カミングアウト
ピラニアドラゴンデザスターとの闘いの後、周囲に残った高熱を避けるため、戦闘現場から出来る限り離れてからキャンプをしていた。
「あ———っ、いい天気だな、昨日の戦いが嘘みたいだ。」
俺はテントから出ると低い位置の太陽を見ながら伸びをしていると別のテントからリーナさんが出てきた。
「ゼントさん、おはようございます!」
「おはようございます、リーナさん。」
「いえ、ゼントさん、『さん』付けは止めてくださいって言ったじゃあないですか。」
そう、昨日の戦闘の後に魔動車の中でリーナさんがそんなことを言い出し、俺達と同じテントで寝ると言い張ったのだ。不思議なことにミュウもヴェルスもリーナさんの行動を拒否することなくリーナさんを受け入れようとしていたのだが、流石にウイリアムさんとシルビアさんに止められていた。ちなみに昨日は魔力を使い果たしたためこの会話をした後、俺は前後不覚になり寝落ちしていた・・・。
「いや、領主の娘さんに対して流石にそれは・・・。」
「いえ、私は身も心もゼントさんと一つとなっているのですから『さん』付け止めてくださいね!」
笑顔なのだけど物凄い威圧感があるな。
「リ、リーナおはよう!・・・これでいいかな?」
うん、満面の笑顔になったね。
リーナは俺達を助けるために自分の魔力を抑えていた魔石の腕輪を破壊してしまったので、魔力がノーコントロールな状態になってしまう”はず”だったのだが・・・・現在は俺のコネクトスキルによるリンクにより魔力を制御している状態にあるのだ。だからと言って『身も心も』というのは言い過ぎな気もするけど、本人は凄くお気に入りの様なので文句は言えない。
今日の朝食は『干し肉とパン』では味気ないので、俺の亜空間倉庫からスープとファイアボーアの肉を使った肉野菜い炒めを出して皆で食べることにした。昨日は魔動車で寝落ちしてしまい何も食べていないので胃袋が欲しているのだ。
「ゼント君、今朝もすまないね。」
「いえ、俺が食べたいので出しただけですから、気にしないでください。」
「そう言いながら、儂らの分まで出してくれるのだから、申し訳ないね。」
カール教授は満足そうに肉野菜炒めを食べていた。
俺は空腹を満たすため、貪るように食べているとばあちゃんが話しかけてきた。
「ゼントなあ、『ホーリーランス』をどこで覚えたんじゃ?」
「何?『ホーリーランス』って?もぐもぐもぐ。」
「お前がピラニアドラゴンデザスターを倒したときに使った白いファイアランスじゃよ。技の名前も知らんで使ったのか?」
「ん、ああ、あれは咄嗟に考えついた技なんだけど名前があったんだ、ずるずるずる。」
「ああ、そうじゃ昔勇者が使ったと言われている伝説の技じゃ!お前は凄いことをやったんじゃぞ!」
「ふーん、もぐもぐ。」
「 ゼント!人が話している時は食べるのはやめい。全くお前は『小さい時』から変わっとらんな。」
「いや、食べてる時に話してきたのは『ばあちゃん』だぞ。まあ、あの技はリーナさんの魔力がおかげだから俺の手柄じゃないよ、もぐもぐ。」
「まあ、元の魔力はそうじゃがな。ファイアランスを飛ばした技とピラニアドラゴンデザスターを宙に打ち上げた技は『聖獣』に力を借りたのじゃろう。」
「『セイジュウ』って何?ぱくぱくぱく。」
「お前、あの鳥、ブルーが聖獣だということも知らんのか?」
「『せいじゅう』って”青い獣”って書くのか?もぐもぐもぐ。」
「確かにそういう言い方もあるがのう、”聖なる獣”と書くんじゃ。」
「へー、そうなんだ、ブルー知ってた?もぐもぐ」
「キャウ―、キャ??」
ブルーはスープを飲むのをやめてこちらを向いて首を傾げていた。
「そりゃあ本人に聞いても知らんじゃろう。儂らがそう呼んでるだけだからな。」
「まあ、ブルーはブルーだから何でもいいんじゃない?なあブルー。」
「キャウ!」
「とはいっても聖獣だとしれたらえらいことになるぞ。」
「なんで?」「キャウー?」
二人で首を傾げてしまった。
「聖獣は異世界から召喚した魔物で、勇者の従魔として召喚されるのが常なんじゃ。」
「お前はブルーが異世界の存在だと知っとったんじゃろう?」
「んー、まあね、もぐもぐ。」
「それがばれたらえらいことになると思わんのか?」
「まあ、でもブルーは喋れるわけじゃあないし黙ってればいいんじゃない、『ばあちゃん』。もぐもぐ」
「はぁ—お前は見た目が『死んだ爺さん』にそっくりだが、そう言った動じないところもそっくりじゃな。」
「まあ仕方ないよ、『爺ちゃんの孫』だし。」
「・・・・・・・・・・ん?」
ふと気が付くと皆の視線がこちらに向いていることに気が付いた。
「いや、ゼント君いくらエルフの師匠の年が70歳を超えているからってこんな若い綺麗な人を捕まえて『ばあちゃん』は失礼じゃないか・・・いやそれより『死んだ爺さん』って誰?ゼント君ってエルフのハーフなのか? いや、そうは見えないな。」
ウイリアムさんが頭に????をつけて質問をしてきた。
「ん—————ばあちゃん、どう説明しようか?」
「まあ、いいじゃろう昨日お前があれだけやらかしているんだ。説明してやらなきゃあ納得できんじゃろう。」
「ヴェルスとミュウもいいかな?」
「ええ、私はこの大地に生きる決心はついてますので。」
「我も構わないぞ!」
「それではリーナさん、ウイリアムさん、カール教授、カペラさんとシルビアさん、これから俺の本当の生い立ちを話します。可能でしたら、これから話すことは他の誰にも話さないでおいてもらえませんか?特に王都の貴族や王族の方々には。」
「分かった、犯罪とかそうことが絡まないなら・・・ただ、ケインとリセスには話してもいいな。」
犯罪? オーマ国の犯罪の様な気もするけど、まあ、俺が悪いわけじゃないし。
「はい、でもそのお二人には俺から話をします。」
それからウイリアムさん達に俺がオーマ国の異世界召喚に巻き込まれた異世界からの転移者であること、女神ウルスに助けられた後にソーリの森を踏破してきたことを話した。
「えーっとゼントが転移者だということは分かった。それであんな妙なスキルを持っていることも納得した。それで女神ウルスに助けられたって言うことはヴェルスさんは・・・。」
ウイリアムさんは頭を抱え込んで独り言のようにぶつぶつ言っていた。
「はい、ウルスは私の姉になります。」
「やっぱりそうだよな・・・・え——————————!!!」
「め、め、女神様——————————!!!」
ウイリアムさん、カールさん、シルビアさん、カペラさんが膝まづいて拝み始めた。リーナさんはリンクした時から薄々気が付いていたようだ。
「今は謹慎中ですので、ただの魔法使いのヴェルスです。女神の力は封印されていますし・・・それに多分このまま追放になります。」
ヴェルスが少し困惑しながら皆に頭を上げてくださいと言っていた。
「ヴェルス様が女神だということは分かったが、ミュウさんは?」
「ミュウ、尻尾を全部出してみて。」
「よっしゃ!」
ミュウは9本の白く輝く尾を全て出して皆の前で左右に振って見せた。
「え、あ、まさかSランクの魔物のク、クーマオ族か?」
「えへへ、そうだよ!」
ミュウがいたずらそうな笑顔を見せていた。
「まあ、驚くことはなじゃろ、クーマオ族は魔物といよりは亜人じゃからな。」
「へーっミュウは亜人だったんだ。」
「そうじゃ、クーマオ族は魔石を持っておらんのじゃ。魔物と獣の違いは魔石を持っているのが魔物で持たないものが獣じゃ、じゃからと言って獣が魔力を持っていないわけじゃない。人間も魔力を持っているが魔石は持っておらんじゃろう。クーマオ族は元は普通の亜人じゃったが、より戦闘に特化するため獣の姿の方を選んだという話じゃ。今のミュウの姿の方が本来の姿なのじゃ。」
「わ、我は知らんかったぞ!」
ミュウが目をぱちくりしてあちゃんを見ていた。
「いや、クーマオ族が亜人ということは分かったけど、何でゼント君と一緒にいるんだ?」
ウイリアムさんが脱線していた話を元に戻してきた。
「ミュウは俺が元居た世界で一緒に暮らしていた猫がこちらの世界で転生していたんだ。たまたまソーリの森で出会ってから一緒にいるんだ。」
「そうだ、我は生まれた時から前世の記憶があったんだ。ソーリの森でゼントに負けた後、命を救われてからずっとゼントと一緒なんだ。」
「たまたま・・・凄い運命だな。それで本題だけど、なんで『ゼン』さんが『ゼント』君の『ばあちゃん』なんだ。」
「それは儂から話そう。」
「儂も前世の記憶があるんじゃ。」
「いや・・・・それは何でも・・・・。」
「儂は17歳まで普通のエルフとして生きておったのじゃが、ファイアボーアと戦って吹き飛ばされた時に前世の記憶を思い出したんじゃ!それから人族の食べ物が恋しくなり、そのために剣の腕を磨いてソーリの森を越えてゴード国まで来たんじゃよ。」
「まさか人族の食べ物を食べるために剣聖になったんですか?」
「いや、剣の腕を磨いたのはソーリの森を越えるためで、剣聖になったのはおまけじゃ。」
「はぁー?剣聖がおまけ??」
ウイリアムさんは口をぽかんと空けていた。
「話を元に戻すとな、儂の前世がゼントのばあちゃんだったということじゃ。」
「これもたまたまだと言うのか?」
「まあ、たまたまとしか言いようがないじゃろう。最も平行宇宙の全く同じ世界にいたとは限らんが、それでもほとんど食い違いが無ければ同じと言っても問題となることは無いじゃろ。」
「不思議な運命だな・・・ゼンさんが最も早くこの世界に転生したということはゼンさんが招き寄せたって事かな?」
「いや、我らを結びつけたのはゼントじゃ、こ奴がこの世界に来なければ儂もミュウも出会うことは無かったじゃろ。」
「まあ、俺がこの世界にいること自体が間違っていたのかもしれないけどね。」
俺は思わずそんなことを呟いてしまった。
「そんなことはありません! ゼントさんがこの世界にいることが間違いだなってことは絶対にありません。」
ヴェルスが真剣な顔で否定してきた。
「私ヴェルスさんの言う通りだと思います。」
リーナさんも・・・。
「そうだ、ゼントには悪いが召喚してくれたオーマ国には感謝してるぞ!」
ミュウ・・・。
「キャウ―!」
「まあ、ゼント君、この通りこの世界は君を歓迎してるじゃないか。女神様までね。」
カール教授が俺の左肩に手を当てて俺にウインクをしてくれた。
「そうだ、変なことを言って悪かった。俺はこの世界で皆と一緒に生きていくと決めたんだな!」
俺は妙に照れくさくなって頭をかいていた。




