生きとし生ける者(リーナ視点)
痛い、痛い、痛い、痛—————————い!!
何で、何で全身が痛いの?
リーナは魔力の暴走により全身が変化している事に気が付かず、ぼんやりとした視界の中で痛みだけを感じていた。
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
いや、何? 今の言葉、誰が言ったの?
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
いや—————!そんなことしたくない!
2度目の声を聴いた時、フッと体の痛みが引いていった。
辺りを見回すと離れたところに人影が見えた。ぼんやりとしてはっきりと見えないが誰かいる!
リーナは人影に向かって声をかけようと思ったその時。
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
リーナの意志とは関係なく手が動き、その人影に対して強烈な風の刃を放っていた。
いや—————っ お願い、逃げて———!
風の刃が人影を直撃すると、その人影は後ろの砂丘に吹き飛んでいった。
やってしまった・・・私は人を殺してしまったの?
リーナが砂丘に吹き飛ばされた人影を凝視していると、人影はまた動き出した。
良かった、まだ生きて・・・
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
いや——————っ!
リーナの心の叫びを無視して勝手に体が動いて風の刃を打ちまくる。
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ————!人を殺したくなんかない!!
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
人影は風の刃を避けながらリーナに接近してくる。それはまだその人が生きていることを意味していた。
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
いや—————近寄らないで! 動きのを止めて――――!!、死んだふりでも何でもして——————!!
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
リーナは動く人影に向かってひたすら風の刃を放ち続けている。それにも拘わらず人影はこちらに接近してきており、直ぐ近くまで来たその時、急にリーナの視界がクリアーになった。
え? ゼ、ゼントさん?
自分が攻撃していた人影がゼントだと気が付いたリーナはゼントに向かって手を差し出そうした時、自分の手の異変に気が付いたのだ。
何?この手は?
リーナは自分の手が青くなり爪は魔中のような赤い太く鋭い爪になっていることに愕然とした。
こ、これは私の手なの??
リーナは右手で左手をさすってみたりしながらその手が何なのかを確認した。
私の手だ!!
リーナは手だけではなく足や体を確認すると、全身が青くなっており、足には手と同じような爪が生えそろい、体中に硬い肉塊の様な筋が出来ており、自慢の形の良い胸が見るも無残な状態になっていた。
え? あ、あ、なんで? い、いや—————————ああああああ。
リーナは己が体の変容に驚き叫び声と共に膨大な魔力を放出した。
膨大な魔力は大気を揺るがし、砂塵を砂嵐の様にまき散らしていた。
ゼントさんがいない?
リーナは叫び終わるとゼントがいないことに気が付いた。
え?何、今の衝撃。
リーナが首筋に衝撃を感じたので後ろを振り向くと、そこには自分に木刀を突き立てているゼントがいた。
ゼ、ゼントさん・・・何故?私を イヤ—————————!!!
ゼントはリーナの魔力により弾き飛ばされ砂丘にぶち当たるとそのまま動かなくなった。
ゼントさんが私を殺そうとした・・・・。
知らずにゼントさんを攻撃したから・・・・。
私が醜い化け物になったから・・・・そう、きっとそうだわ。
醜くなったからって殺そうとしなくてもいいじゃない・・・どうしてなの?私を恨んでいるの?
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
そう、そうよね、殺される前に・・・・。
リーナはゼントがリーナのうなじに埋め込まれたコントローラを破壊するために刃を突き立てたことなど知る由もなく、自分はゼントに殺されそうになったのだと思い込み、砂丘に横たわるゼントに近づいていった。
リーナは変貌した自身の体とコントローラの叫び声により正気を失いかけていた。
私を殺そうとする人なんて!!
リーナがゼントに向けて強烈な風の刃を放ったその時、突然ゼントの前にヴェルスが現れ、多重シールドに張り風の刃を霧散させた。
ヴェルス、元女神だからって、ゼントさんを独占するつもりなの?
ゼントさんは私のものよ、生かそうと殺そうと私の自由だわ。
リーナは魔力を込めて両手を挙げると無数のファイアランスが出現した。
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
そう、殺してあげるわ!
キィ———————————————————ン
ファイアランスを放とうとしているリーナの耳につんざく様な高周波音が聞こえてきた。
何? 何なの?
頭上を見上げると青い光跡が弧を描きながらリーナに、いやファイアランスに向かってくる。
青い光がファイアランスに接近すると同心円状の空間の歪が出現し全てのファイアランスを飲み込んでいく。
あれは、ブルー!
ブルーが放った空間の歪はリーナのファイアランスを全て遠方に吹き飛ばしてしまった。
ブルー、あなたまで私の邪魔をするの?
そう、いいわ、あなたも殺してあげる。
ドン!!!
ブルーに気を取られていると背中に衝撃を受け、リーナは数十m吹き飛んでいった。
何? この私を突き飛ばしたのは誰?
リーナが振り返るとそこにはミュウが息を切らしながら立っていた。ミュウは持てる力の全てを使いリーナを魔力障壁ごと蹴り飛ばしたのだ。
ミュウ、ミュウまでも。醜い私を、化け物になった私を倒そうとするの?
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
そんなに死にたいのなら殺してあげる!
リーナは強烈な風の刃をミュウに向けて放った。
ミュウは全精力を使いきったのか、動くことが出来ず無く、ただ、やってやったという顔で風の刃が到達するのを見つめていた。
シュン!
突然風の刃が霧散してしまった。
何が起きたの?風の刃はミュウを完全に捉えていたはず!
ガキィ———————ン!!
リーナは何かに吹き飛ばされ、砂山に激突した。
痛————————————い?
リーナは腹部に猛烈な痛みを感じた。何かの攻撃が腹部に直撃したのだ。
攻撃がを来た方向を見るとそこにはエルフのゼンが刀を構えて立っていた。
え?あれはゼンさん、エルフはスキルが使えなかったのでは?
ゼンが何をやったのか分からないが、強固な魔力障壁を貫通させて攻撃したのだ。
つ・・・・・・
猛烈な痛みに腹部を触ってみると青い液体が手についてきた。
これ何? 私に血? 青いの? 魔物の血?
私は魔物なの? だから死ななければならないの?
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
私が魔物だから、皆を殺してしまうの?
リーナは頭に響く言葉に贖うように体を硬直させた。
そう、魔物になった私は生きていてはいけない。
全ての人々や動物魔物まで殺してしまう。
『生キトシ生ケル者ヲ殺セ!』
もうあなたの声には従わない!!
リーナがコントローラの声に贖っていると背後に人の気配を感じた。
あ、この感覚はゼントさん!背後にゼントさんがいる・・・。
じっと動きを止めているリーナの頭に小さいけどはっきりとした音が聞こえた。
コツ—————ン!
これは? 私に致命傷を与える攻撃・・・・。
『生きとし・・・・』
良かった、もうあの声も聞こえない。
私は誰も殺さずに済んだ・・ゼ・・トさ・・ありが・・・・。




