戦いの終わり
ドガン!
バキン!
ガゴン!
ボゴン!
ドガガガ—————ン!
「ふぁ—————っ!ミュウ姉こいつ等いつまでやってるの?」
「ヴェルスの終わりの言葉が耳に入らないんだから仕方ないだろう。」
ゼントとラオは既に小一時間程戦闘を続けていた。
ヴェルスが何度も終わりだと警告したのだが、二人は戦闘に夢中で全く聞こえていないようで、ヴェルスは呆れて止めるのをやめてしまっていた。
しばらくは熱狂しながら二人の戦闘はミュウとスーも今はヴェルス達と一緒にお茶を飲んでいる。
「ゼント君、やるなあ・・・・はあ、はあ、はあ・・・。」
「ラオさんこそ、その体の大きさであの俊敏さは凄いです・・・・ぜえ、ぜえ、ぜえ。」
ラオはゼントの木刀の打撃を喰らっていたため、全身骨折や骨にひびが入っていた。
一方、ゼントは直接ラオの打撃を食らったことは無かったが、地面を砕いた破片や打撃の風圧で全身傷だらけになり、ラオを渾身の力だ打ち付けていたため、木刀を握る手にもろに反動受けて肉が裂けて既に血まみれ状態であった。
「君の戦闘はスキルを主体にしたものなのだろう・・・まさかスキル無しでここまでやるとは思わなかったよ・・・・はあ、はあ。」
「いえ、まだこれからですよ・・・ぜえ、ぜえ・・・。」
「ゼント君、物は相談なのだが・・・・。」
「な、何でしょうか・・・ぜえ、ぜえ。」
「クーマオ族の族長にならんかね?」
「・・・・え??」
どさっ! どさっ!
この会話を最後に二人共つんのめる様に前に倒れて動かなくなっていた。
「ヴェルス、終わったみたいだよ!」
「そうですね、ミュウさん。」
ヴェルスはやおらに立ち上がると二人に近づいていった。
「大丈夫!二人共息がありますよ———!」
ヴェルスがそう言うと二人の周りが光輝いた。
「え、無詠唱でヒールをかけたの?」
スーが驚いてヴェルスに聞いた。
「ええ、エクストラヒールですから、二人共直ぐに起き上がりますよ。」
「エ、エクストラヒールを無詠唱で・・・・。」
ここは規格外に人の集まりなのか?
スーはゼントが族長と対等に戦っているのを見てゼントに勝負を申し込んだことを後悔していた。更にこんな魔法が使える愛人(注)とエルフの剣聖の愛人(注)さらには領主の娘の愛人(注)までいるのだ・・・。
注:スーの中ではミュウが正妻で他は愛人なのだ。
(か、仮りに我がゼントに勝ってたら生きた凶器の二人と領軍に袋叩きにされてなかったか?・・・・うん、ゼントに勝つなんてことはありえんな。負けて悔しいけど、あの強さはちょっと格好いいかも? ん・・・・ん・我は何を考えているのだ!!!)
スーは自分の顔が火照ってくるのを感じて、思わず両手を頬に当てていた。
「ん、ん、あ————!」「ウォ————!」
ゼントとラオが両手を伸ばしながら、起き上がってきた。
「ヴェルス、ありがとう。」「いゃあすまんな、ヴェルスさん。」
「いえ、どういたしまして。もう少し私の話を聞いていただけるとエクストラヒールまで使う必要は無かったのですけどね?」
にっこりと笑う笑顔に対して、声には怒気がこもっていた。
「「は、はい申し訳ありませんでした。」」
二人は同時に土下座してヴェルスに謝っていた。
(うん、一番強いのはヴェルスさんだな。)
スーは妙に納得してしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
模擬戦が終わった後ゼントらは森の外れで昼食を食べていた。食材は全てゼントの亜空間から出したものである。
「いやあ、申し訳ない。いきなり押しかけてしまった上に昼食までご馳走になってしまって。」
ラオはゼントの隣に座って串に刺した焼肉にかぶりついていた。
「いえ、食事は皆で食べた方が美味しいですし、なによりミュウのお父さんということは俺のお義父さんということになるんで。」
「それで、さっきの話の返事はどうだ?」
「あ、あれ、本気だったんですか・・・?」
「ああ、もちろん。」
ラオは至ってまじめな顔をしていた。
「ゼント、さっきの話ってなんだ?」
ミュウがゼントとラオの間に割って入って来た。
「ミュウか、いや、何、ゼント君に次期族長にならないかって言ったんだ。」
「へ?、ゼントは人間だよ!」
「クーマオ族の次期族長候補筆頭だったお前の旦那だから人間でも問題はない!」
「いや、でも我は既にクーマオ族を離れているし。」
「そう思ってるのはお前だけで、我もスーもお前を探しに来ただろうが。」
「そうだよ、ミュウ姉!我はミュウ姉がクーマオ族じゃなくなったなんて思ったことないぞ。そえれに我もゼントが族長の方がいいな、このままだとミュウ姉の次に強いラー兄が族長になってしまいそうだし。」
「う、うんありがとう・・・。」
ミュウはラオ達の言葉が嬉しかったのだが、ゼントを巻き込んでしまって申し訳ないと思い、困った表情をしていた。
(んー、俺抜きで話進んでないか・・・・。)
「ミュウさん、ゼントさんが族長というのは問題があります。」
今度はリーナが話に加わってきた。
「ゼントさんはザラス家の跡取りになるかもしれないのです。勝手に族長にされてしまっては困ります。」
「そうか、ザラス領の領主の娘さんも嫁だったか。それなら我らがザラス領に移住しようか?我らが領兵となれば無敵の領が出来るぞ。」
「えーと、それなら良いかもしれませんね。最近外部からのテロ活動みたいなのが頻発してますし。」
(おいおい、二人共完全に俺の意見を無視しているような・・・。)
「ま、待ってくれラオさん。俺はミュウと結婚する気はあるけど、族長に生る気は無いから。それとリーナさん、ザラス家のことは気が早すぎるよ!」
リーナはハッと我に返ると顔を赤くしながらその場から離れていった。
「それだけの力を持っていながら勿体ないぞ。クーマオ族の族長では不満か?」
「いや、不満とかいうのではなくて、今の俺はそう言ったしがらみに縛られてくないんだ。」
「まだ、腰を落ち着けたくないということか?」
「まあ、そんなところかな、俺はこの世界をもっと見てみたいし、それに族長になるということは、人の命を預かるという覚悟が必要だと思うんだけど、俺にはそんな覚悟は無い。」
ラオは少し目を閉じて考えた後に口を開いた。
「まあ、そうだな、いきなり族長にならないかと言われても困惑するだけか。まあ、儂は暫らく現役でいるつもりだから気長に考えてくれるといい。」
「はい、そう言ってもらえると助かります。」
「まあ、そうだな、そのうちクーマオ族の里にでも来てみないか?」
「ええ、この依頼が終わった後にでも行ってみようかと思います。」
「よし、それなら歓迎するぞ!」
「さて、そろそろお暇するか、スー、お前も一緒に帰るだろう?」
「いや、我はもう少しここで借金を返さないといけないから・・・。」
「そうか、借金か。残りはいくらぐらいなんだ。我が立て替えておいてやろうか?」
「それが————・・・・・。」
「ん?いくらなんだ?」
「それが————・・・・・・・・・いくらか分からないんです!」
「「「「「「へっ?」」」」」」「キャッ?」




