砂漠を越えて①
俺達は魔動車が壊れた場所から東に2km程来たところにヴェルスのムーブで転移していた。全員が疲弊している所をスクルス達に襲われる可能性を少しでも回避するためだ。
「流石にこの暑さはたまらないですね。」
カール教授が扇子で汗だくの顔を扇義ながら呟いていた。
「魔動車の動力源は生きているんだが、車体が駄目になったからな。動力源の部品の予備はあったんだが、流石に車体は準備してこなかったからな。」
「ごめんなさい、私が壊してしまって・・・。」
「いや、あれはリーナのせいじゃない、気にしなくていいから。」
ウイリアムさんは慌ててフォローするがリーナさんは落ち込んでしまった。
「まあ、こんな所で立ち話も何ですから、とりあえず俺の亜空間でこの先の事を考えませんか?」
「「「「「亜空間??」」」」」
「いや、そんなところに入ったら時間停止してしまい生きてられないだろう!」
ウイリアムさんは全否定してくる。
「いや、俺の亜空間は時間コントロールできるので大丈夫ですよ。」
「「「「へ?時間コントロール?」」」」
「ゼントの亜空間は快適だぞ!三人で良く寝てたからな。」
「「「「寝てた???」」」」
「まあ、入ってみればわかるから。」
俺は亜空間を広げて皆に入るように促した。
「ほ、本当に大丈夫なのですか?」
リーナさんが不安そうに入口を見つめる。
「じゃあ、俺達から入って見せるよ。」
ゼントはそう言うとミュウやヴェルスと共に亜空間の中に入って行った。
「ほら、大丈夫でしょう!」
亜空間に入ったゼントがひよっこリ顔を出して来た。
「あ・・・はい、そのようですね。」
リーナやウイリアム達も若干不安そうな顔をしながらゼントの亜空間の中に入って行った。
「すいませんが、そこの段差の所で靴を抜いてもらえますか?」
「あ、ああここですか。」
リーナ達はゼント達の靴が脱いであるところを見て、そこにブーツを脱いで亜空間に入って行った。
「日本の家屋と同じじゃな。」
「そうだよ、ばあちゃん、こっちの方が亜空間の中が汚れないからね。」
「こ、これが亜空間か?棚はあるし、ドアまであるのか?まるで家の中だな・・・。」
ウイリアムが興味深そうに亜空間の壁や棚を触ったり叩いたりしている。
「なんで棚なんかがあるんだ?」
「この亜空間は俺の意志で自由に形を変えられるんですよ。ほら、こんな風に。」
ゼントがそう言うと亜空間の天井から紐のようなものが伸びてきてそれをゼントが引っ張って見せていた。
「あ、亜空間ってこんなことが出来るんだ!?」
ウィリアムは目をぱちくりしながらゼントが持っている紐状の物を引っ張ってみていた。
「空間を広げたり仕切りも作れるので、ここをテント替わりに使えますよ。」
「これはもう家だな・・・。」
「でも、入口は閉じることはできないだろう。」
「ええ、流石に入口は閉じられないので、こうやってます。」
ゼントは入口の上端を掴むとぐっと地面に向かって引っ張った。そうすると入口は地面に面した部分に移動し外が見えなくなったのだ。
「こうやってから、さらにこうやります。」
ゼントがそう言うと地面に面した部分が細かいメッシュ状の物が出現した。
「亜空間をメッシュ状にしておけば、変な虫も入ってきないんだ。以前、開口部を開けたままにしていたら、でっかいムカデが入ってきて寝ているうちに噛まれて酷い目にあってからこうやってるんですよ。」
「ん? 皆さんどうしたんですか?」
「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」
ゼントの亜空間の扱いに皆目を見開いて唖然としてしまった。
「ま、まあ、ここなら快適に過ごせるということだな。」
「それじゃあ、今日はここで一泊するとして明日以降の予定を決めよう。」
ウイリアムはテーブルの上に地図を広げて説明を始めた。
「今いる地点がこの位置でチサ町から約150kmの地点だ。ここから目的地のハヤトシテイまでは約400km、本来はこの砂漠で野営を1回するだけで着けるはずだったんだが、一旦チサ町まで戻るとしても徒歩で150kmの道のりだ。ここから最も近い居住地がチサ町で次がハヤトシティなので選択肢としてはチサ町まで戻って魔動車を修理した後、ハヤトシティに向かうか、このままハヤトシティまで向かうかだ。」
「ハヤトシティまで行けたとしても魔動車トータルの時間としてみればチサ町まで戻った方が早くハヤトシティに着けるんじゃないですか?」
「確かにカペラの言う通りだが、それはこの砂漠をまた魔動車で突っ切るということだ。この砂漠は東西に長いから」
「また奴らに襲われたら同じことになるというとですね。」
「そうだ、ゼント君。チサ町まで戻ったら、奴らの攻撃を受けても対処できるようにこの砂漠を迂回して行く必要がある。それに奴らも俺達が戻ることを選択すると考えるだろうから、戻りの道程で奴らに襲われる確率も高くなるだろう。」
「とすると、ウイリアムさんの案は?」
「この砂漠を突っ切ってハヤトシティに向かうぞ!」
「とはいってもこの環境で日中移動することは無理なので移動は朝か夕方にする必要があると考えると、どうやって距離を稼ぐかだな。」
「夜に移動すればいいんじゃないですか?」
「いや、夜は夜で気温が-10℃ぐらいになるから移動には適していないんだ。それと夜になると砂の中の魔物が動き出すしな。」
・・・・なんつう面倒な場所を突っ切ってたんだ・・・。
「それなら、昼間は俺とヴェルスのムーブで距離を稼ぎましょうか?1回に2kmづつですが一日に20kmぐらいは稼げますよ。」
「ゼントさん、私一人でもこの人数なら20回ぐらいはムーブで移動できますよ。」
「いや、そうだろうけど、そこまで魔力を使い切ったら、奴らが襲って生きた時にアウトだろう。」
どや顔をしていたヴェルスがしゅんとなってしまった。
「人数を減らせば使う魔力が減るんだったら、我は走っていくぞ。」
「いくらミュウでも砂漠は走りにくいだろう。」
「いや、魔物の姿になれば四つ足だから大分走りやすくなるぞ。以前に別の砂漠を走ったこともあるし、一日100kmぐらい行けるぞ。」
「そうか・・・それなら俺はヴェノで飛んでいけばいいんだ!それなら100km以上いけるぞ。ブルーはもっと行けそうだな。」
「キャウ―!」
「儂もこのくらいの砂漠なら一日100kmぐらい軽くいけるぞい。」
「流石エルフの剣聖ですな、ほぉっほぉっほぉっ。」
いや、カールさん、剣聖だからじゃなくて化物だからだと思う・・・。
「なんだ、ゼント何か言いたそうな顔しておるな。」
「いやいや、ばあちゃん凄いなって。」
「そうじゃろ、そうじゃろ。」
うん、めっちゃどや顔してる。
「そうすると3人は自力で一日100kmは移動できるということか。俺とカペラとシルビアは30kmぐらいなら何とかなるが、カール教授とリーナがつらいな。」
「それなら、風魔法で飛んで行ったらどうでしょうか?私が残りの人達を風魔法で移動させますよ。ムーブ様に速くは無いですが6人で100kmぐらいなら私一人で大丈夫です。もちろん、戦闘用の魔力は残しての話ですから。」
ヴェルスがにっこり笑いながらゼントの方を見ていた。
「そうか、それなら4日あればハヤトシティに着くぞ! よし、明日はそれで移動だ!」
「それじゃあ晩飯にしましょう。」
そう言ってゼントは亜空間の一部を開けて鍋とパンと干し肉を取り出した。
「いや、まだ作り置きがあったのか。何の肉・・・いや、恐ろしいから聞くのはやめておこう。」
「ええ、スープだけなら5日分ぐらい作っておきましたので。あ、そうだかなり甘いですが果物もありますよ。」
俺はソーリの森で採取したサンガの実を一つ取り出した。
「ゼントさん、その実は何て言う名前なんですか?」
リーナが興味を持ったのか、身を乗り出してきた。」
「ああ、これは『サンガの実』だよ。」
「「「「「・・・・・・・」」」」」
約5名沈黙してしまった・・・・・。
「いや、皆どうしたの?」
「「「「「それは幻の木の実です——————————!!!」」」」」




