チサ町
俺達はピラニアデザスターと戦闘した次の日の昼過ぎにチサ町というという所に到着した。この村はザラス領の隣のアイーラ領に属する街でザラス領との境界にある。ただムクサキ湖一帯とチサ町まではザラス領の管理地というだけで人が住んでいるわけではない。
魔動車では目立つので村より手前で降りてウイリアムさんの亜空間に収納しておいた。パッと見は歩きで来たような感じで村の門番の所に顔を出していた。
「はい、全員の身分証を確認させていただきました。特に問題はないのでどうぞお通りください。」
ケインさんが門番から全員分の身分証明書を受け取り村に入ろうとすると門番の人に呼び止められた。
「あ、そう言えば、ちょっといいですか?」
「はい、何でしょうか?」
「昨日の午後ですが、ムクサキ湖の方から黒い雲が沸き起こり大音響と地鳴りがしたのですが、何が起きたのか知りませんか?」
「確かに黒い雲が立ち上っているのは見たけどな、遠くすぎて何が起きたのかはわかなかったよ。」
ウィリアムさんが門番に答えていた。
「ああ、そうですよね。徒歩でムクサキ湖の方なんか通るわけありませんし、昨日の午後ではここ(チサ)の直ぐ近くまで来ていますね。いえ、どうもすみませんでした。巷では勇者が湖に沈めた魔物が蘇ったのではないかという噂で持ちきりでして、少しでも情報が無いかと思ったんですよ。」
門番さんは軽く頭を下げてから門番小屋に入っていった。
うん、巷の噂当たってる。
「それじゃあ、今日はここで一泊してから明日の朝にはハヤト村に向かって出立する。まずは予約した宿に行って宿泊の申し込みをしてから皆で食事に行こう。」
俺達は町のメインストリートと思われる路を通り宿に向かった。
この町はオナシティのように白い壁で統一されているわけではなく、白塗りの外壁の家もあれば、レンガで出来た家、木の外壁に赤や黄色に塗った家、本当に統一性が無い種種雑多な外観をしている。
通りに人の姿は多いのだが、イマイチ活気が無いな・・・。来ている服が余り綺麗ではなく、人々の顔に覇気が無いというか。
「ゼントさん、どうかされましたか?」
俺に気持ちを察したのかリーナさんが話しかけてきた。
「いや、この町だけど、人が多い割には活気が無いなと思って。」
「ええ、ゼントさんにも分かりますか。実はこのアイーラ領ですが昨年から税制度が変わって、いろいろな物に贅沢税というのが導入されたんです。その税金の影響をもろに受けたのが農民で、農耕馬から荷車、はては溜池にまで税金がかけられたそうです。それで先祖代々受け継いできた農地を放棄し、近隣の町や市に浮浪者となってなだれ込んだしまったと聞いています。」
「はぁーということはホームレスみたいな人達が大勢いるって事か?」
「え?『ほーむれす』ってなんですか?」
「ごめん、元の世界の言葉なんだ、「家を持っていない浮浪者」といったら分かるかな。」
「はい、おっしゃる通りそういう人達が多い状態ですね。」
「あ、でもオナシティではそんなことは無かったけど。」
「ええと、ゴード国の税制ですが、その人の収入に対して税金をかけるというのが基本で、それ以外の税金はそれぞれの領に方針を任せているのです。オナシティのあるザラス領でもお酒とタバコには税金をかけているんですが、これはゴード国の中では最も少ない部類入ります。ザラス領では領民の収入を増やして税金を増やそうという方針ですので、農地の開拓などを積極的に行ってるんですよ。」
「なるほどね、ザラス領とこことは治政方針が全然違うんだね。」
「ええ、領主考え方によりますので。」
何処の世界でも治政者が無能だと国が栄えないって事か・・・。
そんな話をしながら歩いていると宿に到着した。
宿は2階建てで白塗りの壁と赤茶色の屋根はオナシティよくある建物と同じだ。玄関や受付は華美ではないが、高そうな調度品があり結構高級な宿のようだ。宿代はウィリアムさん達が持ってくれるというので助かった。
部屋は3部屋で、ウイリアムさん、カール教授、カペラさん達、リーナさんとシルビアさん、俺達白銀の翼で分かれた。ここでもリーナさんが不満そうな顔をしていた。
宿を出た後、俺達は宿屋の主人おすすめの店に足を運んだ。
店の場所は宿から少し離れており、チサ町の繁華街の外れにあった。繁華街を挟んで宿屋の丁度反対側ぐらいの位置である。
「ばあちゃん・・・!!」
「うん、ゼント!!」
「これは期待していいんだよな?」
「そ、そうじゃろな!」
ばあちゃんと俺が何に興奮しているかというと宿屋の主人の『おすすめの店』の外観が中華料理屋なのだ。赤い看板に白いかくかくした渦巻の模様に囲まれた『中華料理』の文字!おそらく転移者が作った店なのだろう、現地の人には読めないだろうが、俺達にはしっかり理解できる!!
「ゼントさん達、何をそんなに興奮しているのですか?」
ヴェルスが不思議そうに聞いてきた。
「いや、この店だけど元の世界の文字が書いてあるんだ、しかも余り外れの無い美味い料理の!きっと転移者か作った店何だろうね。」
「じゃあ、ゼントさんの料理みたいに美味しいのが食べられるんですね!」
「いや、プロなら俺のよりずっと美味いはず!」
ヴェルスの目がキラキラしている。
おおおおおおおおおおおおおおおお!!
俺は心の中で嬉しい悲鳴を上げていた。
北京ダック、チンジャオロース、エビチリ、小籠包に水餃子!胡麻団子まである!正に中華料理だ!
ばあちゃんも目を輝かせている。
ウイリアムさんが店員をつかまえて聞いていた。
「君、この店の料理は初めて見るがこの店のオリジナルなのか?」
「はい、先々代の店主がこの料理を考案したと伺っています。」
「そうか、ありがとう。」
ウィリアムさんがお礼を言うと店員は店の奥に戻っていった。
「ゼンさんやゼント君でもこの料理が珍しいんですか?」
目をらんらんと輝かせている俺とばあちゃんにリーナさんが聞いてきた。
「「いえ、珍しいんじゃなくて、懐かしいんです!」」
うん、ばあちゃんとハモった。
それから皆でああだ、こうだと言いながら中華料理を堪能し俺達は店を出た。
辺りは薄暗くなっており、通りには街灯に灯りが点っていた。
「ふーっ本当に久しぶりに本格的なあちらの料理を食べたなー!」
「ほんとじゃ、どの料理も美味かったわい。」
「先々代の店主って、元は中華料理の料理人だったんじゃあないか?」
「ああ、おそらくそうなんじゃろう。あの北京ダックのタレは味噌とも、醤油とも違うが本当に美味かったな。」
「あのタレ売ってくれないかな?}
「まあ、この世界ではあの店秘伝のタレじゃろうから無理じゃろうな。」
「・・・・・つ。」
そんな話をして歩いていると前方から急激に魔力が高まるのを感じた。
「ゼントさん、この先の路を左に言った方向に急激な魔力の高まりを感じます。」
ヴェルスが警戒して前方をスキャンしている。
「ああ、少しヤバそうなかんじだな。」
ズガ——————ン!
前方から破裂音が聞こえてきた。
「俺が行く、ミュウはリーナさんを・・・・・。」
俺がリーナさんの方を振り向くとそこには誰もいなかった。
「リ、リーナさん。」
(告:リーナサントノリンクガ途絶エマシタ。)
「なんだと、コネクト。」
その時、俺達が歩いてきた道の少し先から何かが輝くのが見えた・・・。
(アノ光ハ転移装置ノ物ト酷似シテイマス。)




