戦い終わって
アーシオ遺跡での魔物退治の後、俺達はケイン領主に対してヴェローナ・スミスやアクラスの事などは概ね正しく報告したが、ヴェノについては少し違う報告をしていた。
俺の組織再生スキルとコネクトスキルを公にしたくなかったので、ヴェノに浸食されていたヴェルスの両足は、やむなく切り落とした後に俺のエクストラヒールでヴェルスの足を再生させたことにしておいた。ヴェノについては危険なので高温で焼き払ったと言っておいた。
俺がエクストラヒールも使えることをカミングアウトしてしまったが、まだこの世界に存在するスキルなので良しとしよう・・・エクストラヒール自体がかなりレアだけど。
現場にいたアクラスにヴェルスの状態を話されるとまずいので、ヴェルスの読心術でスキャンしたところ、最初に登場した時に見た足が変形しているところまでは覚えていたようだが、後は戦闘に夢中でヴェルスを全く見ていないことが分かった。
あいつ本当に戦闘狂だったんだな・・・。
まあ、なんにしても記憶を操作する必要が無くて良かった。悪人とは言っても人の記憶を操作するのは抵抗があったのだ。ちなみにコネクトスキルとヴェルスの読心術を組み合わせると記憶の書き換えが可能なのだ・・・・危険なスキルだよね。
この日は状況の説明とアクラスと回収品の引き渡しで終わり、明日に討伐の報酬を受け取ることになった。そう言われてみればゴードフラウ街道の討伐報酬もまだだったな、明日一緒に受け取ろう。
そんなこんなで、俺達がワンモーメントに帰ってきたのは既に日が沈んでからだった。
「あ————っ、今日は疲れたな―!」
ミュウがベッドの上で思い切り伸びをした。
「俺も疲れたよ、夕飯食べたら早く風呂に入って寝よう。」
「キャウ―!」
屋台で買ってきた肉の串焼きをテーブルの上に乗せ、お昼のスープの残りを亜空間から取り出していると、ヴェルスが神妙な顔つきで話始めた。
「ゼントさん、ミュウさん、ブルーさん、私が至らないばかりに今日は本当に申し訳ありませんでした。特にゼントさん・・・私を元の体に戻してくれて・・・・・うっ、うっ。」
ヴェルスは感極まって涙を流し始めた。
「それを言うなら俺が謝らなければいけない、危険な場所にヴェルスを一人で行かせてしまったのは俺の判断ミスだ。ヴェルスが謝る必要なんてないよ。ほら、もう泣かないで一緒に夕飯食べよう。」
「いえ、でも・・・・。」
俺が誤る必要は無いと言ってもヴェルスはまだ自分が許せないみたいだった。
「それと、あ—なんだな・・・もう一つ俺が謝らなければならないことがあるんだけど。」
俺は非常にばつが悪そうに手を合わせてヴェルスに謝った。
「ごめん、あの時思わず口づけしてしまって、本当に申し訳ない。」
そう、あの時確かに接触できる部分は口ぐらいしかなかったけど、別に口をつける必要なんてなかったのだ。あの時は勢いでやってしまったのを後から思い切り後悔していた。
「え?なんでゼントさんが謝らなければならないのですか? 」
ヴェルスは何故か驚いたような顔で大きな目をさらに大きくしていた。
「いや、だから本人の同意なしにキスしてしまって・・・迷惑だったろう。」
う———っ、穴があったら入りたい。キス言ったらさらに意識してしまった。
「ふふっ、ゼントさんが謝る必要なんてないんですよ。」
ヴェルスは手の甲で涙を拭いながら笑顔で言った。
「いや、そんなことは無いだろう。」
「そんなことはあるんですよ、説明しますから少しの間目を瞑っていてください。」
「あ、ああ分かった。」
俺はヴェルスの言うように目を瞑った。
一体何をする気だ?
そう思った瞬間、俺は唇に柔らかな感触を感じた。
何が起こったのかと目を開けるとそこにはヴェルスの顔が・・・ヴェルスは俺が目を瞑っている間にキスをしたのだ。
「これで・・・分かってもらえましたか?」
ヴェルスは頬をほんのり赤く染めながらもじもじしていた。
「あ、いや、はははは。」
俺は多分真っ赤になっていたと思う・・・・・。
「ヴェルス、ずるい! 我も—————!」
ミュウがジャンプして俺に向かってキスをしてきた。
ズガ————————ン!!
壮絶なる顔と顔のぶつかり合いで俺達は床にぶっ倒れてしまった・・・・。
倒れた俺の頭の上にブルーが飛んできて
「キャウ―————!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゼント達がじゃれ合っていた頃、オナシティの南東側の荒涼とした荒地で、月光の中にうごめく影があった。
「うぅぅっ、あの青ガラスめ!、もう少しだったのに・・・。」
呻き声を上げていたのはヴェローナ(スクルス)であった。手持ちのポーションを全部飲んだ後に気を失ってしまい、夜になって目が覚めたのだ。出血は止まったが魔力も体力も全く回復する気配がない。
元々魔法で若さを維持していたベローナは、魔力を奪われた今は髪は白く、肌の張りはなくなりしわがれた老婆になっていた。いや、なっていたというより本来の姿に戻っていたというのが正しいだろう。
「あいつ『魔素を操る者』のスキルも持っていやがったのか、くそ!」
悪態をついても右手と魔力を失った今、ヴェローナには静かに死の足音が近づいていた。
「お、お前は!」
気が付くとヴェローナの傍に一人の男の姿があった。
「『魔物使いのヴェローナ』もこうなったらもうおしまいかな?」
男は銀色の長いストレートヘアーを月光に輝かせて薄笑いを浮かべていた。面長の異常に整った顔立ちは美しくも不気味な雰囲気を漂わせていた。
「なんだ、あんたか。あたいを笑いものにでもしに来たのかい?」
「いやいや、助けに来たとは選択しは無いのかい?」
冗談のようなことを言っているが、男の言葉には全く感情は感じらなかった。
「お前はそんな玉じゃあないだろう。まあ、ちょうど良い、とどめを刺してくれ、もうこんな生は終わりにしたい。」
「いや、貴方に死なれては困る、というか勿体無いな、『スクルス』さん。」
「なっ、お前、あの話を聞いてたのか!!」
「ええ、聞かせてもらいましたよ。貴方が元女神のスクルスだったとは思いもよりませんでした。」
「だからと言ってどうした。昔女神だったからと言って何も使い道はないだろう。さっさとやってくれ。」
「いえいえ、使い道はちゃんとあるんですよ。そういうわけで、これを貴方に差し上げますね!」
男は紫色に光る魔石をポケットから取り出した。
「それは、『変異魔石』! まさか、それを・・・。」
「そう、その通りですよ。」
男はにやにやと笑いながら魔石をヴェローナの額に近づけた。
「や、やめろーそんなことをしてまで生きていたくない! 頼む、やめてくれー!」
「今のあなたに選択の権利なんてありませんからね。」
男はそう言うと魔石をヴェローナの額にめり込ませた。
「う、ぐぅあ——————!!」
ヴェローナは叫び声を上げるとそのまま意識を失った。
「さあ、面白くなってきましたね。女神ヴェルスがクーマオ族や神のスキルを持つ男と一緒にいるなんてね。」
男はヴェローナを抱え上げると月光の中から姿を消していった。
月光に照らされた荒地にはヴェローナが飲んだポーションの瓶が風で転がっているだけだった。




