっし儂じゃ!」
勝ち誇ったゼンは、走っている魔動車のドアを空けてそこから飛び跳ねると同時に村雨から斬撃を出し、その反動で空を飛ぶように舞い上がっていった。
デビルイールは飛び上がったゼンに一直線に向かってきた。Sランクモンスターである彼にとっては小さき者など恐れるに足りない存在、そう狩りやすい獲物なのである。
ただ、実際には違っていた。狩る者と狩られる者の立場違っていたのだ。
ゼンの眼は完全に狩る者の眼だった。
「逃がさへんでーっ!」
ゼンは空中に浮いたまま突きの姿勢で斬撃を放った。
突きの斬撃は鉄砲の弾の様に空気を切り裂いたかと思うとデビルイールの頭を直撃した。
デビルイールは、何が起こったのか分からず一瞬で絶命した。彼自身が狩られたということを知らずに。
「お——し。」
ゼンは着地するとガッツポーズを決め、デビルイールの方を振り向くと・・・。
「し、しまった——————!」
物凄く残念そうな顔をして・・・。
「し、し、し、醤油がな——————————————い!!」
ゼンががっくりと肩を落とした。
蒲焼にするには醤油が必要なのだ・・・。




