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黄色い砂漠

 昨日リーナさんを助けた後、襲ったアスコナ達をどう処分するかが問題となった。


 この急ぎの旅では、領主の娘であるリーナさんや貴族のカール教授、他国の貴族であるウイリアムさんの身分が分かると町や盟主等に招待されるなど無駄に時間を費やしかねないので身分を偽って入領していたのだ。


 今更身分を公にするわけにいかず、リーナさんの身分を知っているアスコナを騎士団に突き出すのを躊躇っていたのだ。


 ところが、その問題はカール教授が簡単に解決してくれた。カール教授がこの町に駐在している騎士団の長を呼んで経緯を説明してくれたところ、彼らは何も文句は言わずアスコナ達を投獄してくれたのだ。カール教授の話だと奴隷落ちになるだろうとのことだった。


 このおじさん一体何者なんだろう?


 カール教授のおかげで、チサ町に一泊した翌日、俺達は次の目的地ハヤトシテイを目指して出発することが出来た。


 今回もまたショートカットで徒歩や馬車では通らないイエローデザートという広大な砂漠を横断する。


 魔動車は灌木が生える荒地を抜け、黄色い砂の砂漠地帯に入って行った。


「これがイエローデザートか、本当に一面砂なんだな。」


 窓の外には、生命の存在を拒むような大砂丘が幾重にも連なっていた。雲一つ無い空からは容赦ない太陽の日差しが降り注いでいるが、魔動車の中は氷魔法と風魔法による温度管理で砂漠といえど快適である。


「この砂漠はアイーラ領の西側の大半を占めているんですよ。昔は緑豊かな場所で町や村が点在していたのですが、150年前の領内の内戦でこのようになってしまったのです。」


 俺の右隣に座っているリーナさんが砂漠の成り立ちを説明してくれた。


 リーナさんが座っているのは普段はヴェルスの座るポジションだが、昨日攫われたことの恐怖が抜けないので、俺の隣に座りたいと言ってヴェルスに代わってもらったのだ。ヴェルスはリーナさんの向かいに座っている。


「内戦で? 普通の戦いじゃあこうはならないんじゃない?もしかしてピラニアドラゴンデザスターみたいなのが暴れまわったとか?」


「いえ、アイーラ領軍と勇者との戦いだったと聞いていますが、生き残った者がいないので何が起きたのか詳しいことは伝わっていませんね。」


「まあ、こんな状態になるくらいだからね。」


 こんな広大な地域が砂漠になってしまうぐらいだから、きっととてつもない戦いが繰り広げられたのだろう。


「・・・・これは『女神の鉄槌』・・・。」


 ヴェルスが小声で呟いた。


「『女神の鉄槌』って?」


 俺の問にヴェルスは俯き加減で淡々と話を始めた。


「過去に、私達女神は異世界から巻き込まれて転移したり、転移位置に失敗したりしてソーリの森やその他の場所に出現してくる人々が何人も死んでいくの見てきました。」


「そう言った人達の悲惨な死を見るのに耐えかねて、創造神様にお願いして転移者を助ける事に限り地上への干渉を許可して貰ったのです。」


「地上への干渉許可が降りてから200年程経った頃、そう、今から150年程前、ゼントさんの様にこの世界に巻き添えで召喚された若者がいました。」


「若者が転移してきたのはゼントさんと同様にソーリ森でしたので、転移者が生きていくには過酷な場所です。この時、その若者を助けたのがスクルスだったのです。」


「スクルスも私の様に若者の行動を天界から眺めたり、時には地上に降りて助けたりしているうちに若者に好意を寄せるようになりました。」


「若者はゼントさん程ではありませんが、非常識なスキルを持っており、ソーリの森を抜けた後、このアイーラ領内に定住し、そこで領主や領民から勇者として尊敬され、慕われていました。」


「ただ、当時のアイーラ領主は、今の領主よりも領民からの税の徴収が厳しく、領民は貧困にあえいでいました。」


「勇者と言われ尊敬した若者は領民たちのために領主に進言しましたが、領主は聞き入れませんでした。」


「やがて領主と若者は対立するようになり、最後に若者と領軍が戦ったのがこの場所です。」


「この戦いで若者は優れたスキルを使い、3,000もの領軍を圧倒していたのですが、最後にはスキルを封じられ、領軍の大将の刃に倒れたのでした。」


「その時です、戦いの様子を見ていたスクルスは天界の掟を破って地上に顕現し、若者を助けようとしたのです。女神の力ならば『生きてさえいれば』若者を救うことが出来たのですが、スクルスが顕現した時には既に若者は事切れていました。」


「スクルスは、若者と勇者と祭りたてて都合の良いように利用したにもかかわらず、邪魔になれば殺してしまう領主への怒りと、若者を助けられなかった自分への怒りで我を忘れてしまい、この地に『女神の鉄槌』を打ち込んだのです。」


「女神の鉄槌による灼熱は3,000の兵士だけではなく当時の領都や周辺の町村までも巻きこみ、数十万の命が奪われました。」


「一人の女神の力ってそれほどなのか・・・。」


 俺は思わず息を飲んでしまった。


「スクルスの許可なく地上に顕現し、数十万の人々を殺戮してしまった罪は、本来死刑となるものでしたが、創造神様がスクルスの情状を汲み取り、処刑は免れました。替わりに女神の力は奪われ、人間として地上に追放されて現在に至るのです。」


「そんなことがあったんだ、でも何であんなにヴェルスの事を嫌っているんだ?」


「分かりません。私達姉妹はあの出来事の前までは仲睦まじかったのですが・・・。」


 ヴェルスはそのまま黙り込んでしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 魔動車がイエローデザートを突き進んでいる最中、イエローデザートの巨大な砂丘の上から魔動車の動きを見ている一組の男女の人影があった。 


 男は長い銀髪を風になびかせながら隣の女に話しかけた。


「ここは思い出の地ということですかね?スクルスさん。」


「・・・・・・」


 スクルスは男の質問に答えず、魔動車を凝視していた。


「仕掛けるなら、ここでしょうね。ここで魔動車を壊してしまえば彼奴らは足を失って砂漠の中を移動せざるおえない。殺せなくても勝手に死んでくれるかもしれませんしね。」


 スクルスは魔動車に向かって右手を伸ばし、真剣な顔をして口を開いた。 


「ふん、これから使うのは私のとっておきさ。彼奴らは絶対に助からない! ただね、起動した後はあたいには制御できないから直ぐに逃げるよ。」


 スクルスは右手に魔力を込めて叫んだ。


「爆ぜろ!」


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