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塩湖

 馬車が南門を出て暫らくしてから俺達はウイリアムさんが亜空間倉庫から出した魔動車に乗り換えた。


 四角い箱はシルビアさんの魔法で魔動車の上に乗せて替えている。


 3列ある前席にはウィリアム教授とカール教授、それとばあちゃん、後ろのバスみたいに向かい合った席の右側にリーナさんを挟んでシルビアさんとカペラさんが座り、反対側の俺を挟んでミュウとヴェルスが座っている。


「それじゃあ、出発するぞ。」


 ほぼ無音で魔動車は宙に浮き動き出した。


 いや、この乗り心地の良さは別世界だな、馬車と比較したら天国と地獄だよね。


 魔動車は草原の中の街道に沿って進んで行く。点在する広葉樹の森は赤や黄色に色づき朝の光に輝いていた。


「なんか狭いんだけど・・・。」


 俺はミュウとヴェルスに文句つけた。

 そう、座席の左右には余裕はあるのだが二人共こちらにもたれ掛かっているから妙に狭いのだ。


「いや、我はそんなことは無いぞ。」


「ええ、私も狭くありませんよ。」


「・・・・つ。」


 ん? 妙な殺気を感じて前を見ると。


 うぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・睨んでいる、睨んでいる。


 リーナさんの目が座っており、凄い殺気をみなぎらせていた。


「ゴホン、二人共今は仕事なんだから、もう少しまじめにやろうか!」


「あ、うん、分かった。」


「え、ええ、そうですね。」


 うん、二人共リーナさんの殺気を感じたようだね、二人共俺にくっつくのを止めて普通に座りなおした。

 


「リーナさん、もしよかったら遺跡で見つかった遺物ってなんだか教えてもらえませんか?」


「えっとウイリアムおじさん、よろしいでしょうか?」


「ああ、構わないよ。何を守っているのか知っておく必要があるだろう。」


「あの箱に入っている遺物はゴーレムです。」


「ゴーレム? そんなものもあるんだ。」


「ゴーレムは一部の地方の伝承や壁画等で存在が知られていたのですが、実物が発見されたのは初めてなんです。身長は約4mの巨大な人型です。」


「それって動くの?」


「現時点では動きません。ですが、動く可能性もありますので王都に持っていって解析を行うことにしたのです。」


「そうなんですか、なんか楽しみですね。」


(おい、コネクトちょっとスキャンしてみて。)


(了解!)


 巨大な人型って、なんか〇ンダムみたいで面白そうだ。


(スキャン完了。上部ニ積ンデイル箱ニハ石像ガ入ッテイルダケデス。)


(なるほど、ということはダミーということだよね。これ見よがしに運んでいたから妙だとは思っていたんでけどね。)


 その後、オナシティの甘味屋の話や市場の食材の話などをしていたが、そのうち話すネタもなくなり、リーナさんはうつらうつらとし始めていた。


 変わりない景色と魔動車が快適なので仕方ないな。コネクトにはずっと周囲の監視をしてもらっており周りに脅威がないことは分かっているが、こちらは護衛なので寝るわけにはいかない。

 

 2時間程経つと魔動車は草原を過ぎて土と灌木しかない荒野に入っていった。


「この辺りは草がほとんど生えていないんだな。」


「この辺りの土壌は塩分が多いので、普通の植物は育たないんですよ。」


 俺の呟きにヴェルスが答えてくれた。リーナさんは既に夢の中である。


「今魔動車が向かっているのはムクサキ湖という塩湖ですね。」


「塩湖?海みたいな湖って事?」


「ええ、周囲の土壌の塩分が流れ込み濃縮した状態で、海よりも塩分濃度が高いですよ。」


「海にいる魚はいないかな。」


「塩分濃度が高すぎて普通の生物は住めない湖なんですよ。」


「それはちょっと残念だけど、普通じゃない生物は住めるの?」


「ええ、魔物が住んでいるみたいなのですが、目撃例がほとんどないのでどの様な魔物かまで分かりません。」


「ああその話なら俺も知ってるよ。」


 カペラさんが会話に加わってきた。


「あの湖には、勇者が退治した魔物を沈めたという言い伝えがあるんだ。」


「そうなんですか、どんな魔物を沈めたんですか?」


「いやあ、ごめん、魔物というだけで名前までは言い伝えにはないんだ。」


 あ、結局分からないんだ・・・。


「でも、その言い伝えにはこういう一節があるんだ。『その魔物、口から蒼き炎を吐き村々を一飛びで焼き払った。』というんだけどね。あまり参考にならないか。」


「いえ、十分参考になりました。ありがとうございます。」


 これって『あいつ』じゃないか?


 それから暫らくの間何事もなく魔動車は走り続けて、お昼頃にムクサキ湖に到着した。


「よし、ここで昼食と休憩だ!」


 ウイリアムさんの声ではっとした。もう少しで寝落ちするところだったようだ。

 リーナさんが寝ているの良いけど、ミュウも熟睡しているっていうのはどうしたもんか?


 俺は魔動車から降りて思い切り伸びをした。


 ブルーも気持ち良さそうに一声鳴くと空に飛び立っていった。


 ムクサキ湖は窪地のような場所にあり、車を止めた所から20mぐらい下にある。車を止めた場所には草木が生えているが、湖の周りは石や地面が白くなり草木が生えてていない。


「あれは塩分が析出しているのか? ヴェルス、湖の中をスキャンしてみて。」


「はい。」


 ヴェルスはアーシオ遺跡の時と同様にコネクトのスキルをシェアしているので、スキャン能力は最強の状態である。


「ムクサキ湖の中ですが、塩分だけでなく魔素も高濃度で存在していますね。これだけ濃いとスキャンで魔物を識別するのは難しいです。」


「まさか変異魔素じゃないよね?」


「いえ、通常の魔素ですが、これだけ濃い魔素の中に魔物がいれば変異魔素と同様に上位種に進化する可能性があります。」


「まあ、近づかない方がいいということだよね。」


「ええ、その方が賢明ですね。」


 そんな話をしているとリーナさんが車から出てきた。


「ゼントさん、今日の昼食は家のシェフが準備してくれましたので、皆で召し上がってください。カペラさん、シルビアさん、準備をお願いします。」


 カペラさんは魔動車の後部ドアを開けてテーブルと蓆を、シルビアさんはバスケットを出して昼食の準備を始めた。


「シルビアさん、スープはありますか?」


「申し訳ありません。そこまでは準備してきませんでした。」


「それじゃあ。」


 俺は亜空間倉庫の中から鍋に入った熱々のスープを取り出してシルビアさんの前に差し出した。


「これをどうぞ、皆さんの分もありますので、一緒に食べましょう。」


 急に目の前に出された鍋を見てシルビアさんは少し戸惑っていた。


「ゼントさん・・・・そう言えば亜空間倉庫のスキルを持っていましたね、ありがとうございます。」


 俺はカペラさんの用意したテーブルの上に鍋を置いて、人数分のカップを出して注いているとリーナさんがこちらに近づいてきた。


「ゼントさん、スープを準備していただいて本当にすみません・・・。」


 リーナさんはカップに入ったスープを見てしばし固まった。


「し、白いスープですか・・・・?」


 あ、そうか!この世界のスープは塩とコショウで味付けしてあるだけなのでクリームシチューみたいなものはなかった。


「えーとこれはですね、スープの中にミルクが入ってるんですよ。」


「ミルクですか? 初めて見ました。」


「ほう、匂いは美味そうだが、白いってのは凄いな。」


 ウイリアムさんが匂いを嗅ぎつけてやってきた。


「いや、これは美味いぞー。ゼントまた作ってくれたんだ。」


 嫌そうな顔をしているウイリアムさんに対してミュウは満面の笑顔だ。


「ほう、ゼントこれは『くりいむしちゅう』というやつを作ったのか?」


「ばあ・・・ゼンさん、知ってるんですね。」


「知ってるも何も、全せ・・・ふが、ふが、ふが」


 俺は瞬歩でばあちゃんの後ろに回り込み口を押えた。

 

(ばあちゃん絶対に前世って言おうとしたろう・・・。)


 俺は小声でばあちゃんに話しかけた。


(いや、どうもお前といると気が抜けてなぁ。)


(そこは気を抜かないように。)


「ゼントさん、何をしてらっしゃるのですか?」


 ドキっとして声の方を向くとリーナさんがいた。


 リーナさんその目怖い。


 やはり、ばあちゃんとじゃれ合うのは危険だ!・・・傍からみたら美人のエルフにちょっかい出しているようにしか見えない。

 

「いや、ちょっと師匠の背後を取る訓練をしていて・・・。」


「そうですか?スキルを使わない訓練に瞬歩のスキルを使っては意味がないのはないですか?」


「はぁ、そうですよね、ごもっともです。」


(やーい怒られてんの。)


 ばあちゃんが小声で茶化してきた。


(悪いのばあちゃんだろうが!)



 今日の昼食はリーナさんの家のシェフが作ってくれた肉の串焼きとパンと野菜サラダ、それに俺が準備してきたクリームシチューである。


 肉は冷めていたので軽く火であぶって温めなおした。カウ肉をいつもの様に塩とコショウにより味付けたものだが、領主の家のシェフなので厳選した素材を使っているのだろう、とても美味しい。


「ゼント君とやら、この白いスープは美味しいですな。フィールドビヨンドでも見たことが無いですよ。良かったら家の家内に教えてくれないか?」


「はい、ありがとうございます。カール教授の奥さんはフィールドビヨンドにいるのですか?」


「ああ、そうだよ、フィールドビヨンドに着いたら家に寄ってくれないか?」


「ええ、喜んで。」


 カール教授は少し小太りの気の良さそうな中年のおじさんだ丸い眼鏡が妙に似合っている。話をするのは初めてだった。


「本当に美味しいですね。白いドロッとしたスープも美味しいのですが、中に入っているお肉が柔らかくてとても美味しいですね、何のお肉ですか?」


「リーナさんのお口にあって良かったですね。この肉は『サンダーバード』の肉ですよ。」


 俺が何気なく言った言葉にミュウ、ヴェルス、ばーちゃんを抜かした皆が一瞬で凝固した。

 

「————つ、このスープは一杯金貨1枚以上するぞ!」


 カペラさんが振り絞るように声を上げた。


「この鍋一杯だと・・・・考えるのも怖いな・・・。」


「あのう、そんなに大げさにしなくても良いですよ。俺がソーリの森にいる時に獲った奴ですから。」


 ソーリの森でこいつに襲われた時に雷撃を覚えたんだよね。


「いや、サンダーバードは雷撃を出すAランクモンスターだから捕まえるのが困難なうえにソーリの森にしか生息していないから捕まえに行く難易度が高いんだ。一度ギルドに金貨300枚で捕獲依頼を出したバカな貴族がいたんだが、受ける者が誰もおらず最後には依頼を取り消したという逸話もあるくらいだ。」


「ゼントさん、このスープの代金はオナシティに戻ったら必ずお支払い致しますので、今日はありがたく頂かせてもらいます。」


「リーナさん、こちらが勝手にだしたスープなので気にしないでください。」


「いえ、そうはいきません。」


 リーナを含めて皆のスープを飲み目付きが尋常ではなくなってしまった。

 今後は出す食材には注意をしよう。


 皆の食事が終わり片づけを始めようとした時。


「キャウ———。」


 ブルーが食後の運動とばかりに空に飛び立った。


「あまり遠くに行くなよー。」


 これからまた魔動車の中だからな、少し運動したいんだろう。


 全ての片づけが終わった頃になってもブルーは帰ってこなかったので、俺は念話でブルーに話しかけた。


(早く帰ってこないと置いてくぞー)


(キャ、キャウ―)


 ブルーが焦ったように返信してきたその瞬間。


「ドン!!!」


 衝撃波と共に湖の水が盛大に吹きあがった。


 ブルーが湖面に近い所でソニックアタックをやったのだ。


「「「あ!」」」


 俺とヴェルスとミュウは同時に間の抜けた声を上げた。


「なんか物凄く嫌な予感がするぞ。」


「ミュウ、なんかデジャブしてないか。」


 俺はあのソーリ川での出来事を思い出していた。

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