後始末
ゼント達は、スーが借金を返却済みという証拠が無いため、スーが支払ったという金貨の額を宿屋の主人の口から言わせることを思いついた。しかし、この計画には第三者の証人が必要なことから、この宿に来る前にハヤトシティの保安官事務所に相談に行ったのだ。
その時に対応してくれたのたリース保安官で、スーの話をすると『 狸の落ち葉亭』では過去にも同じようなことがあったのだが、その時は証拠不十分で被害にあった若い冒険者が泣き寝入りしていたという話をしてくれ、今度は証拠を押さえるチャンスと考えヴェルスの策略の証人として名乗りを上げてくれたのだ。
リース保安官は当初半信半疑であり、上手くいったらめっけもん程度で協力していたので、今回の結果には驚いていた。
あの後リース保安官は、宿屋の帳簿や裏帳簿まで徹底的に調べ上げてスーの件だけではなく過去の案件について証拠を押収していた。
「ヴェルスさん、スーの為に本当にありがとう。ほれ、スーも頭さげないか!」
ラオさんが、スーの頭を押さえてヴェルスに向かって頭を下げさせていた。
「いや、でもそんな悪い主人だとは思わなかったけどなー。」
スーはまだ宿屋の主人を疑っていないようで少々不満気だった。
「はぁーっ!お前は本当に寸足らずというか・・・・思慮が浅いというか・・・・ただのバカだな!」
「ラオさん、余りスーさんを責めないでください。スーさんは純真なんですよ。」
「いや、こんなんじゃあ来年の成人後の人間の街での修行は無理だ、再来年に延期だ!」
「え———っ、そんなの無いよ! 我は楽しみにしていたのに!」
スーはラオに食って掛かった。
「今回勝手に村を抜け出したことに対する処罰もある。再来年は決定だ!」
「ちぇー、族長のけち!」
「スー、いい加減にしなさい!」
「いた————い!!」
スーの態度に業を煮やしたミュウが頭の上からげんこつを落としたのだ。
「族長はお前の事を心配して言ってくれてるんだ。お前は昔から少しとろいんだから、きちんと人間の街の事を勉強してからにしなさい!」
「ふ、ふぁ————い。」
「まあ、それでも我の事を心配してくれたのは嬉しかったぞ!」
ミュウはスーの頭を撫でてやってるとスーは直ぐに機嫌を直していた。
「それじゃあゼントさん達、我は明日スーと一緒に里に帰ります。今日は本当にいろいろとお世話になりました。」
ラオは深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。ラオさんとの模擬戦で良い経験が出来ました。」
「はは、そう言ってもらえると嬉しいですな。そうだミュウ、これを持っていけ。」
ラオはポケットから魔石の入ったペンダントを出し、ミュウに渡した。
「これは縄張りの試練の石と似ているけど何なんだ?」
「お前達が、困ったり窮地に追い込まれた時はその魔石を壊すんだ。そうすれば我らクーマオ族が応援に来てやるから。」
「え?そんな、とーちゃん本当?」
「ああ、本当だ。なんせゼント君は未来の族長だからな。」
「最も、あの強さならゼント君が窮地に追い込まれる様なありえんがな!」
「ラオさんありがとうございます。」
ラオはゼントと固く握手をした後、スーを連れて宿屋に戻っていった。
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ゼント達が宿屋に着くと既にウイリアム達が待っていた。
魔道車の修理が終わったので明日王都に向かって出発するというので、夕食を食べた後早めに就寝していた。
『ヴェ・・・・ヴェル・・・・ヴェルス・・・・ヴェルス今いいか?』
ヴェルスは夢見枕で聞き覚えのある声で目を覚ました。
「ウルス姉さん?・・・・え、ここは?」
ヴェルスがいるのは宿屋の部屋では無く、大理石の床と柱があり横に雲が流れている場所だった。
「そう、ここは天界だ。」
「な、何で急に私を天界に戻したの?」
ヴェルスは何で強制的に自分が戻されたのか不安になっていた。
「ちょっと話があってな。最も実際にこちらに戻したのではなく、精神に来てもらったということだが。」
「ああ、そう言うことですか、話ってなんですか?」
精神だけ戻されたと聞き、ヴェルス落ち着きを取り戻した。
「ロキ、それとスクルスの事だ。」
「あのイエローデザートの戦闘を見ていたんですか?」
「ああ、見ていた。」
「それなら、二人がどうなったか知ってるんですね。」
「ああそうだ、驚いたことにロキは女神の鉄槌の中で生き残っていた。」
ヴェルスはその言葉に恐怖し、血の気が引いていくのを感じた。
「まあ、そんなに緊張するな、彼奴は私が葬った。」
「え? それは地上への干渉じゃあないんですか?」
「彼奴の力はほとんど神の領域に到達していたんだ、彼奴自身の力が地上への干渉となる。創造神の許可も取ってある。」
「そうですか、それで・・・・スクルスは?」
ヴェルスは少し躊躇いながらスクルスの生死を聞いた。
「スクルスは・・・魔力を使い果たして死んだ・・・。」
ヴェルスはもう襲われることが無い安堵とスクルスを失った悲しみが交差し、俯いてしまった。
「スクルスからお前に伝言がある。」
ウルスの言葉にヴェルスは顔を上げた。
「『ヴェルス姉さんには本当に酷いことをしてしまった。』と言っていた。これがスクルスの最後の言葉だ・・・。」
ヴェルスは一気にこみ上げた悲しみに耐えられず精神体であるにもかかわらず大粒の涙を流して泣き始めた。
ヴェルスはその後、スクルスがヴェルスを恨んでいた理由を聞き、更に涙を流し続けた。
ひとしきり泣いた後、ヴェルスは顔を上げた。
「姉さん、もう一つ教えてほしいんですがいいですか?」
「ああ、何だ。」
「姉さんにとって最初のヴェルスと今の私のどちらが貴方の妹ヴェルスなんですか?」
ウルスは目を瞑った後、やおらに答えた。
「そんなことは決まっている。昔のヴェルスも私の妹だし、今のヴェルス、お前も私の妹だ。」
「・・・・つ、ありがとう、姉さん!」
ヴェルスは再び涙を流し、ウルスに抱き着いていった。
「ああ・・・。」
ウルスはヴェルスを優しく抱きしめていた。
ヴェルスが落ち着いた後、ウルスは話を切り出した。
「ヴェルス、まだお前に言っておかなければならないことがある。」
「オーマ国が召喚した勇者だが、かなりヤバい力を持っている。まだロキ程には到達していないが、そうなった時には干渉を与儀出来ない。」
「そんな・・・人が神に到達してしまうなんて事があるのですか?」
「ああ、ありうる。お前の隣で寝ている奴もC魔素だけなら神を越えているぞ。」
「ああ・・・・はい、そうですね。」
ヴェルスは毎日ゼントにくっついて寝ているのをウルスに見られていたのを知って頬を赤らめてしまった。
「ところで、その勇者ってゼントさんの友人のユートさんの事ですか?」
「そうだ。彼奴らは彼を武器として召喚したんだ!」
ウルスは吐き捨てるように言った。己が欲望のために異世界の若者を召喚する者たちに以前から苦々しい思いをしていたのだ。
「これ以上の事は言えないが、オーマ国とゴード国は一触即発の状態にあるから十分注意してくれ。」
「ええ、姉さん。」
「それと、もう一つ気になることがあるんだ・・・ロキは昔の記憶をほとんど失っていた。」
「つ・・・・それはおかしいですね、組織再生スキルは頭を飛ばされたら機能しないはずです。組織再生スキルで復活したのなら記憶は残っているはず・・・・ロキは体の一部から組織再生スキルで再生したのですか!」
「それはありえないな、スキルは体ではなく脳に依存するからな。」
「・・・・・・まさか、まさかロキの組織を使って再生した者がいるということですか! 創造神様が私を再生した時の様に・・・。」
「おそらく、不完全な記憶を植え付けてな。」
「一体誰が・・・・・。」
「分からないが、その件については私が調べるつもりだ。この世界をもう一度破壊させるわけにはいかないからな。」
「お願いします。何か分かったら教えてください。」
「ああ、ロキの方は当面気に留めるぐらいにしおいてくれればあいい、ヴェルスは当面勇者の動きに気をつけてくれ。」
「はい姉さん。」
「それじゃあ、ゼントと仲良くな!」
ヴェルスの視界から天界の景色が消えると深い眠りに落ちていった。




