捕食
「おっかしいなー、多分この辺だと思うんだけどなー。」
アーシオ遺跡の第1階層を一人の頼りなさそうな男が彷徨っていた。
「やっぱり小部屋が多いんだよな、全くもう!」
既に何か所もの大きい柱の扉を開けているが、目当ての場所が見当たらないようだ。
ゴン、ゴン、ガコーン!
「お、あれは。」
男は音の方に走っていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「く、くそう!開かないよー!」
音を出していたのはミュウだった。ここはヒャクアシを全滅させた直後にゼントが大慌てで転移した場所だ。
転移した直後はまだコネクトのスキルをシェア出来ていたのでミュウは転移位置ははっきり覚えていた。全速力で駆けつけたのだが、ミュウのバカ力をもってしてもドアをあけることか傷つけることも出来ず困り果てていたのだ。
「どうなっているんだー!」
叫んでいるミュウの所に男が近づいてきた。
「あのうミュウさんでしたよね?」
「あ、はい、貴方は?」
「今朝お会いしたじゃあないですか、ワンモーメントのヴィンスですよ。」
「あ、宿のご主人ですか。なんでこんな所に?」
「ちょっと野暮用がありましてね。ところで、ゼント君達はこの中ですか?」
「はい、でもドアが開かなくて・・・。」
「ちょっと私にやらせてみてください。」
「あ、でも我のバカ力でも開かないんだ。」
ヴィンスはドアの取っ手を握ると
「成程、結界が施してありますね。それなら、ふん!!」
ミュウはヴィンスの魔力が急激に高まるのを感じた。
「え? 何よこれ・・・人間の魔力じゃないよ!」
バキバキバキバキ!
柱の周りがすべて光輝いたかと思うと輝きに日々が割れ、壊れるような音を立てて消えていった。
「もう大丈夫、開きますよ!」
「あ、あんた一体何者?」
ミュウは目を丸々と見開いて男に詰め寄った。
「いやだなあ、しがない宿の主ですよ。さあ、急いで中に入りましょう。」
ヴィンスがドアを開けた瞬間、ヴィンスの鼻先をかすめて何かが高速で飛び出してきた。
その飛び出してきたものは数十m飛んだ後、何かに弾かれるかのように戻ってくると轟音を発した。
ドン!!!!!
「あ、あぶな——――――い!」
ヴィンスはその超高速の物体が鼻をかすめていったので思い切りビビっていた。
そう、その超高速物体はブルーだった。結界の崩壊を察知したブルーはドアが開けられた瞬間外に飛び出し距離を稼いだ後にソニックアタックで戻ってきたのだ。
「うぎや———————!」
ブルーはソニックアタックでスクルスの絶対シールドをぶち破りスクルスの右腕を吹き飛ばしたのだ。
スクルスの負傷によりスキルオフ・フィールドが解除されたその直後、ゼントはスキル『俊速』を発動させた。
ゼントはアクラスにやられて体中のいたるところが骨折して血まみれになっていたが、痛みをこらえて身体強化を使いアクラスに突進していった。
俊速+身体強化の超速の木刀はオリハルコンの剣を撃破、その勢いでアクラスのに思い切り木刀を叩き込んだ。
「うぐっ!」
ゼントの体中が悲鳴を上げたが、構わずスクルスに向かいスクルスの脇腹に木刀を突き刺した。
俊速を使ったゼントを彼らには全く認識できず、飛び散った血しぶきの不思議な動きを見た瞬間に悲鳴を上げる暇もなく意識を刈り取られてしまっていた。
木刀を叩き込まれたスクルスとアクラスは気を失い腹からは光る靄のようなものが出続けていた。
そう、ゼントは魔素を操る者で彼らの魔素を全て抜いてしまったのだ。
「・・・・・・つ。ブルーありがとう・・・コネクト、直ぐにヴェルスの状態をスキャンしてくれ。」
(了解!)
コネクトが解析をしている間にゼントはふらつきながらヴェルスに近づいて行った。
「お、お願い・・・これ以上近寄らないで・・・。」
ヴェルスはか細い声でゼントに懇願した・・・。
(解析終了!現在ヴェルスノ体ハ90%以上ヴェノニ浸食サレテイマス。浸食サレテイナイノハ顔ト頭ダケデソレモ後1分モ持チマセン。)
「組織再生スキルは効果があるか?」
(現在コネクトリンクハ切レテイル為、直接接触スル必要ガアリマス。ソレデモヴェノノ能力ガ未知数ノタメ成功スル確率ハ0デハ無イニシテモカナリ低イモノト考エマス。)
「そうか・・・・0で無いなら十分だ。」
ゼントが意を決してヴェルスに接触しようとしたその時
「ゼントその魔物に何をするつもりだ!」
ミュウの声が狭い部屋の中に響いた。
「この魔物に見えるのはヴェルスだ!」
ゼントの言葉にミュウが絶句した。
「俺が今から元に戻す、絶対に戻す!」
ゼントの声にかろうじて反応したヴェルスが呟いた。
「や、やめて・・・貴方もヴェノに捕らわれてしまう・・・お願い!」
ゼントはヴェルスの言葉を無視してヴェルスのわずかに残った唇に自身の唇を重ねヴェルスを抱きしめた。
ヴェルスの目から涙が一つ零れ落ちたその時!!
キュパ————ッ!!!
ヴェルスの体から膜の様に広がりゼントを丸ごと飲み込んだのだ。
「ゼ、ゼント————————!!」
「やめるんだ、ミュウさん、君も捕まるぞ!」
ミュウがゼント達に駆け寄ろうとすると、ヴィンスがミュウの両肩を抑えてミュウを制止したのだ。
「でも、ゼントがヴェルスが————!」
ミュウは泣き叫びながら暴れていたが、ヴィンスはミュウのバカ力を完全に抑え込んでいた。
パッと見は普通のおっさんが女の子を抑えているように見えるのだが、Sランクモンスターのミュウの力を抑え込んでいるのだ、ただのおっさんではない。
「ゼント君を信じて待とう!」
ヴィンスのその一言にミュウは泣き崩れながらヴィンスに抱き着いていた。




