デザスター
魔動車の後ろの窓越しに彼方の丘の上を見て全員が凍り付いた。
丘の上に黒い巨大な塊が静止した状態で浮いていたのだ。
「やられた!隠ぺい魔法で魔力を消して俺達を欺いたんだ!!」
「この距離では逃げきれんぞ!」
「くそ、どうすればいいんだ!」
全員がパニックに近い状態になっていた。
この状況で全員生き延びるのは難しい・・・・・。
俺は少し悩んだ後、決心した。
「俺が囮になります!」
「ゼント君!いくら君でも無理だ。」
「ウイリアムさん、このままでは全滅は逃れられません。奴を怒らせたのは俺がブルーへの注意を怠った事が原因です。」
「あの湖にあんな奴がいるなんて誰も思いつかない、不可抗力だったんだ。ゼント君のせいじゃない。」
「それでも少しでも誰かが生き残る可能性があるなら、俺はそれに懸けます!」
「ヴェルス、ミュウ、二人で魔動車を守ってくれ。」
「ゼントさん、やめてください皆で一緒に逃げましょう。」
「そうだゼント、お前ひとりじゃ無理だ!我も行く!」
「奴に近い地表は灼熱地獄だ。風魔法が使えないミュウでは接近は無理だ!」
「ゼントだって風魔法で浮遊できる時間は限られているだろう!」
「そうです、風魔法なら私の方が得意です。私も行きます。」
「俺にはとっておきがある!」
俺はそういい放つと魔動車を飛び出し、背中から蝙蝠のような翼を出して宙に浮いた。
「ゼントさん、それは一体????」
皆目を丸くして驚いていた。
「これは『ヴェノ』の本来の使い方だ。ヴェノを制圧した後、俺の服に同化させていたんだ。」
「ヴェルス、絶対シールドを多重に張れば奴のブルーブレスも防げるはずだ。魔動車の防御は頼んだぞ!」
俺はそういうとピラニアドラゴンデザスターに向かって行った
「キャ、キャ、キャウ―」
ブルーが俺の横に飛んできた。
「ブルー、お前!」
「キャッキャッ、キャウ― キャッキャッ、キャウ―」
「分かった、分かった。いいか、危なくなったら全速で逃げろよ。お前なら逃げ切れるから。」
「キャウ———————!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
魔動車に残った者たちはゼントを置いて逃げる決心がつかず暫らくの間沈黙が続いた。
遠くでゼントが放つ雷撃の音が聞こえ、ブルーのソニックアタックの衝撃波が伝わってきた。それを聞いたヴェルスは意を決したようにシルビアに話しかけた。
「シルビアさん、その杖を貸していただけませんか?」
「あ、ああ良いけど何に使うんですか?」
ヴェルスはシルビアから魔道具の杖を受け取ると、杖に魔力を込め始めた。
杖は一瞬輝くと直ぐに元の杖に戻った。
「シルビアさん、この杖に絶対シールドを多重に張れる魔法を付与しました。3回までなら使えますので、これで防御しながら逃げ切ってください。」
「え? ヴェルスさんはどうするつもりですか?」
「私はゼントさんの所に向かいます。ゼントさんとは、この生を共にすると誓いました。ゼントさんだけ戦わせるわけにはいきません。」
ヴェルスはそう言うと魔動車から出るとゼントが戦っている方を向いた。
「ヴェルス、我もつれて行ってくれ!」
「ミュウさんも覚悟は出来ているのですね。」
「もちろんだ。ゼントに助けてもらった時から我はゼントと共にある。」
「分かりました。それじゃあ風魔法をシェアします。」
コネクトのスキルで風魔法をシェアしたミュウはふわりと宙に浮いた。
「ミュウさん、私に掴まってください。これから転移します。」
ミュウがヴェルスに手を伸ばしたその時
「待ってください!!」
リーナが車から飛び出し、二人を制止した。
「私もつれて行ってください!!」
突然のリーナの言葉にヴェルスは転移を止めてリーナを諭した。
「リーナさん、お気持ちは分かりますが、魔法が使えないリーナさんでは足手まといになってしまいます。」
ヴェルスは冷たい言い方だと思ったが、ここでぐずぐずしているわけにはいかないのではっきりと事実を告げた。
「今の私の魔力は封印された状態です。この封印を解けば強大な魔力が解放されます。ただ、私には制御が出来ないので、ヴェルスさんが魔力の制御をしてください。」
リーナはそう言うと左手にしているブレスレットを外して地面に叩きつけた。
ブレスレットについている赤い石が砕けると同時にリーナの全身から信じられないくらいの魔力が溢れ出てきた。
「・・・・・・つ、これは魔王並みの魔力じゃないですか。」
「ええ、私が魔法を使えないのはこの膨大な魔力を制御できないからなんです。使える魔法もファイアランスだけで、5歳の時にファイアランスを初めて使った時には巨大なクレーターが出来てしまい、それ以来魔力を封印してきたのです。」
「膨大な魔力をお持ちであることは分かりました。でも無事に帰ってこられる保証はありません、それでもいいのですか?」
「構いません。私がゼントさんを思う気持ちはあなた方に負けていません!」
「ウイリアム叔父様、申し訳ありません。私の我儘を許してください。」
「・・・・・・つ、お前の気持ちは分かった。ケインに何て説明すればいいんだ・・・・・・・絶対無理するなよ。」
「はい、それじゃあヴェルスさん、ミュウさん、行きましょう!」
3人が一つに手を繋ぐとフッと消えていった。
「やれやれ、彼奴にこんな甲斐性があったとはね。儂じゃあ役に立たないのがはがゆいのう。」




