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勇人~勇者

この回はゼントと共に召喚された同級生『勇人』の話です。

 時間は少し遡り、スクルスが『女神の鉄槌』を使った頃、場所はオーマ国の王宮にある騎士の訓練場。


 ゾクッ!


 魔剣士との模擬戦をしていたユートは、異常な魔力の高まりを感じて背筋がぞっとしたのだ。

 

 ここ数日で最も大きいな。前の2回はゴード国だったらしいが、今日のもそうなのか?


 この前に起きた魔力の高まりは魔道師達の探査魔法で発生したのがゴード国北部であるということが分かっていた。


 ユートは模擬戦をしている最中にも拘わらず魔力の高まりに意識が向いており模擬戦が完全のおざなりになっていた。ただ、おざなりになっているからといって相手には全く隙を見せず、物の数秒でSランクの魔剣士の魔剣を叩き折ってしまった。


「そこまで!」


 審判をしていた騎士団長のべリスがユート側の旗を上げて模擬戦が終了した。


 叩き折られた魔剣からは魔素が抜けユートの魔剣に吸収されていく、何度見ても不思議な光景だ。

 これで何十人目だろうか?魔剣士の模擬戦は、人を殺すわけではないので罪悪感は無い。初めて盗賊を殺したときは暫らく食事が喉を通らなかったけど。悪い奴らを生かしておく事の方が悪だと理解してからはそんなことは無くなった。それでも出来れば殺しはしたくないかな・・・。


 模擬戦が終わったユートに豪華なドレスを纏った一人の女性が近づきスカートの両すそを上げて挨拶をした。


「ユート様、お見事な模擬戦でしたね、でも最後は少し気を緩めてませんでしたか?」


「ああ、よく気が付きましたねエリス王女。」


 この女性はオーマ国の第一王女エリス・オーマ、深紅の長い髪と瞳が心象的な女性、目じりが少し吊り上がっているため気の強い印象を受けるが俺のことを良く気遣ってくれる優しい女性だ。


「また、魔力の急激な高まりがあって、それに気を取られていたんだ」


「え、またですか?」


「ああ、今度のやつは今までのやつとは比べ物にならないほど強力な奴だった。」


 魔力の高まりを感知できるのは探知系のスキルを持っていないとだめで、誰にでも出来るわけではない。ユートはこれまで様々な魔剣士の魔剣を叩き折ることで数多のスキルを身に着けていた。元々この世界に転移した時点で膨大な魔力を与えられたので様々なスキルを得たユートは魔王の様な能力を持つに至っていた。

 

「また、ゴード国でしょう、本当に物騒な国ですね。」


 エリスは鬱陶しそうにため息をついた。


「やはり、ゴード国で新型の魔動兵器を作っているという噂は本当なのだろうな。」


 ユートは宰相のリッチーから過去の2回の魔力の高まりはゴード国の魔動兵器の実験だったと聞いていた。


「ユート様背中が汗でびっしょりですよ。」


「ああ、今日は訓練を終わりにして湯浴みをしてくるよ。」


「それがよろしゅうございますね。」


 エリスはにっこりと笑ってユートが自室に向かうのを見送っていた。


 ユートは自室に戻ると服を脱ぎ部屋に備え付けの浴室へと入って行った。


 王宮の風呂と言っても浴槽は一人が横たわってやっとお湯が肩までつかるぐらいで、かなり小さいのだ。ただ浴槽自体は金色に輝いており、浴室も大理石でできており見た目だけは豪華だ。


「この世界には温泉みたいな風呂に浸かる習慣はないからな・・・・。」


 王家ですらこのような浴槽なのだ、聞いた話では庶民は桶に湯を入れて体を洗うだけなのだそうだ。


 温泉にでも行きたいな・・・ユートはしみじみと思った。


 ちなみにオーマ国の風呂事情はこんな状態であったが、ゼントがいるゴード国では異世界からの転移者(おそらく日本人)が広めた共同浴場があることをユートは知らなかった。(第15話ホテル・ワンモーメント参照)


 異世界に来てもう半年以上過ぎたのか・・・。向こうの世界にいた時は何のために勉強して大学に行くのか・・・・目的もはっきりしないまま毎日悶々としていたな。ここに召喚された時はかなりビビったけど、周りの人の助けでここま何とかやってこれた。


「魔王討伐か・・・・もっと力をつけないとな!」


 ユートはこの世界に来てから魔王を倒すという目標ができ、充実した生活を送っていたのだ。


 ユートは湯浴みが終わると自室に行きベッドに飛び込むようにして横わっていた。


 コンコン


 ノックに答えてドアを開けると、そこには金髪で緑の瞳をした美少女が侍女を引き連れて立っていた。


「ユート様、ご機嫌麗しゅうございます。この後ご一緒に夕食はいかがでしょうか?」


「いいですよ、着替えたら食堂に行きます。」

 

 彼女の名はセリナ・オーマ、この国の第二王女だ。


 僕が召喚されたばかりの頃は、少し怯えた感じで話しかけてくることは無かったのだが、王女様の領地視察の際に野盗を僕が撃退してから少し仲が良くなったような気がする。

 そう言えばあの時の野盗の背後にゴード国の組織が居たらしい。いい加減ヤバそうな国だな。


 ユートは服を着替えると部屋を出ていった。

  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「エリス、勇者様はどうだい?仲良くやってるかい?」


 エリスの兄ライアン・オーマ第一王子はエリスにニヤ付きながら話しかけた。


「やめてください、お兄様、あんな化物なんかと!お父様の命令で仲良くしているだけですわ。」


 エリスは先程ユートにとった笑顔は何だったのかと思うほど嫌そうなに顔をしかめていた。


「まあ、そんなこと言うなよ。あの勇者様がゴード国を倒してくれる予定なんだからな。」


「あれは勇者なんて呼べる物ではありませんわ。あれは人が作り出した魔王でしょう?」


「ああ、そうだな。魔石から作った魔素を空間に大量に満たした状態で異世界からその空間に召喚すれば・・・ハイ魔王の出来上がりだ!」


 ライアンはややおどけて大げさに両手を広げて見せた。 


「あんな化物の相手なんてたまらないわ、私の身にもなってよ!」


「ところで、セリナはまたあの化物と夕食か?」


「ええ、そうよ。本当にあんな男の何処が良いのかしら。」


 エリスは呆れ顔で部屋を出ていった。

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