コットン フィールド
俺たちはカーペンター夫妻と共に屋敷を出て畑の前に来ていた。
「じゃあ、ヴェルス頼むよ。」
「はい!ゼントさん。」
ヴェルスは、すぅーっと宙に浮きあがった。
え? なんで飛んでるの?
あ、風魔法か。
ヴェルスの下に風が小さな竜巻の様に渦巻いていた。
ヴェルスは畑を一望できる高さにまで到達すると呪文を唱えた。
「エリア・スキャン!」
ヴェルスの額から畑に向かって拡散するように光が出たかと思うとそれらは弧を描いて畑全体に降り注いでいった。
数秒の後、畑に降り注いだ光はビデオの逆回転を見ているみたいにヴェルスに戻ってきて消えていった。
カーペンター夫妻は、何故か両手を合わせてヴェルスを拝んでいた。
まあ、確かに神々しい景色だな・・・女神だし・・・。
「えっ・・・・!」
ヴェルスが少し驚いた顔をして地上に降りると現在の状況を説明し始めた。
「デビルモールが作っている穴は畑の全域に展開されています。それで数は・・・少なくとも100匹はいます。畑の一部に異常に魔素の濃いところがあって、そこのスキャンが出来ないので正確な数は分かりませんが・・・。」
「「100匹!」」
ライアン夫妻が悲鳴に近い声をあげていた。
知らいなかったとはいえCランクのモンスターが100匹もいる場所で今まで働いていたのだから、殺されないだけ運が良かったのだ。
「その数は凄いな。ミュウに考えがあるって言ったけど、この数でもなんとかなるか?」
「やり方次第で何とかなるよ!試しに何匹かやってみようか?」
「じゃあ頼む。」
「へへ~、久しぶりに暴れられるな!」
ミュウは辺りを見回した後、畑の際まで走ったかと思うと、おもむろに地面に拳をたたき込んだ。
ぼこっ! 凄い音がして地面に大穴が空いた。
「これが奴らの通路なんだ。」
そう言うと今度は穴の端に手を当てて魔力を込め始めた。
『シュルルー シュルルー』 不思議な音が微かに聞こえてくる。
ほんの数秒後に何か黒い塊が穴から飛び出してミュウに襲いかかってきた。
ドゴン!鈍い音共に黒い塊はミュウとは反対の方向に吹き飛んでいった。
「一丁あがりー!」
黒い塊はミュウの鉄拳で殴り飛ばされたのだった。
「もう一丁!」
続けて出てくる黒い塊をミュウはまた拳で吹き飛ばすということを繰り返し、黒い塊は積みあがっていった。
「もう終わりか。」
5回黒い塊を吹き飛ばしたところで、もう出てこなくなった。
「こ、これは・・・デビルモール!しかも成体じゃないか!」
体長2mもあるデビルモール達をあっという間に5匹も撲殺したミュウを見てライアンは驚愕していた。
「失礼、はじめはCランクとしては余りにも華奢な人たちばかりなので本当に退治できるか心配していたんだが、これなら安心して任せられるよ。」
「へへっ!」
ミュウがどや顔で拳をあげていた。
「ミュウ、ところでさっきの音は何なんだ?」
「あれはね、ビッグワームが動く時の音なんだ。我には音を真似るスキルがあってね、このスキルで魔物の好物の音を出してやれば、こんな具合に狩ることが出来るんだ。」
「なるほど、それなら穴の中にいてもおびき出せるので何とかなるな。ライアンさん、どこか広い空き地はありませんか?大暴れしても大丈夫な場所が良いんですが」
「ああ、それなら東の方にまだ開墾していない土地があるからそこなら何をしても大丈夫だ。あの、小さい森の向こう側だけど。」
「そうですか、じゃあ後は危ないので我々だけでやります。できる限り畑には被害が出ないようにしますので。」
「分かった。多少畑に被害が出てもかまわないから奴らを倒してください。お願いします。」
カーペンター夫妻が家の中に戻っていったのを確認して、俺達は作戦会議を始めた。
「さて、ステータスオープン。」
「よし、ミュウのスキルが出ているぞ、これで俺も奴らをおびき出せるな。」
「よし、おびき出して一匹ずつやるか?」
「いや、それじゃあ効率が悪すぎる。そこでだ、さっきライアンさんに聞いた場所に全部のデビルモールを集めて一網打尽にするって言うのはどうだ?」
「いいけど、奴らが逃げ出したらどうする?」
「そこでヴェルスの出番、集まってきたやつらの周りに絶対シールドを張って閉じ込めてしまうんだ。ヴェルス、絶対シールドは地面の中まで到達できるよね?」
「ええ、20mぐらいの深さまで到達できます。初めは半円形に張っておいて彼らの動きを止めておいてから全周に張るのはどうでしょうか?」
「そうだ、それがいい。」
「それじゃあ私はあの森の向こうで待機します。」
「じゃあ、俺は南西の端から、ミュウは北西の端から奴らをおびき出そう。ところでミュウは探知系の魔法使える?」
「探知系の魔法ではないが、知覚で奴らを認識できるぞ。」
「じゃあ、畑の端からヴェルスが待機している場所に向かって近い位置でビッグモールの疑似音を出して周りの奴が近づいてきたら疑似音が届く範囲までヴェルス側に移動してくれ。」
「分かった。」
「よし、各自の持ち場まで移動しよう!」」
ミュウは作戦開始位置まで自走、ヴェルスとゼントはムーブで移動した。
(それじゃあ、みんな準備はいい?)
((準備OK!))
俺の念話に二人が答えてくれた。
(それじゃあ作戦開始!)
俺とミュウは地面に手を当て、疑似音を放った。
お、集まってくるな~凄い数。よし、こんなもんだろう。
俺は、ひとっ飛びしてヴェルスに近い場所に移動して地面に手を当てた。
この近くにいた魔物は先に誘い出しでヴェルスより遠ざかっていたのだが、より遠くにいた奴らを引き連れて戻ってくることになる。
よし、次!
ミュウもゼントと同じ様にデビルモールを集めてヴェルスに近づいてくる。
俺達が近づいてくるのを見ながらヴェルスは先ほどのエリアスキャンを使った時と同じ様に風魔法で宙に浮いて準備を整えた。
「絶対シールド!」
ヴェルスの詠唱で巨大な半円筒状のシールドが現れて地面に突き刺さっていく。
シールドが完成すると、半円形の内側に俺とミュウがほぼ同時に入っていった。マイペースでやっていミュウに俺は同調するように動ていたのだ。
「よし!ミュウ最大音量で奴らをおびき出すぞ!」
「おう!」
二人同時に地面に手を触れると、そこから弧を描くように地面が震えて見えた。
「「「「「ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!」」」」
地響きと共に大量のデビルモールが突進してきため、地面にひび割れが生じ出した。
「よし、ミュウ離脱!」
俺ととミュウはジャンプして、絶対シールドの外に退避すると同時にヴェルスが絶対シールドを筒状に変形させてデビルモールの大群を閉じ込めたのだ。
密集しすぎたデビルモールはひび割れた大地より何匹か飛び出してきたが、まだ地面の中にはデビルモールがいる。
「ミュウ、シールドの上から光の刃で地面を叩き割ってくれ!」
「よっしゃ~!」
ミュウはジャンプすると6人に分身し、9本の尾から光の刃を放った。
光の刃は絶対シールド内の地面を全て切り裂き、そこからデビルモールがあふれ出してきた。
「うっ。」
俺は蠢く大量のデビルモールに一瞬絶句したが、躊躇している場合ではない。放っておけば穴を掘って絶対シールドの下から逃げ出してしまう。
俺はヴェルスが使った風魔法と同じ魔法で宙に浮き、木刀を構えた。
「ゼントさーん早く――!」
「ヴェルス!絶対シールドが持たないのか?」
「いえ違いま――す!大量のデビルモールが怖いんです――!」
あ、そっちなの・・・。
それなら、まとめてやってしまおう。
俺は木刀に魔力を込めて大上段から振り下ろした。
『 拡散雷撃! 』
俺が放った雷撃は無数に分散し轟音と共にデビルモール達に襲い掛かった。
落雷を受けたデビルモール達は一瞬で絶命し、黒焦げとなっていた。
「やったぞ!」
「ゼント、何だその変な雷撃は?」
「へへ、ちょっと雷を分散してみたんだ!一つ一つの威力は落ちるけど、元々雷のエネルギーは凄いから、うまくいったな。」
「何でもありですね・・・。」
ヴェルスが少々あきれていた。なんか蒼い顔してるし。
(警告:デビルモールが数匹逃亡しています。)俺のコネクトスキルが警告を発した。
「しまった、まだ何匹か残っている!」
「あそこ、魔素の濃度が高い方に向かっている。」
俺は瞬歩を使い一瞬で奴らを追い越し魔素濃度が高い場所に移動し、地面に向かってアイスランスを放った。
「ぼごん!」
地面が割れて串刺しになったデビルモール達が姿を現した。
「ふぅー。」
割れた地面の下を覗くと、そこにはかなりの大きさの空洞があり、赤く光る塊が見えた。
「これは? まさかあんなでかいやつ見たことない、30cmぐらいないか?」
(コノ石は魔素ニヨリ構成サレテイルコトカラ、コレハマセキデス。)
コネクトスキルが言うんだから魔石なんだろうな?
「ゼントさん、どうしたんですか?」
「ゼント、その赤いのは?」
振り返るとヴェルスがムーブで、ミュウが全力疾走で到着していた。
「コネクトスキルが魔石だって。」
「えっ? はい、確かに魔力を感じますし魔素を放出しているので魔石ですね、でもこのサイズは・・・。」
「SS級のピラニアドラゴンでも10cmぐらいだったぞ。一体何の魔物の魔石だ?」
「自然界に存在する魔物にこれだけの魔石を持っているものはいないはずです。」
元女神のヴェルスの言葉に俺達は一層困惑した・・・。
「じゃあ何故こんなものが存在しているんだ?」
「古代文明の技術なら、もしかして・・・。」
「「古代文明?」」
「ええ、私が生まれる前にこのエルアースに存在した文明です。栄華を極めたと聞いていますが、末期には天界を巻き込んだ戦争が起こり滅亡したと聞いています。」
「古代文明の技術ならこんな物を作り出せるのか?」
「複数の魔石を一つに纏める技術があったと聞いたことがあります。元々魔素や魔石を生み出したのは古代文明です。」
「そんな優れた文明があったんだ。あのアーシオ遺跡もその古代文明の遺跡なのか?」
「そうです。ウイリアムさんが乗っていた魔動車も古代文明の産物です。」
「成程、電話やインターホン、時計なんかも古代文明の産物ということか。どうも生活水準から逸脱している思った。」
「でも、なんでこんな所に古代文明の産物があるんだ?」
「おそらくデビルモールを大量発生させるため、誰かが置いたのだと思います。魔物は魔石からの魔素を吸収して増殖する習性があります。半年ぐらいで100匹まで増えた理由がこれだと思います。」
「うーん、なんか面倒なのを見つけちゃったな。誰かがこの綿花畑を潰そうとしてたってことだよね?」
「ええ、綿花畑はおろかオナシティ自体に甚大な被害を与えようとしていたのだと思います。」
「関わってしまったことは仕方ないか。魔石を回収してギルドに報告しよう。」
俺は穴に飛び降り巨大な魔石と串刺状態のデビルモールを亜空間にしまい込んだ。
「ところで、あいつらの後始末どうしようか?」
俺は穴から戻ると先ほど雷撃を放った場所を指さした。
「まずは退治した証拠をカーペンター夫妻に見てもらってから、依頼書に完了のサインをしてもらうんだ。デビルモールの牙と魔石を取ってギルドに持っていけば退治した証明にもなるし、いい金額で引き取ってくれる。ゼントが雷撃倒した奴の肉は使えないけど私が倒したやつ串刺しになった奴は使えるよ。意外と美味いんだ」
冒険者経験のあるミュウが説明してくれた。
「よし、まずはカーペンター夫妻を呼んで来よう。」
それから俺達はカーペンター夫妻に丸焦げになったデビルモールを確認してもらった。
「ほ、本当にこんなにいたのか・・・。」
ライアンは声を詰まらせ、奥さんのアンは声を出せずにいた。
「はい、この辺一帯にいたデビルモールは退治しましたのでサインをお願いします。」
「あ、ありがとう本当に助かった・・・。」
ライアンは手を震わせながら依頼書にサインをしてくれた。
「このデビルモールの数ですが、オナシティがパニックになるかもしれないので他の人に言わないでおいていただけますか?」
「分かった。聞かれたら20匹ぐらいだと言っておく。俺もこんな所で農業やっていたなんて、バカ呼ばわれしそうだしな。」
「お願いします。あ、でもこの結果はギルマスにはきちんと報告しますので。」
二人共頷いた後、奥さんが思い出しように紙袋を差し出してきた。
「ほ、本当にありがとうございました。えっとこれはもう一つの畑で栽培しているモロコシです。良かったら皆さんで召し上がってください。」
奥さんが差し出した紙袋の中には茹でたトウモロコシが入っていた。
「わあ!ありがとうございます。」
俺は嬉しさの余り、遠慮することなど考えもせず紙包みを奥さんからいただいた。トウモロコシはこの間に市場で探した時は見つけられなかったんだ。
「良かったわ、喜んでいただけて。」
トウモロコシを貰った時の俺は、多分満面の笑みだったと思う。
「それじゃあ、これをいただいた後、俺達は魔石採取とかの後始末をして帰ります。」
「ああ、魔石採取は大変だろうけど頑張ってくれ、それにしてもこんなに早く終わるとは思わなった。君達が来てくれて本当に助かったよ。」
カーペンター夫妻は俺達に一礼して家に戻っていった。
「やっぱり30cm魔石見せなくて良かったよ。」
「ええ、デビルモールの数だけでもあれだけ驚いていたので。」
「でもギルマスにはきちんと報告しておこう。」
「ゼント、早くそれ食べようよ!」
「ミュウ、野菜だけど大丈夫か?」
「大丈夫! なんかすごくいい匂いがしているし。」
トウモロコシ、本当に久しぶりだな!
トウモロコシを食べ終わった後、俺達は丸焦げのデビルモールから牙と魔石を採取を開始した。
・・・・108匹は多い!
ミュウはサクサクやっているけど、ヴェルスはなんか蒼い顔しているし。
俺達はかなりの時間をかけて牙と魔石の採取を終了し、丸焦げになったデビルモールはファイアランスで焼き払い、地面に埋めたのだった。
一通りの作業が終わる頃には陽がかなり傾き、綿花畑を夕陽が赤く染めていた。綿花畑に吹く風が赤と黒の波を描いている。
「あーっやっと終わった!依頼達成ってこんなに大変なんだ!」
俺達は夕闇迫る綿花畑を後にして宿に帰っていった。




