業師
買い物が終わって俺達は宿の部屋に戻ってきた。
「いやー今日は楽しかった。異世・・いや、ゴード国の市場の品揃えがこんなに豊富だとは思わなかった。」
「ゼントは夢中になっていたからな。少し買いすぎじゃないか?」
「そうですね、今日買い物で手持ちのお金がかなり少なくなってしまいました。」
俺が買った香辛料等はこちらの世界では余り流通していないので結構高価だったのだ。
「うう・・、ごめん、手持ちがなくならないうちに、ギルドで依頼を受けよう。」
「そうだ明日、ギルドに行こうよ。我は暴れたくて仕方ないのだ。」
「わかった、そうしよう。ヴェルスもいいよね?」
「はい、そうしましょう。」
「それじゃあ、晩御飯の準備だ。リーナさん、今日は付き合ってくれてありがとうございます。ちょっと時間がかかるけど、待ってもらえますか?」
「はい、全然構いません。」
やっと手に入ったキャベツ、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、予定通りソーセージと合わせてポトフにしよう! もう一品は・・・これもやっと手に入れた卵でミートオムレツを作ろう!
「まずは野菜をざく切りにしてとっ。」
ポトフのスープにはソーリの森で作っていたファイアボーアの骨からとっただし汁を使う。これにワンモーメントの手作り腸詰を入れて煮込む
ポトフを煮込んでいる間に、ミートオムレツを作る。
肉をミンチにしないと行けないけど、包丁でいちいちやるのは面倒だな、ミルサーがあればいいんだが市場ではなかったな・・・そうだ!あれを使ってみよう。
亜空間から石臼を取りだし今日買ってきたのカウの肉を入れた。カウというのは牛みたいな動物で、この世界で食用として飼育されているとのことだ、聞いた話だと牛の1.5倍ぐらいあるらしい。
「この石臼なら壊れないだろう。まずは飛び散らないようにシールドして。
俺は木刀を使い石臼の上に絶対シールドを施した。
「ゼントさん、一体何をする気ですか?」
ヴェルスが不思議そうに聞いてきた。
「肉をミンチにしようと思って・・・。シールドしているけど音が漏れるかもしれないから、驚かないでね。」
ゼントはシールドの真ん中を少しを開け、そこに手加減した『音の刃』を打ち込んだ。
ドン、ドン、ドン・・・!やや鈍い音がしたかと思うと肉が見事にミンチになっており、シールドに張り付いた肉がまるで宙に浮いている様に見えていた。
「ゼントさん・・・・このシールドもしかして『絶対シールド』ですか?それとあれは『音の刃』ですか???」
リーナさんが目を丸くしながら質問してきた。
「ああ、そうだけど?」
何を驚いているんだろう?
「いえ、『音の刃』や『絶対シールド』を使うのは普通は魔法使いで、魔剣士で使う人なんて会ったことありません。それに、こんなバカなことに・・・いえ、こんな器用に『音の刃』や『絶対シールド』を使う魔法使いも見た事ありません・・・。」
やばい、やっちゃったか?
「いやあ、ソーリの森で生きていくには使えるスキルは何でも使っていたので、攻撃スキルを生活用に使うのは俺にとっては普通だったんだ。」
「いや、でも・・・普通じゃないと思います・・・。」
うぐ、やっぱりやってしまったか・・・まあ、やってしまったことは仕方ないので構わず調理を続けよう。
ミンチを木のボールにかき集めて、フライパンでみじん切りにした玉ねぎ、ピーマンと一緒に炒め、塩とシガル(コショウ)で味を調えた後に火から下ろした。
次に鶏の卵の2倍はある巨大な卵を取り出した。
スモールロックバードの卵、ロックバードという魔物を鶏みたいに家畜化したということだけど味は大丈夫なんだろうな?
キッチンの端で卵をたたいて割ろうとしたが卵の殻はびくともしない。
やっぱり固いな・・・。割りすぎて飛び散らせても嫌だし・・・。
卵を3個キッチンの上の並べて木刀を構えた。
「ゼントさん、何を・・・」
リーナさんの問いかけが終わる前に俺は木刀を振り下ろしていた。
木刀は右端の卵の前で寸止めされていたが、卵にの上部に一直線の筋が入っている。
うん、うまくいった!
光の刃を最小限のパワーに調整したのだ。
手前の卵から順に片手に取り先ほどついた筋の部分をボールの角に当てて三つの卵を割っていった。
「あ、え――?」
(普通のスキルは魔物などを攻撃するためのもので、こんな微妙な調整することは普通しないし、できないはずなのに・・・この人何なの――・・・リーナ心の叫び!)
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「さあ、できた! ワンモーメント特製腸詰のポトフとスモールロックバードのオムレツだ!」
「初めて見た料理です。この腸詰の入った食べ物は、とても美味しそうな香りがしますね。」
「リーナさんのお口に合うかどうか分からないけど。今日一日付き合っていただいたお礼なので召し上がってください。」
「「「「いただきます!」」」」
ゼント達は部屋のテーブルで食事を始めた。
ポトフとオムレツの他は、市場で仕入れたコッペパン風のパンとリンゴを摺り下ろして絞ったジュースである。ジュースにはヴェルスが氷魔法で作った氷を入れてある。
「この腸詰を煮込んだやつ本当に美味いな!」
「そうですね、特にこのスープの味が何とも言えませんね。」
「リーナさん、いかがですか?」
黙々とポトフを食べているリーナにゼントは問いかけた。
「え? あ、ごめんなさい。余りの美味しさに我を忘れていました。こ、こんな不思議な味は初めてです。どのように作ったのですか?」
「それは魔物の骨と野菜をじっくりと煮込んだスープが入れてあるんです。亜空間倉庫に入れておけば腐らないので、以前作っておいたものをこれに入れたんですよ。」
「魔物の骨を?そんな使い方があるんですか?」
「ええ、骨を煮込むと結構良い出汁が取れますね。」
「そうなんですか。家のシェフではこんな味出せませんね。」
「リーナ、こっちの卵もいけるぞ、食べてみな。」
ミュウがオムレツをリーナさんに勧めてきた。
「柔らかくて美味しい! ところでこの赤いのは、まさか「血」じゃあないですよね?」
リーナさんはオムレツにかかっているトマトケチャップに少々ビビりながら聞いてきた。
「ああ、それはアラスト(トマト)の実から作ったんだ。ソーリの森に自生していた植物だよ。市場でこれと同じ野菜を探したんだけど、残念ながら見つからなかったんだ。一緒に食べると美味しいよ!」
リーナさんは恐る恐るケチャップのついている部分を一口食べた。
「本当!更に美味しくなった!ヤバい!」
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「ごちそうさまでした!」
「本当、なんでこんなに美味しいの?アラストって図鑑で見たことあるけど、雑草だと思っていたわ。」
「美味しいだろう。アラスト(トマト)が市場で手に入らないと分かったときはかなりがっかりしたね。種はいくつか保存してあるので、どこかで栽培してくれないかな。」
「そうですね、知り合いで農園を営んでいる方がいるので、後で聞いてみます。それにしてもゼントさん、こんなに料理が得意なら、冒険者より食堂開いた方が良いんじゃあないですか?」
「ははは、そのうち考えてみます。」
「それと、もしよろしければ、家のシェフに作り方を教えていただけませんか?」
「いえいえ、教えられるような大そうなレシピではありませんよ。」
「謙遜なさらないでください、本当に美味しかったのですから。あ、でも音の刃や絶対シールドは家のシェフたちは使えませんので。」
はは、まあ無理だよね・・・。
「まあ、こんなレシピで良ければ伺う機会があれば説明します。」
「良かった。それじゃあ、父やシェフと相談して後日連絡いたします。さて、余り遅いと父に怒られますので、今日はこれで失礼します。本当にありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ買い物に付き合っていただき本当に助かりました。」




