オナシティ
宿を出た俺たちはリーナさんの案内で冒険者向けの服屋に向かった。
太陽は既に高く、街並みをくっきりと照らしていた。
道には朝ほどではないが多くの人たちが往来している。
ギルドのあるメインの通りに出てからギルドとは反対の方向に進む。
オナシティは、領主の館を中心に放射状に道が伸びており、その道に交差するように周状に道が走っている。
今歩いている道を真っすぐ行くと昨日俺達入ってきた門の所に通じている。
百m程進むと、リーナさんお勧めの店に着いた。
「こちらが冒険者の方々に人気の『ナトリ服店』です。」
「こんにちは。」
「はい、いらっしゃいませ。おや、リーナ様じゃあないですか、お久しぶりですね。」
店の中にいたアラフォーぐらいの女性が笑顔でリーナさんに挨拶をしてきた。
中肉中背の品の良い女性で、眼鏡をしており、茶色の髪を後ろで束ねていた。
「お久しぶりです、カルラさん。今日はこちらのゼントさん達が服を新調したいというのでこちらのお店を紹介させていただきました。」
「おや、リーナさんのお友達ですか?初めまして、私はカルラ・ナトリと申します。夫と一緒にこの店を営んでおります。」
「俺はゼントで、こちらがミュウとヴェルスです。俺は冒険者になったばかりなので、冒険者に向いた服を見せていただきたのですが。」
「はい、ありがとうございます。そうですね、既製品はそちらにいくつか置いてあります。既製品をベースにしてサイズを直すのも承っていますが、余り数がないのでサンプルの絵を元に新しく仕立てる方が多いですね。特にゼントさんは細身なので、ここに置いてあるのでは仕立て直すのは難しいかと思います。」
俺は男物の服を見ていて思った。この世界の男はなんてでかいんだ!俺だって元の世界なら小さい方じゃないんだがな・・・。
俺の身長は175cm・・・日本人としては大きい方だ。飾ってある服は、丈は丁度良い物もあるのだが、どう見ても幅が余ってしまう・・・。
確かにトニーさんはでかかったし、すれ違う冒険者はみんないいがたいをしていたな。
「ゼント、これなら丁度良いんじゃない?」
ミュウがグレーの服を一着もってゼントに近づいてきて、俺の体に合わせてきた。
「おお、これなら丁度・・・ん?なんだこの『ひらひら』?」
ミュウが持ってきた服には裾にレースの布が付いていた。
「あ!これ女物じゃあないか!」
「てへへ!」
「てへへ、じゃない! 全くもう、真面目にやれ!」
「ゼントさん、こちらでカタログから選んだほうが良いですよ。」
俺は既製品を見るのをやめて店のカウンターでカタログを見始めた。
・・・・・・・・・・・
小一時間程、あーでもないこーでもないと服を選んだ後・・・
「ゼント、どうだ格好いいだろう!」
ミュウは7部丈の青いパンツと白いシャツに胸の部分をガードする革製のプロテクターを付けてポーズをとっていた。
「ああ、格好いいぞ!」
ミュウの活動的な外観や性格と非常にマッチしている。
「私の服はいかがですか?」
ヴェルスは白いワンピースに水色の帽子付きのケープを付けていた。
「うん、とても可愛いです。」
こんなかわいい子たちと一緒に冒険者をやれるなんて、こちらの世界も悪くないか。
俺は彼女らの姿にしばらく見とれいていた。
「私も冒険者用の服を買おうかな・・・」
リーナさんが小声で何か呟いていた。
俺達は今日買った分と注文した分の支払いを済ませて店を出た。
今日買ったのは丁度サイズがあったヴェルス達が今着ている服だけでヴェルス達の着替え用と俺の服は3日後に受け取ることにしたのだ。
ナトリ服店を後にした俺達は、リーナの案内でオナシティの市場に来ていた。
「お――――っ ここが市場か、凄い店の数!」
道の両側には肉屋や八百屋、干し肉を売る店、食堂、何やら怪しい品物を売る店などがぎっしりと奥の広場まで連なっていた。
さらに奥の広場には屋台の店でいっぱいである。
お客が店の人と値段の交渉でもしているのだろうか、大声で話をしている様子がそこかしこの店で見られる。
お昼も近いせいか食堂や屋台では食事をする人たちも大勢おり、昼から一杯飲んでいる冒険者風の男たちもいた。
「だめだ、目移りしてどこの店から行ったらいいかわからん!」
俺は商店の多さに喜びの悲鳴を上げていた。
「ま、まずは醤油から探そう。」
嬉々として調味料らしきものを売っている店を探し出して中に入っていった。
店内を見回すと香辛料らしき実がいくつかの箱に入れられており、量り売りをしているようだ。店の奥を見ると何やら液体の入った瓶がいくつも並べられていた。
俺は勝手に発動する鑑定能力を使いながら店の奥の瓶を品定めしていた。
これは、酢か?、酢はいくつか種類があるんだな。まてよ、この黒いのはなんだ?魚醤?魚を発行させて作った醤油か。とりあえず抑えておこう。流石にソースはないか?
「すみません、ソロス(大豆)から作った調味料というのはありませんか?」
「ソロスから作った調味料? そこの箱に入っているハマナットがソロスが原料だよ。」
「これは?黒い豆?液体じゃない? どうやって使うんですか?」
「そのままでも食べられるし、そのままや磨り潰して料理に入れて使うんだ。元々パインコースト国で作られていたんだけど、数年前にこちらに輸入されてからフィールドビヨンドではそれなりに普及したらしい。ただオナシティでは、まだごく一部の人しか知らないんだ。」
何か味噌みたいなにおいがするな。とりあえずこれも買ってみるか。
俺は酢とハマナット、塩、砂糖、それと香辛料を大量に購入してその店を後にした。
次に野菜を扱っている店に行こう。ソーリの森では野生種しか入手できなかったけど、ここにはどんな野菜があるんだ?少しワクワクする。
・・・さん・・・トさん・・・ゼントさん。
ん・・・・?誰か俺を呼んでいるような?
「ゼントさん!」
「あ、あ、はいー!」
市場に夢中になり周りが見えなくなっていた俺にリーナさんが声をかけていたのだ。
「ゼントさん、お楽しみの所すみませんが、もうお昼過ぎなので昼食にしませんか?」
「え? ああ、そうだね、そうしよう。」
広場の時計は既にお昼を過ぎていた。
「食堂はどこも混んでるね。待つの面倒だから屋台で食べないか?」
「そうだね。屋台の方が美味しい場合もあるし。」
俺の提案にミュウも同意してきた。
「ゼントさん、リーナさんはここの領主の・・・。」
ヴェルスが小声で話しかけけてきた。
やばい、そういえば領主の娘さんっだった。
ゼントがバツが悪そうにリーナさんを見ると。
「いえ、私のことは気になさらないでください。私も屋台の食べ物をいただいてみたいので。」
「よろしいんですか?」
「ええ!」
若干、遠くの方からリーナさんの護衛のカップルの嫌な視線を感じるけど、まあいいか。
俺たちは何軒かの屋台を回って串焼きの豚肉とソーセージ、串に刺したジャガイモを素揚げにしたもの、砂糖水にレモンの様な果物の果汁を入れた飲み物を買い込み、公園のベンチで食べ始めた。
「屋台の食べ物もとても美味しいですね。」
リーナは初めて食べた屋台の食べ物に舌鼓を打っていた。
「屋台の食べ物だってバカに出来ないでしょ。」
ミュウがどや顔でリーナさんに話しかけていた。
「ゼントはどう?」
「美味しいんだけど、ジャガイモも肉もソーセージも全部塩味なんだね。」
「ゴード国の料理は大体こんな感じだよ。まあゼントの料理との比較だと単調な味というのは仕方ないよ。」
「素材は良いのに勿体無いな。よし、今日の晩御飯は頑張ろう!」
「そうか、ゼント期待しているぞ!」
「楽しみですね。」
ミュウもヴェルスも目を輝かせている。
「そんなに美味しいのですか?」
「本当だぞ! リーナも食べてみるか?」
やめて、そこまで言うと期待値が高くなりすぎるだろう・・・。
「私もよろしいですか?」
いや、その期待に満ちた目は止めてほしい・・・。
「リ、リーナさんの口に合うかどうか分かりませんが、よろしければ晩飯を一緒に食べませんか?」
「はい、喜んで!」
う、また嫌な視線を後ろの方から感じる・・・。
「それじゃあ、食材を買い出しに行こう!」
肉類はストックが大量にあるので、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎなどの野菜や穀類、香辛料を買いあさっていった。
なぜか市場で売っている野菜はほとんど元の世界と同じ呼び名だった。なんでだろう?俺の世界から人達が広めたんだろうか?
「アラスト(トマト)の実はどこにも置いてないんだな。」
「アラストって、野生の草の名前ですね。赤い実がなると聞いたことがありますが、食べられるんですか?」
「ええ、結構おいしいですよ。ちょっと残念ですね。」
そう言いながらリーナさんの方を振り向くと、リーナさんの周りに『違和感』を感じた。
何か『もやもやした粒子』のような物がリーナさんに向かって伸びているのだ。
一体なんだ?リーナさんは気が付いていない。他のみんなも。
その『もやもや』は、やや離れたところからこちらに向かって歩いてくる男から伸びていた。
その男が早足でリーナの傍を通り過ぎようと時、とても嫌な予感がしたので『もやもやした粒子』を木刀を使い、断ち切ってみた。
その瞬間、男は目を見開いたかと思うと真っ青な顔をしてリーナから遠ざかって行った。
一体何だったんだ?
不思議な経験をした俺は、リーナの方に目を向けて鑑定能力で気が付いた。
あのもやもやが向いていた場所にはリーナさんの財布がある!奴はすりだったのか?
いゃあ気が付いて良かった良かった。
(ゼントさん、今の事について後でお話があります。)
ヴェルスが念話で話しかけてきた。
なんだ、ヴェルスも気が付いていたんだ。




